園長先生!気付けば息子も大きくなりました…第68回「他人用“若葉マーク”」

「他人用“若葉マーク”」

23年前に誕生した「池端ナーサリー・スクール」。その園長であり創設者の池端友佳理さんのそばにはいつも日系三世のご主人・マークさんと現在24歳の健人くんがいた。母親であり、教育者であり、また国際結婚移民をした友佳理さんとその家族の笑いあり、涙ありの人生をシリーズで振り返ります。


最近、SNSで見かけた記事の中でとても気になるものがありました。

ある若い夫婦が3人の小さな子供達を連れてレストランへ入った時の事。空いているテーブルにサーバーが案内した際、すぐ隣りのテーブルに座っていた夫婦が家族連れを見て、別のテーブルへ移って行ったと言うのです。子供達を見たとたん、妻が顔を背けるかの様に態度をあからさまにし、夫が席を替える様にサーバーにリクエストしたという事です。その家族連れ曰く3人の子連れだと、周りの人がそう言った態度に出る事は初めてではないとの事らしく、しかし子供達が迷惑をかけた訳でもなくただ見ただけでその夫婦がそう言う態度を取った事にどうしても納得が行かず、3児のお母さんはサーバーに聞いたそうです。どうしてあの夫婦は席を移動したのかと。そうしたところ、サーバーはそっとこう言いました。「あのご夫婦は最近お子さんを亡くされたそうで…奥さまが他のお子さんを見る事すらも今はお辛いとの事だったのです」と。

3児のお母さんはそれは何とも言えぬ気持ちになったそうです。

「子供はうるさい、しかもそれが3人ともなれば一層うるさいに違いない」と思っているのだろう、と、決めつけていたのは自分の方で、まさかそんな背景があったとは…。

この記事は、人が他人の事を勝手な憶測で判断する事への警笛を鳴らす目的でこの3児のお母さんがSNSに投稿したものの記事でした。
本当にその通りだと思いますし、私も体験した事があります。

私達家族が可愛がっていた犬が、病気でそろそろいつ他界してしまってもおかしくない程状態が思わしくない時の事でした。2匹飼っているうちの元気な方の犬が散歩に行きたくて玄関先でワンワン吠え始めると、病気の犬もよたよたと立って玄関先に向かおうとするのです。でもどう頑張っても散歩する程歩けはしません。なので、抱っこ紐の中に入れて一緒に外に連れて行ってあげていたのです。散歩中にそれを見たある女性が私に言いました。

「自分で歩きもしない犬なら散歩に連れて行く必要ないんじゃないの?そんなに甘やかしてどうするの?」と。私は静かに説明しました。「この子はパピーに見えるけれど結構歳は行っていて、病気で明日にでも死んでしまうかも知れない状態で、全く脚に力がないから歩けないんだけど、どうしても外に行きたがるからせめて最期は好きな様にさせてあげたいのよ」と。その女性はしきりに謝って「その仔(犬)はステキな家族の元で可愛がってもらえて、幸せね」と言ってくれました。このように言葉に出してくれたからこそ説明もできましたが、同じ様に思っていても何も言わずに通って行く人が居たかもしれません。いえ、普通だと、黙って通り過ぎて行く人の方が多いのだと思います。そのくらい、こういう出来事は人が気付かない事もたくさんあるのだと思います。

車の運転の初心者が道路でモタモタしていても初心者だと分からず、その周りにいるものはイライラさせられているのかもしれません。そう考えると日本の初心者マーク(若葉マーク)は画期的な発想ですよね。

私は日本で天災に見舞われた避難地区の中で、障碍児を抱える家族の苦痛な日常生活を思い出していました。まず、天災の中避難するだけでも苦痛なのに、小さな子供と一緒に避難する、ましてや、その子供が見た目だけでは分からない障害を抱えていた場合、どれほどの苦労が伴う事か、想像を絶する思いです。子供が言う事を聞かない、大声を出す、暴れる、常識はずれな事をする…それは、ただ単に親のしつけが悪いからと言うだけではないことも多々あるのです。でも、そんな事を親はいちいち説明付けながら他者に接する事はありませんから、人は勝手な偏見で「親のしつけがなっていない」の一言で片付けてしまう事もありがちです。

いえ、子供だけではないでしょう。人がどのような背景を背負って今その場にいるのかなんて誰にも分からないのですから、見た目を自分の勝手な憶測だけで判断・非難などせず、心のどこかに自分なりに『他人用若葉マーク』を付けてあげられる余裕を身に付けたい、と常々思っています。


池端友佳理ー 京都出身。大阪の大学看護科を経て同大学病院の産婦人科で看護師として経験後、1990年に渡加。伴侶は日系カナダ人三世。一人息子(大学生)の母。1993年に自宅で池端ナーサリー託児所を開設。1999年日系文化会館内に池端ナーサリースクールを設立。園長を勤める傍ら、カナダ唯一の産後乳房マッサージ師として活躍中。