日加修好90周年イベント「隠し身のしるし」開催

日本の1400年の歴史の中で一度は失われた伎楽シルクロードの遺産がひも解く日本文化の深層

東大寺で保存されている伎楽面


 6月21日、日系文化会館ギャラリーにて5月15日から6月27日まで開催されている写真展「隠し身のしるし」のレクチャーイベントが開催された。この写真展では「日本の1400年の舞と武の心体景観」をテーマに東大寺の仏像、伎楽面、春日大社の舞楽面などの写真が展示された。

左:伸びやかに時に激しく踊る 右:伎楽面を付けてパフォーマンスを行う新井春双氏

 写真の撮影を行ったのはフォトアーティスト・映像作家の伊藤みろ氏。伊藤氏は伝統と文化の保存と伝承、交流と共有を通して平和へのメッセージを発信する活動「メディアアートリーグ」を主催している。これまでに「いのちと祈りの人類遺産」をテーマに、日本を代表する奈良の神社や仏閣から特別な許可を得て、世界遺産、国宝、重要文化財の撮影を行ってきた。それらの作品は海外の著名機関にて発表され、写真は神社仏閣、そして世界的な図書館等に寄贈している。

挨拶を述べるゲイリー川口氏


 冒頭に日系文化会館理事のゲイリー川口氏からの挨拶があった。ゲイリー氏は日系文化会館にとって、「隠し身のしるし」のような優れた展示会をホストできることは日本の文化をカナダで発信するまたとない貴重な機会であると語った。

「流動的な日本文化の静と動を見事にとらえた伊藤氏の作品展示は貴重な機会」

スピーチを行う伊藤恭子総領事


 ゲイリー氏の後に登壇したのは伊藤恭子総領事。総領事は来場者と関係者への謝辞を述べた後、この展示会をとても楽しみにしていたと語った。日本の文化には無形のものが多くあり、だからこそ特に日本の伝統文化はとても流動的なものであり、定義するのが難しい。そして我々が日々生活している中や芸術の中にもそうした日本文化の特徴は感じられるのではないだろうかと述べた。この展示会の内容はまさに時空を超えた日本の伝統を目の当たりにする機会であり、その代表として8世紀ごろに建立され、世界遺産にも登録されている東大寺と正倉院にも様々な文化的価値を持った物品が保管されている。その中には伎楽面という伊藤氏が写真に収めている仮面も含まれている。そうした仮面を使った舞踏である伎楽を現代バレエとフュージョンさせた新井春双氏によるパフォーマンスを見ることが楽しみだとも語った。

 最後に、今回のイベントは日加修好90周年イベントの一環であり、今後も多くのイベントが開催されるため足を運んでほしいと挨拶を締めくくった。

「伎楽と西洋を合わせることで世界平和が実現することを願う」

自身の活動と伎楽について語る伊藤みろ氏


 続いて伊藤氏が登壇し、関係者と来場者への挨拶を述べた後、日加修好90周年の節目の年にトロントで展示会を開催できることが嬉しいと顔をほころばせた。伊藤氏はドイツに研究者として滞在したのちニューヨークへ移り、そこで9.11を体験した。そこで何か世界のためにやらなければならないと強く想い、ひらめいたのが神意だったという。そこから仏教や神道の勉強を始めたのだという。その中でも氏が非常に惹かれたのは伎楽。伎楽は平安時代に栄えた舞踏であり、鎌倉時代には衰退してしまった幻の踊りだ。伎楽では面を付け、踊りで物語を表現するコミカルなものだったのだが、その実態についてはわかっていないのが現状だ。その様子を唯一伝えているのが狛近真が「教訓抄」に書き残したメモ程度のものだそうだ。そうして伎楽に関連する活動を続け、伎楽復元を目指す野村万之丞師の伎楽を含めた写真集を出版した。この写真集がきっかけとなり、東大寺が保管している伎楽面の写真をこれまでで唯一撮れることになったという。

会場の様子


 イベントの途中では伊藤氏が制作した「伎楽 仮面の道」を始めとした映像作品が3作上映され、人々は通常目にすることのない伎楽面に魅入っていた。そしてイベントの終盤ではバレエダンサーである新井春双氏が失われた伎楽をイメージして作られた伎楽バレエを披露した。新井氏はこれまでに伊藤氏と伎楽について話し合い、4つからなる伎楽バレエを創作し、その4つの衣装は伊藤氏がデザインを担当した。伎楽とバレエをフュージョンさせた理由について伊藤氏は伎楽をアジアのものとしてやるのではなく、西洋のものと合わせることで世界的になる気がし、それによって伎楽を取り入れた聖徳太子や大仏を建てた聖武天皇の理想が世界平和のために実現するのではないかと思ったからだと述べた。

 イベントの終了後はギャラリーに飾られた伊藤氏の作品を来場者たちは見て回り、伊藤氏に質問をする様子も見受けられた。今後もこうした日本の伝統文化がトロントで発信されて行くことに期待したい。