「抱っこと遺伝子、子供の一生」 | トロントの日系幼稚園の園長先生コラム【第78回】

TORJA読者の皆さま、明けましておめでとうございます!

取り留めのない文で、頭に浮かんだ事を気ままに書かせて頂いて早7年。自分でも驚いておりますが、色々な形でフィードバックをいただき、それを糧に続けさせていただいています。心より感謝申し上げると共に、今年もまたよろしくお願い致します。

さて、長年執筆していると、自分の信念が強く書きたい事が重なる事もあり、似た様な事を以前書いたのかどうか…それすらも分からなくなる事があります(笑)。子供や赤ちゃん関連ですとなおさらなのですが…。今回は新しい報告もあり少し重複して「抱き癖」について。

赤ちゃんが泣いているからと言ってすぐに抱き上げてあやそうとすると「泣いてすぐにそんなに抱っこばかりしていたら〝抱き癖〟がついてしまうから、良くないよ」とたまに言われるのですが、それは本当でしょうか…と聞かれる事がよくあり、以前このコラムの中で『赤ちゃんの抱き癖』に関連した記事を書いた事がありました。

特に北米では、生まれて間もなくから赤ちゃんとは別の部屋で寝る事が一般化されて来たこともあり、赤ちゃんを寝かしつける際や夜泣きなどで抱っこはすべきかどうか、悩んでいる新米ママ達もたくさんいます。

言葉で自分の感情や欲求を説明することの出来ない赤ちゃんにとって、泣くことでしか自分の意志を伝えることが出来ないのですから、私は常に抱っこはいくらでもしてあげて良いんですよ、と言い続けて来ました。

そんな中、先ほど嬉しいニュースを読んだのです。ブリティッシュ・コロンビア大学病院の小児研究所で、子どもたちが健康に人生をスタートさせられるためのプロジェクト「ヘルシー・スターツ(Healthy Starts)」によると、「生まれてすぐの赤ちゃんをたくさん抱っこすることが、その赤ちゃんたちの遺伝子に影響してその人の健康を一生、大きく左右する可能性が大きい」ということが遺伝子学的なレベルで、医学的に証明されたというのです。

その研究とは、生後五週目の赤ちゃんの親たちに子育て記録をとってもらい、赤ちゃんの様々な感情や状態、主にどのくらい親(やケアギバー)と肉体的に接触していたかということを記録してもらい、そのスタート時より4年6ヶ月後に、成長したその子どもたちのDNAを採取して調べたところ「親との接触の時間の差が、DNAの生物学的な優劣と比例していた」ということがはっきりと示されたというものです。

赤ちゃんを取り巻く両親や祖父母、その他のケアギバー等による抱っこ等の肉体的な接触がたくさんあるかないかで、赤ちゃんの遺伝子〝体の免疫と代謝に関係するDNA〟に明らかな差異が出る、簡単に言うと、生まれてすぐの頃から乳幼児期に抱っこなど接触をたくさんもってあげることで、遺伝子に良い様に影響して免疫と代謝を良好にするため、肉体的にも精神的にもその子を「健康」な状態にするのだそうです。

この子どもの時に生じるDNAの差異が、その人の健康に一生影響するかもしれない可能性を持つ…この研究により、私達カナダ在住と日本を主なバックグラウンドにしている者達にすると、生後間もない赤ちゃん達への接し方を推奨したり、見直したりする素晴らしいきっかけとなるでしょう。

また、例え赤ちゃんの病気やお母さんの産後の状態等によって、生後致し方なく両親と赤ちゃんとが別離の道を余儀なくされる事があったとしても、この研究を元に取るべき最高の手段を示唆してくれるかもしれません。

ただ、この結果を知り私の脳裏によぎったのは、別の危険に取り囲まれた戦闘直下で生と死の境に置かれ、恐怖と闘いながら生きていくにのに精一杯の妊娠中のお母さん、新生児、乳幼児、また家族と離ればなれになってしまった子供達のことです。子供と平穏な時間を過ごすこともままならず、生きていくのに精一杯…そんな環境の子供達のことを考えると、今、この恵まれた幸せな環境に慣れ過ぎている私には、地球の裏側で起こっている恐ろしい現実の本当の姿をを想像することすら出来ません。ただ、この新年に思う事は、ただただ世界の平和であり、子供達…私達の次の、そしてまたその次の世代に置いて戦争のない世界。子供が笑顔であり続けられる世の中を心から願って止みません。


池端友佳理

京都出身。大阪の大学看護科を経て同大学病院の産婦人科で看護師として経験後、1990年に渡加。伴侶は日系カナダ人三世。一人息子(大学生)の母。1993年に自宅で池端ナーサリー託児所を開設。1999年日系文化会館内に池端ナーサリースクールを設立。園長を勤める傍ら、カナダ唯一の産後乳房マッサージ師として活躍中。