【第8回】親権と面会交流権:母親が子供と引っ越せない理由|私、国際結婚します!! でもちょっとその前に知っておきたいお話
前回、カナダで国際離婚した場合、子供を連れて日本へ戻ることが、たいへん難しいことをお話しましたね。今回はその理由について詳しく説明します。「なぜ母親が父親の許可なく子供と引っ越してはならないのか」を知ることで国際結婚に関する理解が深まると思います。
共同親権に関しては、ある程度理解できたとしても、面会交流というものが、親の(そして子どもの)「権利」であることは、日本で生まれ育った者にとってなかなか納得しにくいものですね。そこで日本とカナダの親権と面会交流の違いに焦点を当て、国際離婚後の親子関係についてお話ししましょう。
日本では、離婚届の「未成年の子の氏名」の項の「夫が親権を行う子」または、「妻が親権を行う子」の欄に子供の氏名を記入することで親権が決定されます。「父と母が親権を行う」というオプションはないので、離婚後は一方の親だけが親権を持つことになります。
日本の場合、親権を持つ親が子供と一緒にどこに引っ越そうと親権を持たない親が口を出すことはできません。たとえその引っ越しが、遠い外国であっても同じです。日本で親権を持つということは、離婚後の子に関するすべての権利を有し、また子に対するすべての責任を負う、ということなのです。
一方、カナダにおける離婚後の親権は、概ね共同親権です。共同親権とは、子に関するすべての決定に双方の親が同意しなければならないということです。子がどちらの親と暮らしているのかは無関係です。例えば、子が父親と会うのは、週に一度であったとしても、子がどの学校に通うか、どんなスポーツに参加するかなど、すべて父親の許可を得なければならないのです。当然、子がどこで暮らすかに関しても父親の許可が必要です。だから、父親の許可なく母親が子と日本に戻ってしまうことが、誘拐であるとされるのです。
「だったら単独親権を獲得すれば良いではないか」と思うでしょう。特に父親が母親に暴力的であった場合など、「子供と父親を二人きりにすることが心配だ」と考えたりもします。しかし父親が子に対して暴力的であるということが証明できない限り、単独親権は厳しいのが現状です。
親権の決定要因で、「母親に対する暴力」と「子に対する暴力」が、別々に考慮されることはとても不思議ですね。実際、「母親が受ける暴言や暴力を子が目の当たりにすること自体、父親の子に対する暴力である」とみなす研究も少なくないのですが…。
たとえ単独親権が得られたとしても、もう一つの親の権利「面会交流権」は、ほぼ全ての親に与えられます。単独親権を持つ親でも子と共に自由に引っ越しができないのは、この「子と定期的に面会交流する親の権利」のためなのです。
カナダにおける面会交流権(アクセス権)とは、「子が親と定期的に面会交流する権利」であると正当化されることが多く、 親が子と容易に交流することができなくなるような引っ越しには、ストップがかけられます。
つまり、日本人の母親が離婚後子供と日本に戻ることが問題なのではなく、父親が子供と会うのに不都合な場所に引っ越すことが問題なのです。
ですから、セパレーション・アグリーメント作成の際には、「子供と市外に引っ越すなら、三十キロ圏内にすること」などという、とんでもない項目が、大きな顔で記載されます。自分が雇った弁護士から、「こればスタンダードだね。異議は通らないよ」と、一蹴された経験が私にはあります。
さて最後に、日本の面会交流について紹介しておきます。日本の場合の面会交流とは、文字通り、親権を持たない親が子と面会したり交流したりするというものです。しかし、離婚時に約束された通りの面会交流ができなくとも親権のない親は、法に訴えることはできません。親権を持つ親の権限は絶対的で、親権を持たない多くの親が泣き寝入りしているのが現状であるようです。
このような日本の面会交流の様子を知る日本人にとっては、カナダの面会交流のあり方は、信じがたいかも知れませんね。けれども面会交流権は、国際結婚をする前に十分理解したいポイントなのです。
まとめ
1 共同親権下では、双方の親の同意がなければ子供に関する決定はできない
2 母親が単独親権を得られても、父親が子と面会する権利が母親の選択肢を制限する
APJW 新年親睦交流会
1月20日(金) 6〜9pm
問い合わせ:contact@apjw.info
野口洋美 心理学名誉学士(HBA)、コミュニケーション学修士(MA)
NPO法人APJW代表:別居や離婚を経験することになった日本女性の相互支援(ピアサポート)団体(web:apjw.info)の代表として、自立に向けての様々なテーマで勉強会を毎月開催。2015年、APJWはオンタリオ州のNPOとして承認される。国際離婚関連の執筆多数。離婚駆け込み寺(日加タイムス)、ひとり親のつぶやき(mamma、日系ボイス)など連載。2014年、国際離婚とハーグ条約をテーマにヨーク大学にて修士論文を発表。法律通訳としても活躍中。