トロント国際映画祭『よこがお』上映 深田晃司監督 インタビュー|カナダを訪れた著名人

 昨年度上映された『淵に立つ』に続き、『よこがお』が今年のトロント国際映画祭で上映となり、深田晃司監督が来加。今回は深田監督に作品やご自身の考えについてお話を伺った。

〝作家が自由気ままに映画や小説など表現していく環境を作ること、いかにマイノリティの価値観を取り入れるかが大事〟

ー前回のトロント国際映画祭での『淵に立つ』上映から一年、今回は映画『よこがお』が上映されています。ご心境はいかがですか?

 僕の作品は普段ヨーロッパ、特にフランスで上映される機会が多いのですが、海外で上映されるたびに緊張しますね。今回の映画は、その始めとして北米のトロントで上映されるということで、嬉しいです。また、映画好きな人たちに見ていただけるので、楽しみにしていました。

ー今回で2回目のカナダということですが、カナダで楽しみにしていることはありますか?

 ナイアガラの滝は、今回の映画祭でご一緒した黒沢清監督がおススメしてくださったので、楽しみにしています。「ナイアガラを見に行くと思えば小さいけれど、滝を見に行くと思うと大きい」と言われました(笑)。

〝トロントはお客さんの反応を直に感じる〟

ー『淵に立つ』は第69回カンヌ国際映画祭で上映され、「ある視点部門」を受賞されました。ご自身の作品が海外で上映される機会が多いと思いますが、日本で上映されるときとの違いはなんですか?

 日本と海外、トロントとヨーロッパで違いを感じます。欧米の方は、反応が大きいですね。お客さんがスクリーンで受けた印象が直に跳ね返ってきます。上映中、どっと笑ったり、息を飲んだり、おおっという声を上げているのを頻繁に聞きます。今回の『よこがお』上映時も、お客さんが集中して見てくださって、映画とお客さんが交じり合っているような気がして、嬉しかったですね。

〝筒井真理子さんは演技に対する取り組み方が良かった〟

ー『淵に立つ』でも主演されていた筒井真理子さんが、『よこがお』でも主人公を演じています。今回再びキャスティングされたきっかけや撮影中のエピソードはありますか?

 『淵に立つ』製作時に、筒井真理子さんの演技力が素晴らしく、演技に対する真面目な取り組み方が好印象だったので、もう一本映画を一緒に撮りたいという思いが私にもプロデューサーにもありました。脚本が完成する前に出演の承諾はいただいていたので、安心して自由に脚本を書くことができました。筒井さんだったらこなしてくれるだろうという大きな安心感があり、楽しい脚本執筆でした。

 撮影中は、筒井さんは準備に時間をかけて丁寧に取り組んでくださいました。筒井さんには訪問看護師の方に同行してもらったり、スタッフが入れないので終末医療の患者さんの訪問を一人でしてもらったりもしました。準備をしっかりすることでカメラの前では自由に演じてくれる、筒井さんは野球界で言えばイチローみたいな天才だと思います。

 今映画祭のQ&Aでも、筒井さんの演技力を高く評価してくださった方がいました。映画監督の仕事は良い俳優を使うことだと言ったら笑いが起きましたが、筒井さんの演技力が世界に伝わると実証できたのはよかったです。

ー映画のなかで、主人公の市子は加害者家族という立場に立たされます。監督がそのような問題に意識が向いたきっかけはありますか?

 最初からその部分を描くつもりだったわけではありませんでしたが、直接的に加害していないのに突然追い込まれていくストーリーを描きたかったです。自然災害かもしれないし、交通事故かもしれないですが、自然の営みや暴力によって誰しもそういうことに巻き込まれるリスクはあります。本人でなく身近な人間が罪を犯すという設定にしました。

 日本のメディアでは、この映画がリアルだという人もいれば大げさだという人もいて評価が分かれると思いますが、こんなもんじゃないかと思います。芸能人が罪を犯すとすぐバッシングされたり、煽り運転の事件でも同乗者がバッシングされたりと日本ではそういうことが繰り返されています。また、連続幼女殺害事件の加害者家族が事件後離散するなど、そういうことを自分が見聞きしながら育った影響もあります。

ー映画製作のあとに、結末の違う同名の小説も執筆されています。何かきっかけはありましたか?

  もともと自分は小説家志望でした。こつこつひとりでやってるほうが性に合っていて、10代の頃によく書いていましたね。小説は書き始めると脚本よりつらい部分もありますが、楽しいです。今回の映画がきっかけで、株式会社KADOKAWAからオファーがあり、執筆することができました。

〝今度は一から小説を執筆したい〟

ー将来何か執筆したい小説はありますか?

 映画製作中または製作後にオファーを受けてから書くことが多かったので、一回くらいは一から物語を作ってみたいですね。

ー深田監督ご自身は小説を書いたり、アゴラ映画祭を企画されたり、フランス人小説家バルザックの作品のアニメーション製作をしたりと幅広い活動をされてきました。今までの人生の中で転機はありましたか?

 中学生のときに観た映画『ミツバチのささやき』をきっかけに映画にのめりこんでいったので、今でもその影響は大きく感じています。

〝10代の頃にインプットしたものの影響が大きい〟

ーそのいろいろな経験が映画製作に活きてると感じている部分はありますか?

 10代の頃に見た映画や小説、テレビゲームなど、その時代の貯金が一番大きいですね。映画を作り始めてからはその時期のインプットをアウトプットしています。10代の時間が一番大きいです。

〝スクリーンの世界は現実と近くであってほしい〟

ー映画『よこがお』を見たお客さんが、この物語をどう受け取ってほしいなどはありますか?

 解釈は任せますし特に決まったメッセージはありませんが、スクリーンの世界は私たちの世界と近くあってほしいと思いますね。小説や映画など、芸術はいろんな役割を担っていると思います。

 主人公市子が経験した理不尽な出来事は誰もが経験するかもしれないし、妻や恋人がいても孤独を感じたり、死の恐怖を感じることはあると思います。それに対してどうするべきという答えはないですが、心地よさだけではない切実な実感をスクリーンに残したい。ふとした瞬間に思い出してほしい人生の予行演習という感じです。

 フランスの小説家バルザックは、「私たちは孤独である。だけど孤独であることを語り合える友人がいることはいいことだ」という言葉を残しています。映画がそんな存在になってくれればいいなと思いますね。

〝弱い女性を描きたかった〟

ー過去のインタビューで、立場の弱い女性が描かれるのは、日本社会の男性優位を反映しているからだとおっしゃっていましたね。

 日本にいたら(男性優位を)感じないほうがおかしいと思います。映画界でも監督やプロヂューサーは男性が多いですし、役員が全員男性の企業も多くありますよね。医大で女性の受験者が不正に10点マイナスになっていた事件もありました。そのように日本では、社会的な暴力が当たり前のように残っていると感じます。強い女性を描くのもいいですが、現実では女性はまだ弱いという部分を描きたかったです。

ー過去インタビューの中で、映画はその時代のプロパガンダだともおっしゃっていました。映画の役割や、現在の日本映画に対して感じることはありますか?

 映画はプロパガンダになり得るし、そのように利用されてもきました。作家が自由気ままに映画や小説など表現していく環境を作るのが大事だと思いますね。多数決は民主主義の一面であって、いかにマイノリティの価値観を取り入れるかが大事です。多様な価値観、目に見えない考え方が可視化される社会が大事。作家ひとりひとりが民主主義を意識しながら創作する必要はありませんが、できるだけ自由に作れる環境を社会が準備する必要があると感じます。

ー今後の活動で新たに始めたいことはありますか?

 新しい映画を製作したいです。自分にとっては毎回毎回一からのプロジェクトという気持ちで臨んでいます。

ー今構想してる映画はどのような題材ですか?

 まだ脚本段階ですが、1つは子供のいる夫婦の恋愛ドラマです。もう1つは10年前から構想していますが、日本の昔ばなしが原作で、親に両手を切られて捨てられてしまう女の子の物語です。

ー最後に、トロントにいる学生やワーホリ生にメッセージをお願いします。

 10代や大学生の頃に見聞きしたことが、その後の人生や考え方の礎になっていると感じています。若いうちに様々なことを見聞きしてほしい、その中に自分の映画が入ってくれればと思います。

「よこがお」全国上映中

配給: KADOKAWA

©2019 YOKOGAO FILM PARTNERS & COMMEDES CINEMAS

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