#MeTooの変化と影響|特集「カナダの“なぜ”に迫る」


 この一年で世界的な性的暴力の告発の活動として大きな広がりを見せた、#MeToo運動。世界ジェンダー・ギャップ報告書のジェンダー・ギャップ指数で世界144カ国中16位であり、政府によって女性のエンパワーメントが積極的に推進されているカナダにも、依然として女性に対する暴力の問題がある。女性を取り巻く課題について見直すための議論が世界的に広がる中、 #MeTooはこの一年でどのように変化し、カナダには如何なる影響を与えたのだろうか。

#MeTooは誰のもの?設立者、黒人活動家タラナ・バークの懸念

 ワインスタイン効果を始めに、世界的な大反響を起こした#MeTooだが、元々は10年前にアフリカ系アメリカ人の市民活動家タラナ・バークが提唱したキャンペーンであることはご存知だろうか。

 バークは長年低所得の若年黒人女性の支援に重点を置いており、夢は「同じビジョンを提唱するコミュニティを形成し、被害者達が主導で性的暴行防止の為の解決策を出していくこと」であると#MeToo公式ウェブサイトにて述べている。女性に発言のプラットフォームを与えた#MeTooだが、その恩英を受けているのは主に白人女性であることから「White Feminism(白人のフェミニズム)」と批判されることもある。

 詩人のAsha Bandeleは、「バークが設立者であるにも関わらず、#MeTooの所有権は白人女性達の手の内にある」と雑誌Afropunkに述べており、人種的少数派の女性権利が無視される現状を疑問視している。

 #MeTooの現状に懸念を持っているのは、設立者バークも同じである。11月29日、米国パームスプリングスで開催されたTEDWomenにて、バークは「#MeTooは本来のキャンペーンからすっかり変わってしまった。メディアのバックラッシュによって魔女狩りのような運動として捉えられている」と現状への問題意識を述べた。

 「被害者への共感の上に成り立つべき運動が、男性に対する報復的な陰謀のように扱われている」「我々は権力と特権は常に破壊し奪うべきではなく、人々に提供し建設する為に使うこともできると再教育しなければならない」と述べ、「毎年4人に1人の女の子、6人に1人の男の子が性的暴行によって成人になってからも引きずる傷を負っている。

 トランスジェンダーの女性の84%が性的暴行を受け、先住民の女性は他のグループと比較して3.5倍以上性的暴行を受ける確率が高い。

 障害を抱えた人々は7倍の性的暴行を受け、私のような黒人女性の60%が18歳になる前に性的暴行を受けている。

 今も何千人もの低賃金で働く労働者が辞めることができない仕事にてハラスメントを受けている」と意見を述べ、#MeTooは集団間の対立を起こす運動ではなく、本来の目的は性的暴力から解放された社会を作ることであると訴えた。

#MeTooはカナダでどう捉えられているのか?

 MeTooやTime’s Upなどのソーシャルメディア上の運動は、性的暴行被害を視覚化し、女性が被害の告発をする場として世界的に活躍したが、2017年はカナダにとってもジェンダーにおける平等が大きく前進した年となった。

 #MeTooが年内に最も注目された報道としてCanadian PressのNews Story of the Yearに#MeTooが選ばれたことからも、カナダ市民の関心度の高さが伺える。

 Plan International Canadaの調査によると、対象者カナダ市民の3人に2人が#MeTooとTime’s Up等の運動が女性をエンパワーしたと答えており、31%の対象者が#MeToo運動によって性的暴行とハラスメントに関する認識が変化したと述べている。

#MeToo後の性的暴行の報告件数の増加はなぜ?

 11月8日に公表されたStatistics Canada Reportによると、#MeToo後は全国的な 警察への性的暴行の報告件数が24%増加しており、啓発され届け出る被害者が増えたことを示している。MeTooが報告件数増加の要因であることは確かだが、同年2月に公表された性的暴行関連の報道をきっかけにカナダ警察が警察内のシステム改革を行なったことも増加の理由に繋がっている。

 2017年2月に公表されたThe Globe and Mailのデータは、大きな波紋を呼んだ。調査は、カナダ全国で5件に1件の性的暴力の申し立てが事実無根として調査が却下され、115の都市警察は3分の1の申し立ての調査を事実無根として却下していることを示していた。

 同調査は、全国の性的暴行の申し立ての全件数の42%は告訴に至っているが、事実無根として却下されたケースを含めると告訴率は34%まで落ちることを示し、更に性的暴行の申し立ての却下が他の犯罪事件と比べて劇的に高いことから、カナダ警察は不均衡な件数の性的暴行事件の調査を打ち切り、報告件数に対する逮捕率を上げることで全国の犯罪統計値を歪曲していることを明らかにした。

 この事実が照らし出したのは、警察官の不十分な訓練、不適切な取調べ方法、そして長年に渡り性的暴行を軽視してきた法執行機関役員など、警察内のシステム的な数多くの問題である。


 The Globeの調査が波紋を投じ、警察内のシステム改革が促された結果、過去一年で全国的な性的暴行の申し立ての却下数は大幅に低下した。Devine警察署長はThe Globeに調査において性的暴行のトラウマが被害者の記憶に与える影響を考慮することの重要性、そして警察官への特別なトレーニングの必要性について述べた。

 同紙の2018年8月の調査によれば、数年前まで国内最低の性的暴行申し立ての却下数を保っていたオンタリオ州の却下数は25%から14%まで低下し、ノースベイは一年で44%から16%、セントジョンは 51%から11%、サドバリーは33%から9%、そしてハミルトンは30%から9%まで低下し、全国的な改善が見られた。

#MeTooのカナダへの影響は?

 性的暴行やハラスメントの告発を促した#MeTooだが、被害者だけにではなく支援サービス、教育機関、法執行機関、企業、そして政府にも影響を及ぼした。一例として、カナダの性的暴力支援機関の需要はこの一年で大幅に高まり、2018年10月にThe Canadian Women’s Foundationが公表したデータによると、今年のOttawa Rape Crisis Centreへの電話件数は前年度と比較して100%増加している。

 The Toronto Rape Crisis Centreは#MeTooが始まって以来電話が鳴り止まないとCBCに述べており、トロントのクリニックBarbra Schlifer Commemorative Clinicは前年度と比較して、性的暴行関連のカウンセリングの依頼が83%増加したと同紙に述べた。

 ハリファックスとカナダ大西洋州の電話緊急相談センターは、#MeToo後に初見の電話が増加したことを述べ、被害者が性的暴行被害を受けてから助けを求めるまでの期間が短くなっていることも指摘した。

 影響を受けたのはカナダ政府も同様であり、2018年の国家予算発表の根本原理に関する事項では#MeToo運動が社会に与えた影響の重要性について触れ、そして「Strategy to Prevent and Address Gender-Biased Violence(ジェンダー・バイアスされた暴力を防止する為の戦略)」を拡大し、同施策に年内に2千万ドルを追加、そして今後5年間に掛けて8千6百万ドルを追加することを発表した。この投資の半分は法律扶助に当てられ、残り半分は教育者とそのリソースに当てられる。


 施策は性的暴行とハラスメント関連の支援にフォーカスを当てており、被害者保護支援を行う専門家・教育者への支援強化、High Needs Victim Funds(高い危険度の被害に晒されている被害者への資金)への支援強化、カナダ軍隊基地付近の性的暴行関連の支援、10代のデートバイオレンス防止、全国的な中等教育後の教育機関でのジェンダー・バイアスされた暴力に関する教育の枠組みの設立などを挙げている。

被害報告に至るまでの障壁

 #MeTooは数多くの者に告発のプラットフォームを与えたと同時に、忘れてはならないのは被害者に経験を語るよう強いてはいけないことである。克服する方法は人それぞれであり、個人に最適な方法で傷を癒すことが何よりも大事である。

 性的暴行の被害者は多くの場合、権力を振るう加害者に沈黙を強いられることから、被害者にとって報告に至るまで様々な障壁がある。2014年の統計によれば、カナダ国内の性的暴行は全件数に対して4%しか報告されていなかったそうだ。被害者は加害者による報復やトラウマの彷彿、キャリアや生活への悪影響を恐れ報告に至らない場合が大半であり、さらに人種的少数派、障害を持った者、トランスジェンダー、高齢者、そして低賃金労働者の女性にとってこの障壁はより複雑なものとなる。

 助けを必要となる場合はCanadian Association of Sexual Assault Centresのウェブサイトに州ごとの支援を提供しているセンターのリストが載っているので確認してほしい。

本文=菅原万有
企画・編集=TORJA編集部