イタリア(6):トスカーナ キャンティ(Chianti)といえば赤ワイン|紀行家 石原牧子の思い切って『旅』第31回

キャンティ・クラシコの生みの親の子孫が今も住むブロリオ城

 トスカーナ州は東西南北、中央部と都市フィレンツェから成ると前にも書いた。その中央部にあってワイン愛好家が目指すのはキャンティ(Chianti)地方。フィレンツェからおよそ100キロ南のシエナまでの間に広がる美しい丘陵地帯のことだ。キャンティとはどんなところだろうかと日帰りバスツアーに乗り込んだ。この地方にはキャンティの名前が付く集落が6つ以上あって旅行者には紛らわしい。

ブロリオ城から見下ろす広大な葡萄畑

 その一つ、ガイオーレ・イン・キャンティ(Gaiole in Chianti)村。赤ワインで有名なキャンティ・クラシコ(Chianti Classico)生産地の中で特に名高い。生産者は1167年から続くリカゾリ(Ricasoli)家。1200ヘクタールの所有地のうち300ヘクタール近くが葡萄畑とオリーブ果樹園という大地主。ワイン工場から10キロほど離れたブロリオ城(Castello di Brolio)が先祖代々の城で今でも夏には家族が避暑にやってくるという。ベッテイノ・リカゾリ(1809―1880)はイタリアの首相を2度務めた人で事実キャンティ・クラシコの生みの親と言われ、農業やワイン生産に力を入れた実業家兼政治家だ。このような城がこの地方には10軒以上あり葡萄畑に君臨しており中世の田舎のような雰囲気をかもし出している。

ワイン工場の中は近代化でピッカピカ

 20世紀のガイオーレ村は戦後の住民流出で人口が60%も減少しつつも近代化に抵抗し続けて来た。その甲斐あってか後年、独特の中世的なたたずまいが観光客を魅了、移住する人達まで出たという。2008年には「ヨーロッパで一番暮らし易い場所」とアメリカの雑誌で報道されるほどまで知れ渡った。だから〝住みやすさや利便さ〟イコール近代化ではないということだ。ワイン工場は、といえばここは近代化が進み、樽で熟成させる前の工程は全て機械で行われる。工場内は清潔に保たれ、敷地内にはミュージアムがあり、試飲したり、ワインショップ(Enoteca)でお気に入りのワインを買うことができる。ビジネスは確かに近代化して観光客をしっかりおもてなししている。

屈託のない笑顔で迎えるキャンティ住民

 キャンティ・クラシコ組合のシンボルは黒い雄鶏(The Gallo Nero)だが面白い裏話がある。もともとフィレンツェ共和国とシエナ共和国は敵対関係にあった。両者の間に広がるキャンティ地方の取り合いになり、両国の騎士が各々黒の雄鶏、白の雄鶏を持ってどちらが先に定められた朝に鳴かせることが出来るかを競ったところ、故意に餌を与えられずにいた黒の雄鶏が最初に鳴きフィレンツェ側に軍配が上がった。そしてキャンティ地方はフィレンツェに合併されることになる。ちなみにリカゾリ家はシエナに敵対するフィレンツェ側の豪族でもあった。

キャンティ・クラシコを証明する黒い雄鶏のシール

 キャンティ・クラシコはサンジョヴェーゼ(Sangiovese)という葡萄を100%原料として作られている。イタリアのブドウ栽培面積の1位を占めている葡萄だ。だが全てがキャンティワインに使われるわけではなく、モンタルチノのブルネロ(Brunello di Montalcino)などの高級赤ワインもこれを原料としている。フィレンツェから150キロ南にあるモンタルチノは気候がキャンティ地方より乾燥していてより温暖なことが影響しているといわれる。2年から10年も貯蔵されるそうだ。試飲では味はかなり濃厚だった。スーパーで見た値段はドルにして30〜150ドル。キャンティワインの値段はピンキリだがキャンティ・クラシコは独特のステータスがあって高質の赤ワインとされており20〜100ドル程度。

 ヴィンテージ自転車が何台もワイン工場のミューミアムに展示されている。なぜか?エロイカ(英雄L’Eroica)という自転車走行イベントが21年前に発足し、毎年10月に開催されているが、その出発点と最終地がガイオーレだからだ。世界中から約7千人のサイクリストたちが結集する。面白いのは1987年以前の自転車のみ参加できるというガイオーレの歴史にふさわしいユニークな条件付きだ。46キロから209キロの5つのコースがあり起伏の多いトスカーナの田舎道を走るイベントで2019年は10月6日に開催される予定だ。

エロイカ自転車走行に使われたヴィンテージもの

 私の3週間の語学研修も観光しながら無事終了。これからシエナに移動した後、いよいよ念願のトスカーナ、ソロドライブを開始する。何が私を待っているのか、不安と期待に心ときめく。

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石原牧子

石原牧子 オンタリオ州政府機関でITマネジャーを経て独立。テレビカメラマン、映像作家、コラムライターとして活動。代表作にColonel’s Daughter(CBC Radio)、Generations(OMNITV)、The Last Chapter(TVF グランプリ・最優秀賞受賞)、写真個展『偶然と必然の間』東京、雑誌ビッツ『サンドウイッチのなかみ』。3.11震災ドキュメント“『長面』きえた故郷”は全国巡回記念DVDを2018年にリリース。PPOC正会員、日本FP協会会員。 makiko.ishihara@gmail.com