トロント国際映画祭に出品された 日本関連映画関係者レセプション「JAPAN FILM NIGHT」

国際交流基金トロント日本文化センター・UNIJAPAN共催

左から、UNIJAPANの筆坂氏、清水所長、濱口監督、塚本監督、近浦監督、伊藤総領事


9月10日、トロント国際映画祭(TIFF)に合わせ、日本から出品された作品の関係者を招いたレセプションがトロントで開催された。今年は5部門9作品で日本関連の映画が出品されており、当日は「斬、」の塚本晋也監督、「寝ても覚めても」の濱口竜介監督、「COMPLICITY」の近浦啓監督の3名も来場し、スピーチや参加者との交流を行った。

 はじめに、主催者である国際交流基金トロント日本文化センターの清水優子所長が登壇し、「本日はお越しいただきありがとうございます。ジャパンファウンデーションが主催となり、このJAPAN FILM NIGHTは開催されており、毎年日本の映画製作者の素晴らしい作品が出品されていることを感謝いたします。特に今年は、5つのカテゴリーで合計9作品がノミネートされたことを嬉しく思うとともに、全ての作品がTIFFの観客を魅了することを願っております。本日は3名の監督に日本からお越しいただきましたので、どうぞみなさま楽しんで行ってください」と歓迎の挨拶を述べた。

ジャパンファウンデーション清水優子所長


 続けて、伊藤恭子在トロント日本国総領事が登壇し、監督やゲストに歓迎の挨拶を済ませた後、「650万人が住むここトロントには、映画を愛する人が多く、素晴らしい批評眼を兼ね備えています。また、トロントはマルチカルチャーな都市でもあります。人口の半分以上の人がカナダ以外で生まれており、人々はその違いを受け入れ、認識しています。TIFFもカナダの多様性を象徴しているイベントです。トロントに住む日本人はそれほど多くはありませんが、日本文化は長年に渡ってこの地に住む人々に受け入れられてきました。日系文化会館で毎年開催されているトロント日本映画祭は多くのファンとスポンサーに支えられ、今年で7回目を迎えることができました。

伊藤恭子在トロント日本国総領事


 今回のTIFFは私にとって初めてであり、時間が許す限り映画を楽しみたいと思っていますし、出品された日本映画が多くの人々の心を魅了することでしょう。今夜は3名の監督が日本からお越しになっています。素晴らしい日本酒も用意させていただきました。みなさんが監督と楽しい時間を過ごせることと、監督のみなさんもこのTIFFで素晴らしい時が過ごせることを願っております。」と日本映画がトロントで益々受け入れられていくことへの期待を込めた。

 当日は出席した監督らの映画予告編が紹介されながら、スピーチが行われた。

「COMPLICITY」の近浦啓監督


 「COMPLICITY」の近浦啓監督は、「これまで3本の短編映画を作ってきました。そのうちの一つが昨年のTIFFに出品されたのですが、残念ながらこちらに来ることができませんでした。なので、今年はこの作品でTIFFに来られるよう努力し、実現できて嬉しいです。実は、フライトで観客が誰もいないという悪夢を見たので、多くの観客の方に来ていただいてワクワクするようなプレミアは期待していませんでした(笑)。しかし、到着の翌日に舞台挨拶があったのですが、チケットは全て売り切れ、Q&Aもとても楽しめました。昨日、2回目の上映が行われたのですが、日曜日の夜だったにも関わらず盛り上がり、終了したのは真夜中でした。最後の一人がいるまでQ&Aを続けると言っていましたが、最終的にほとんどの方がQ&Aが終わるまで残ってくださいました。集まっていただいた観客の皆さんに感動すると同時に、この映画の最初の映画祭がTIFFで良かったなと思います。」と長編デビュー作がお披露目できた喜びを語った。

「寝ても覚めても」の濱口竜介監督


 次に、数時間前にカナダに到着したばかりの「寝ても覚めても」の濱口竜介監督が登壇し、「先ほど伊藤総領事が、TIFFには素晴らしく、厳しい目を持った観客が待っていると仰っていたので、この映画がどう受け止められるのか、この北米プレミアでどのような反応があるのか、観客との対話をとても楽しみにしています。皆さんの中でご覧になった方がいましたら、気軽に声をかけていただきたいです。」と、カンヌに続く出品となる映画祭への想いを語った。

「斬、」の塚本晋也監督


 最後に登壇した「斬、」の塚本晋也監督は、「TIFFには、「鉄男」という30年ほど前の映画の頃から呼んでいただき、何度も来させていただいています。今作は「野火」という前作がきっかけでした。「野火」は、日本が少しずつ戦争の状態に近づいているのではないかという恐怖から描いた、戦争を扱った映画でした。この映画を作ることで、その恐怖心が消えるかと思ったのですが、それが3年経っても一向に消えず、不安からくる叫びのような感情が生まれて今作の製作に至りました。銃器や戦車など戦争時代にはたくさんの兵器がありますが、その人を殺す鉄の兵器を、本作では一本の刀に表現し時間を逆行してみました。その刀を見つめる若い男が、刀との関係を通して、人を殺すということについて考えるという非常にシャープに見つめた映画です。この若者の心の叫びが、日本に止まらず、このような場で世界の方に届くことを期待して、今回は参りました。」と映画に込めた気持ちを述べた。

(お名前の順は全て左から)1 トーマス・バータッチェさん、伊藤総領事、塚本監督、サブリナ・バラセッティさん、迫田さん

2 ブラウン栄子さん、ジェームス・ヘロンさん、小山吾郎さん、加藤豊紀さん、マーク橋本さん 3 ウェイン・チャーチャックさん、トム・スチュワートさん、イーアン・ジェセルさん

4 クィーヴァ・クランシーさん、タマラ・シェアバックさん、アンドリュー・チウさん、ファイサル・ラッチメディアルさん、アレクサンドラ・マーフィーさん 5 相澤宏輔さん、市田嘉彦さん

監督コメント

“生々しい感情を映画にした”
「斬、(英題:killimg)」 塚本晋也監督

■前回TIFFに出品された「野火」を受けて今作を製作したと伺いました。

 前作を仕上げた時点ではすっきりし、反応もたくさんいただけたのですが、不安感が残ったままだったのです。要は世の中がもう少し戦争に反対する動きがあるかと思ったのですが、全く変わらずにむしろ進んでいくので、その不安な気持ちをこの映画に取り入れました。映画の中で私の社会的思想を前面に出しているわけではないのですが…。まだ出来上がったばかりなので、こういう映画祭などで、多くの人に気持ちが伝わればいいなと思います。

■戦車などを刀に表現したと仰っていましたが、撮影のこだわりなどを教えてください。

 時代劇の型の美学を追求するのではなく、今の若い人が江戸時代に行って人を斬らなければならない状況に置かれると、どのように感じるかというような、生々しい実感を映画にしました。今も昔も同じ人間なわけですから、根本的な部分は通じるものがあるのではないかと思っています。

“TIFFは観客の文化レベルが高い”
「COMPLICITY」 近浦啓監督

■初めてのトロントはいかがですか?

 とても楽しんでいます。4日前に到着したのですが、まだ観光はできていないので、合間をぬって観光したいです。

■上映後のQ&Aはいかがでしたか?

 観客の文化レベルが高く、映画に対する許容力が広くて優しいなと思いました。当日は深夜だったにも関わらず、最後まで残ってくれて、ハッとさせられるような質問が出てきたり・・・とても感激しました。

■日本ともまた違う雰囲気でしたか?

 そうですね。短編映画でさまざまな映画祭に行きQ&Aは行ってきたので、なんとなく海外の感じは分かるのですが、トロントは他の国とも違い、もちろん日本とも全然違っていました。日本と比べて質問の数も多くてとても楽しかったです。

■今後やりたい作品について教えてください。

 今回の作品は、中国人と日本人の絆の話についてです。なので、それと同じように国境や民族などを超えて、起こる人間のドラマを描けたらいいなと思います。

“初めてのTIFFで観客の反応が楽しみ”
「寝ても覚めても(英題:Asako I&II)」濱口竜介監督

■TIFFの雰囲気はいかがですか?

 日本で行われるこのようなレセプションと比べ、多様な人たちが集まっていて、活気のあるパーティーですね。

■上映やQ&Aなどこれからですが、どのように感じられていますか?

 TIFFの評判はずっと聞いていました。北米最大の映画祭であり、審査員も観客の目も育っていて、厳しいと。そこでどのような反応が得られるかというのは楽しみにしています。

来場者コメント

“日本映画は芸術的”
イーアン・ジェセルさん(ロサンゼルス・プロデューサー)

■日本映画にどのような印象をお持ちですか?

 日本映画はとても芸術的です。私自身生まれはヨーロッパなのですが、ヨーロッパでは日本映画が高く評価されています。ただ、字幕がある映画を見ることに慣れていない北米では、ヨーロッパの人たちに比べて日本映画の評価は厳しくなるかもしれませんね。

■なぜ日本映画は世界を魅了するのだと思いますか?

 まず言えるのは、世界が日本文化を好きであること、そして黒澤監督の精神を引き継ぐ素晴らしい監督がたくさんいること、伝統的な日本人監督が健在していることだと思います。ヨーロッパでは、監督業を芸術としてみなします。個人的にも日本そのものが好きでこれまでに5回ほど訪れましたが、日本文化はとても素晴らしく、素敵な場所だと感じています。

“日本と西洋はお互いに影響を受けあっている”
左から: キック・ハヴィランドさん・ケリー・マイケル・スチュワートさん

■日本関連の9作品の中で、お2人が注目されているのはどの作品ですか?

キック氏: 「斬、」がとても良かったです。私は「七人の侍」の大ファンなのですが、それとはまた違う視点で描かれていたところが面白いなと思いました。塚本監督の新しい作品も楽しみです。

ケリー氏: 私も「斬、」は観たいですね。あとは、「万引き家族」にも注目しています。これまで何度か「万引き家族」の是枝監督にお会いしたことがあるのですが、彼の映画のスタイルがとても好きです。

キック氏: 是枝監督の映画のクオリティが素晴らしいのは明白です。もちろんTIFFに出品されている他の作品もとても楽しみにしています。

■日本映画と北米映画の違いは何でしょうか?

ケリー氏: 文化だと思います。日本映画は文化や歴史を描く傾向があると思います。一方、北米は多国籍文化なので、カルチャーの観点では印象に残る作品は少ないですね。

キック氏: 日本映画は西洋映画に影響を受けているし、西洋映画もまた日本映画に影響を受けていると思います。そして日本映画は西洋文化も日本文化もどちらも取り入れているので、私たちも楽しめるのだと思います。