東北の小さな酒蔵の復興にかける熱い想い 第51回

トロントの日本食レストランでも良く見かける、岩手県の銘酒である南部美人。実は南部美人の蔵は2011年3月11日の東日本大震災で被災した蔵のひとつだ。南部美人の5代目である久慈氏は震災直後から日本酒を通じて地域復興に様々な取り組みを行ってきた。TORJAでは久慈氏が体験したこと、復興に向けての取り組みなどを寄稿してもらった。

被害状況を伝える地元新聞

被害状況を伝える地元新聞

2016年8月30日、台風10号が観測史上初めて岩手県に上陸をしました。いつもは九州や四国などに台風は上陸して北上するパターンが多いのですが、今回の台風10号は発生から迷走を重ね、なんと観測が始まって以来、初めて東北に上陸をする台風になるのではないかと言われ、最大の警戒をしてきました。そして、30日の午後に岩手の沿岸部から上陸した台風10号が強い勢力を保ちながら岩手県を横断していきます。

私たちも古い酒蔵は200年前の建物ですので、それが飛ばされないように出来る限り補強したり、土嚢を積んで会社に水が入ってこないようにしたり、万全の備えをして、早めに社員を帰宅させました。

今までで誰も経験したことがない台風の上陸。いつもは勢力が弱まってから岩手県を通過していくのですが、色々な専門家が事前に話している内容はとんでもない話ばかりで、蔵は吹っ飛んでしまうのではないかと思うほど心配をしました。

上陸してから数時間で台風は岩手県を抜けていきました。風や雨は今まで経験したことがないほどの強さで、本当にびっくりしました。雨や風が弱くなって、少ししてから蔵を点検に行ってきましたが、水の被害もなく、建物も無事で、空ビンなども飛ばされず、蔵のほうは被害はほとんどありませんでした。

安心していると1本の電話が入りました。「今週末の二戸祭りで出る山車の入った小屋が1つ倒壊している」と言われ、見に行くと、まさに出来たばかりの山車を格納している小屋がつぶれてしまっていました。これではお祭りに出ることは難しく、担当している人たちの落胆ぶりは目を覆うほどでした。楽しみにしていた子供たちの笑顔はもう見ることが出来ないと思うと、私もとても悲しくなりました。

しかし、幸いにも人的な被害は無かったという事で、それだけでも救いだと思いました。一夜明けて、岩手県内の被害状況が分かってきました。沿岸部、特に宮古市、久慈市の被害が大きく、宮古市では県の中央部につながる道路が寸断。水害も発生。久慈市は中心市街地が川の氾濫で水没してしまい、大変な状態になっていました。

そしてさらに大きな被害が出たのが、国の天然記念物「龍泉洞」で有名な岩泉町です。老人ホームが1棟水没して10名近くが心肺停止と報道されました。さらには孤立集落が多数あり、全町で停電、携帯電話はつながらない、川が氾濫して土石流もあるみたいだ、など、東日本大震災並みの大きな被害を予想させる連絡がありました。

岩泉町は、日本一広い面積を持ち、東京23区がすっぽり入るほど広い町なので、救助活動も困難を極めます。水がきれいで水が豊富、そして水の恵みをたくさん受けている岩泉でまさかその水が牙をむくとは思いませんでした。久慈市や岩泉町の沿岸部の方々が、東日本大震災よりもひどい被害だという方もいました。

地球全体の温暖化などにより、この数年、あまりにも異常気象が続きます。津波や地震だけではなく、こういった台風などにもくれぐれも気を付けなければいけないと痛感しました。


オンタリオ取扱い代理店:
nanbu-bijin-sakeOzawa Canada Inc
現在トロントで楽しめる南部美人のお酒は、「南部美人純米吟醸」とJALのファーストクラスで機内酒としても採用されている、「南部美人純米大吟醸」の二種。数多くの日本食レストランで賞味することが可能。
南部美人
http://www.nanbubijin.co.jp



kuji-kousuke-sake本文:南部美人 五代目蔵元
東京農業大学客員教授
久慈 浩介