日本美術 in Toronto 第10回

ロイヤル・オンタリオ博物館 日本美術展 ロイヤル・オンタリオ博物館
日本美術展 「第三のジェンダー 若衆と浮世絵」展 開催
2016年5月7日〜11月27日

Utamaro School,Wakashu and Woman, 1790s.Royal Ontario Museum

Utamaro School,Wakashu and Woman, 1790s.Royal Ontario Museum


 先月7日に日本の浮世絵の展示会 A Third Gender: Beautiful Youth in Japanese Printsがロイヤルオンタリオ博物館ROM(以下ロム)にてオープンしました。TORJAにこのように執筆させていただき、また他のトロント日本コミュニティのご尽力のお陰で、思っていたより多くの観客の人々にご来場いただき、大変感謝しております。

 前回のコラムでもお話させて頂きましたが、ロムにはカナダで最大の日本美術コレクションが保管されており、展示会では約80点の作品を展示する予定です。展示会は日本美術をトロントで鑑賞する非常に稀な機会となりますが、それと同時にジェンダーやセクシャリティといったテーマについて考えるという意味をもったものでもあります。

 江戸時代の部分を紹介する4つのセクションから成り立っていますが、前回は始めの2つのセクションについて説明させていただきましたので、今回はその後の2つのセクションを中心にお話させていただきます。

 第3のセクションは若衆と女性が描かれている作品に焦点をあてます。若衆は元服を迎えるまえの若い男性の事を指し、全ての男性が思春期においては若衆でした。若衆の中には念者(ねんじゃ)と呼ばれる成人男性と男色(なんしょく)の関係にある者もいましたが、若衆は成人男性だけではなく女性にも大変人気がありました。それゆえ、浮世絵では若い女性と若衆がカップルとして描かれているものが多くあります。また、若い女性だけではなく、若衆は年増の女性からも人気があったといわれています。儒教の教えでは男性の方が女性より地位が高く、男女の関係では男性が能動的、女性が受動的な役割を担うことが多かったのですが、女性が年上の場合は、女性が能動的な役割を担う事が可能だったようです。実際、女性のほうが若衆に言い寄っているような場面が浮世絵に多く描かれています。

左)Kitagawa Utamaro,  From the Series Twelve Forms of Women's Handiwork, late 18th century. Royal Ontario  Museum 右)Suzuki Harunobu,  Two Lovers Playing a Single Shamisen, 1766-69. Royal Ontario Museum

左)Kitagawa Utamaro, From the Series Twelve Forms of Women’s Handiwork, late 18th century. Royal Ontario Museum
右)Suzuki Harunobu, Two Lovers Playing a Single Shamisen, 1766-69. Royal Ontario Museum

 また、若衆は若い女性と共に新年を祝う作品で描かれることも多かったことが知られています。というのも、若衆はその若さゆえ、エネルギーに満ちあふれていると捉えられる事が多く、「めでたいもの」のシンボルとして使われる事がありました。展示会では若衆と若い女性が一富士二鷹三茄子(いちふじにたかさんなすび)と一緒に描かれている作品を数点展示しています。そして今日「美人画」というと美しい女性を描いた作品を思い浮かべる事が多いですが、若衆の人物画も美しい人という意味で「美人画」として捉える事ができます。実際に若衆の人物画と美しい女性を描いた作品とで同じような構図をみることが多々あります。

 第4のセクションでは若衆の人気にあやかり、若衆の格好をするようになった女性を描いた作品を展示しています。羽織芸者といわれる、男性の羽織を来て若衆の髪型を真似た女性が、特に今の東京の深川のような場所(吉原と対照的に売春が政府に認められてない場所)に江戸時代後期に出現しました。このような女性は特に歌川派の作品(歌川国貞と国芳)に見る事ができます。また、主に展示会では若衆•男性の女装(特に歌舞伎など)について考察することが多かったので、逆にこのセクションでは「女性の男装」について触れることにしました。江戸時代以前に活躍した女性の侍として知られる巴午前(ともえごぜん)を描いた作品、また「おくに」と呼ばれる歌舞伎を始めたことで知られている、男装をしてパフォーマンスをした女性を描いた作品を展示しました。裸の女性二人がディルドと共に描かれている女性も最後に見ることができます。

 展示会カタログはロムのギフトショップでお求めになれます。展示会に関して行われるプログラムとしましては、6月7日にブリティッシュコロンビア大学アジア研究学部ジョシュア•モストウ教授が“It’s Complicated: Gender Ambiguity in Early Modern Japan” と題された講義を行う予定です(性的描写作品を扱う講義のため、ロムは18歳未満には推奨していません)。また、6月21日にはトロント大学のセクシャルダイバーシティースタディー学部とのコラボレーションで私を含め数人の学者が“Lost in Translation? Gender and Sexuality across Time and Cultures”と題したパネルディスカッションを行う予定です。是非ウェブサイトでご覧の上、足をお運びください。



asato-ikeda池田安里/Asato Ikeda

ニューヨーク•フォーダム大学美術史助教授/ロイヤルオンタリオ博物館研究者(2014-2016)。ブリティッシュ•コロンビア大学博士課程を首席で卒業し、カナダ政府総督府より金メダルを受賞。著書に「Art and War in Japan and its Empire 」(監修 ブリル出版)、 「Inuit Prints: Japanese Inspiration」(共著 オタワ文明博物館出版)等。