検証!ハーグ条約は まだ生まれていない子には適用されない? | 私、国際結婚します!! でもちょっとその前に知っておきたいお話【第18回】

「ハーグ条約って子供が生まれる前に帰ってきた場合は関係ないんでしょ」

国際結婚した娘を持つ父親のこのコメントをご記憶でしょうか(2017年6月号)。この時私が書いた「妊娠中に離婚した場合でも養育費問題などが発生するカナダですが、妊娠中の母親が国境を超える場合の対応に関しても、じっくり調べてみる必要がありそうですね」を読んでくださった方から「あれ、わかりました?」とおたずねいただきました。

そこで今回は、母親が妊娠中に日本に戻り出産した場合、父親は、生まれた子供のカナダへの返還を求めることができるのかについてお話ししましょう。

決め手はなに?

判例を重んじるイギリスのコモンローを受け継いでいるオンタリオ州の裁判では、 判例、法令、そして裁判官の裁量の3つが判決に影響を及ぼします。ですから、一見よく似たケースに異なった判決が下される場合もあるのです。

とすれば、「ハーグ条約が妊娠中の子に適応されるかどうかは、その時々の裁判官の裁量による」というのが、最も安全な答えなのかもしれません。しかしそれでは身も蓋もないので、判決に影響する他の二つ、判例と法令に頼ってみましょう。

生まれる前の子供は?

まず判例ですが、出産前の子供、あるいは、母親が国外へ出た後生まれた子供に対する子の返還要請に関する判例は見つけられませんでした。これが、申請が却下されたためなのか、これまで誰も申請したことが無いためなのかは、定かはありません。 

それでは、法令はどうでしょう。この場合の法令とは、ズバリ、ハーグ条約ですので、通称ハーグ条約「国際的な子の奪取の民事上の側面に関する条約」を調べてみました。

ハーグ条約第4条では条約が適用される「子」が以下のように定義されています。

The Convention shall apply to any child who was habitually resident in a Contracting State immediately before any breach of custody or access rights.

キーワードは、habitually residentですね。これは、子どもが日常生活していることを指します。

では、生まれる前の子どもは、「生活している」のでしょうか。

一般的な法の解釈はこうです。「母親のお腹の中にいる子は、生命を持って生きているが、生活しているのではない」

従って、妊娠中の母親が日本へ出産のため里帰りし、そのまま日本に留まることを選んだ場合には、ハーグ条約は適応されないのです。

子どもが日常生活している場所

さて、ハーグ条約における「子どもが日常生活している場所」の定義にとって最も大切なフレーズは、immediately before any breach of custody or access rightsです。例を挙げて説明しましょう。

Aさんは、日本生まれの日本育ち、8歳の時両親と一緒にカナダに引っ越しました。1年ほどカナダで暮らしましたが両親が離婚することになりました。Aさんは英語よりも日本語の方が上手く、家族や友人とのつながりもカナダではなく日本の方が深いことから、母親は、「Aさんが日常生活していた場所は、たった1年暮らしたカナダではなく、生まれてからずっと8年間も暮らしていた日本だ」と、主張しました。

しかし、ハーグ条約が定義する子どもが日常生活している場所とは、親権や面会交流権が侵害される直前に暮らしていた場所であり、必ずしもその子にとって最も親しみのある場所ではないのです。

さらに、判例では、子どもが暮らしていた年月の長さにかかわらず「両親が生活する意志を持って、国交を越える連れ去りが起きる直前に子供と一緒に暮らしていいた場所」であるとしています。

ですから、たとえば日常、カナダで生活している母子が休暇中のハワイから父親に許可なく日本に飛び立った場合、父親は子のカナダへの返還を求めることができます。しかし、日本で日常生活を営む家族が、父親の故郷カナダを訪れていた場合、母子だけが日本へ帰国したとしてもハーグ条約を当てはめることはできません。

いかがでしょう。ハーグ条約に関する理解をさらに深めていただけたでしょうか。国際結婚する前に、国際法であるハーグ条約について理解することは欠かせませんね。11月の勉強会では、国際結婚や離婚に関するオンタリオ州の法についても学んでいただきたいと思います。

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野口洋美 心理学名誉学士(HBA)、コミュニケーション学修士(MA)

オンタリオ州公認パラリーガル、国際離婚経験者のピアサポートグループAPJW(NPO)理事
別居や離婚を経験することになった日本女性の相互支援(ピアサポート)団体(web:apjw.info)の代表として、自立に向けての様々なテーマで勉強会を毎月開催。国際離婚関連の執筆多数。離婚駆け込み寺(日加タイムス)、ひとり親のつぶやき(mamma、日系ボイス)など連載。2014年、国際離婚とハーグ条約をテーマにヨーク大学にて修士論文を発表。法律通訳としても活躍中。

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