イタリア(3) トスカーナ州:世界遺産ーフィレンツェ歴史地区(その1) |紀行家 石原牧子の思い切って『旅』第28回

下宿窓から見下ろす青空レストラン。電波拝借

 いよいよ念願のトスカーナにやってきた。トスカーナはイタリアにある20州の一つでフィレンツェ県(〝大都 市〟に移行)、シエナ県、ピサ県など10県からなり、州都は人口374万人のフィレンツェ。トスカーナという名の街があるわけではない。1週間の語学研修をセストリ・レヴァンテ(2019年1月号)で終え、フィレンツェの本校で2週間研修を続ける。

築500年の建物に下宿する

 学校から紹介された家主は3階に住む高齢のご婦人。身長の2倍以上ある巨大な扉を開け大きなホールに入ると石の階段が待っていた。築500年でエレベーターはない。彼女に手伝ってもらうわけにはいかず、重い荷物を持って70段のチャレンジに挑戦する。私の部屋は居間の奥から更に上ったところ。家にWiFiはないので、窓下のレストランから飛んでいる電波を拝借。ボルギさんは3部屋を学生に貸している。英語は一切喋れない。台所は全員共用だ。習いたての辿々しいイタリア語でまずスーパーの場所を聞き出す。ここは通学、買い物、観光をするにはもってこいの場所だ。家賃は自炊で1日22ユーロ。

 世界最多の世界文化遺産保有国でその数は47。さらに世界自然遺産は4箇所ある。中でもルネサンス文化の中枢、世界遺産フィレンツェ歴史地区は昼夜観光客で溢れる。ルネサンス文化を簡単にいうとこうだ。まず外国との地中海貿易の中継地として一番取引をするのに立地条件のよかったイタリアは商業的な発展を遂げた。だが文化人らは古代ローマ文化の再復興を求めギリシャ・古代ローマ芸術の復興活動を盛り上げ、ブームを 起こした。これが14世紀から16世紀に渡って西ヨーロッパ全土に広がったルネサンスだ。当時のイタリアはいくつかの共和国に分かれていてその中の一つ、フィレンツェ共和国はルネサンス芸術家や科学者を数多く擁護し、私たちにお馴染みのミケランジェロやレオナルド・ダ・ビンチ、マキャヴェリ、ガリレオもこの時代を要に世界に名声を博す事になる。

ルネサンス芸術でメディチ家を誇張したコジモ1世のヴェッキオ宮殿、〝500人広間〟

自由に入れる図書館。歴史に囲まれた贅沢なスペース

 授業後、仲間と近所の図書館で宿題を済ませる。歴史に囲まれた学生生活、なんと贅沢なことか。フィレンツェ市庁舎ことヴェッキオ宮殿(Palazzo Vecchio)に行ってみた。風格のある14世紀のゴシック建築の建物は当初も市民のタウンホールだった。ところが1530年代に入り、当時の資産家で有力なメディチ家(Medici)のコジモ1世(Cosimo I)が大改修工事をしてここを自分と妻の宮殿にしてしまったのだ。ジョルジョ・ヴァサーリ(Giorgio Vasari) が描いた法皇気取りのコジモ1世の肖像画が〝500人広間(Salone dei Chinquecento)〟の天井のど真ん中にある。「超エゴ」を絵にするとこうなるのだ。彼はメディチ家の威厳と名誉を賞賛する芸術作品を多く描かせた。メディチ家(14〜18世紀)は4人も教皇を出したと言えばその影響力がうかがえる。宗教的にも権力をもった彼らはローマへも経済的な支援をし18世紀、コジモ3世の代で破産するまで栄華を極めた。

ヴェッキオ宮殿の広場にある〝トスカーナの父〟コジモ1世の像

 フィレンツェの繁栄とルネサンス文化はメディチ家なしには考えることはできない。メディチ家の財宝と傲慢さがあったから芸術家や科学者達も後世に残る傑作や発明を生み出したと言えるのではないか。トスカーナ全域にもコジモ1世は強い政治体制を築き、トスカーナの父とも呼ばれるまでになった。コジモ1世の果敢な銅像が宮殿の横に立つ。なぜか観光客のカメラは入口前のミケランジェロのダビデ像に向けられていた。ちなみにこのダビデ像はレプリカでオリジナルは19世紀にアカデミア美術館に移されてしまった。

宝飾商人で賑わうフィレンツェ最古のヴェッキオ橋。上層はメディチ家専用回廊

 ヴェッキオついでにヴェッキオ橋(Ponte Vecchio 1345年)に足を向ける。日本にもポンテヴェッキオという 装飾ブランドがあるほどその名を世界に知られる橋がある。橋とは感じられないほど幅広く軒並み宝飾店が立ち並び客引きで忙しい。晴れた日は空とアルノ川の青がヴェッキオ橋を挟んで美しい。実はヴェッキオ宮殿からヴェッキオ橋の上層回廊を通って川向こうのピッテイ宮殿(Palazzo Pitti)に続く約1㎞のメディチ家専用の秘密の通路がある。残念ながら未公開だったが、そんな回廊を作るほど人目を避ける必要があったのだろう。それともメディチ家専用のエクササイズルートか?謎の回廊をいつか歩いてみたい。

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石原牧子

オンタリオ州政府機関でITマネジャーを経て独立。テレビカメラマン、映像作家、コラムライターとして活動。代表作にColonel’s Daugher (CBC Radio)、Generations(OMNITV)、The Last Chapter(TVF グランプリ・最優秀賞受賞)、写真個展『偶然と必然の間』東京、雑誌ビッツ『サンドウイッチのなかみ』。3.11震災ドキュメント“『長面』きえた故郷”は全国巡回上映中。PPOC正会員、日本FP協会会員。
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