白ふくろうのネタ探し #9 最低賃金15ドルは本当にいいの!?

最低賃金15ドルは本当にいいの!?

今年の1月号で、オンタリオ州の労働基準法Employment Standard Act. 2000の見直しが進められているとご紹介しましたが、その全貌が見えてきました。オンタリオ州政府予算で提案されたその改正案の最大の注目は、最低賃金。

現在、オンタリオ州の最低賃金は一般職で時給$11.40。オンタリオ州では毎年物価相当分引き上げることが約束されており、その引き上げ幅は毎年4月に決定、その年の10月1日から適用になります。2017年は$0.20引き上げられることが決まっており、10月1日から$11.60となります。

ところが、オンタリオ州政府が提案した最低賃金案は、なんと2019年までに$15.00まで引き上げるというもの。段階的に、2018年1月より$14.00、2019年1月より$15.00となっており、たった1年半の間に32%も上昇することになります。

アメリカでは、連邦最低賃金を$15.00に引き上げようとする声が2013年頃から起こり、2014年秋には全米150以上の都市でストライキやデモが行われました。結果、シアトルでは(当時)新市長が市の最低賃金を時給$15.00とすることを約束し実現しました。

しかし、カナダの場合には、連邦最低賃金は1996年に廃止され、以降は州の法律で決めることとなり、現在に至っています。そのため、州によって最低賃金時給は異なります。現在(2017年8月現在)の主な州の最低賃金時給を見ると、アルバータ州$12.20、ブリティッシュコロンビア州$10.85、オンタリオ州$11.40、ケベック州$11.25と微妙な差があります。そして、カナダでは、アルバータ州が2018年10月1日より$15.00への引き上げを決定しています。今回のオンタリオ州の提案が実現すると、一機にカナダの他州に$15.00が広がるかもしれません。

そもそもこの最低賃金時給$15.00というレベルは、十分なのでしょうか。その試算は、1月号の記事で行いましたのでここでは省略しますが、子どもがいる夫婦共稼ぎ世帯でなんとか貧困レベルといわれる収入レベルに入らないぎりぎりのところです。

最新の賃金データによると、全産業で見た平均時給は、$23.85(2016年)となっています。あくまでも平均ですから、この金額を中心に、大きく広がっていると考えるべきで、産業によっても大きな差があります。電力関連や石炭鉱石原油ガス採掘現場で働く人たちは時給$40前後ですが、ホテル飲食関係の人たちは平均時給$14.10、小売り業界では$16.94となっています。さらに細かく見ていくと、飲食業界の平均は、なんとたったの$13.62!平均ですよ。飲食店主などはもっと高額な報酬を得ているはずですから、いかに飲食業界では最低賃金で働く人が多いか想像できますよね。

今回の最低賃金時給$15.00への引き上げに対して、当然のように飲食業界では反対意見が出ています。オンタリオ州政府の提案発表直後に出された報道データによると、レストラン業界の実態はかなり厳しいようです。

オンタリオ州にあるレストランは、平均従業員数10名、年間収入は$689,000だそうです。税前利益は3.4%、平均$23,450となっており、カナダでもっとも低い州なのだそうです。もし、1年半という短期間に32%もの最低賃金時給引き上げがなされると、年間$47,000の支出増となり、もちろん利益は無くなり、赤字は確実。当然、お店の閉店を考えることに繋がります。

中小企業・店舗、特に飲食業界は高卒で働き始める若い世代が入っていける業界で、そこで接客やビジネス、料理の技術を学ぶ訓練の場にもなっているそうです。そうした職場が少なくなることは、将来の労働市場にマイナスであることは確実。

こうしたミクロ経済的見方に対して、広く全体を見渡してその効果を見るマクロ経済的見方をする人もいます。
特に経済の専門家・学者たち50名が作るグループは、最低賃金時給$15.00を支持する表明をしています。その主張とは「長年の間、経済学者の多くも、最低賃金時給引き上げによって最低賃金の仕事が無くなり、そこで働く人たちが職を失うのではないかと懸念していました。しかし過去20年の研究データによると、失職への影響は非常に少ないことが分かっています。一方、最低賃金時給引き上げは人々の購買力を引き上げ、ひいては経済全体の個人消費と経済活動を活性化することになります」。

こうした現象は、たしかにアメリカで初めて最低賃金時給$15.00を導入したシアトルでも見られた現象だそうです。

一応、白ふくろうも経済学部出身なのでこうした理論は理解できます。オンタリオ州では、様々な意見を聞くべく7月中旬にオンタリオ州内の主要都市で公聴会を開きました。その結果、どのような変化が起きるか、または起きないのか。大変興味深い話題です。

ただ、残念なことは、最低賃金が大幅に引き上げられても既に最低賃金以上貰っている人の給与が同じように上がるわけではないこと。最低賃金引上げは貧困所得レベルにいる人たちを救済し、所得格差を是正する目的。いわゆる底上げ、格差圧縮ですから。



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白ふくろう

1992年音響映像メーカー駐在員として渡加。8年の駐在の後、日系物流会社に転職、休眠会社を実業会社へ再生再建。2007年より日系企業団体事務局勤務、海外子女教育・日本語教育にも関心が高い。2009年より、ほぼ毎日トロントやカナダのニュースをブログ(カナダはいいぞ~。トロントはもっといいぞ~)で配信している。