MIRAY’S STORY #21 「The Tragically Hip」

Chapter 21 「The Tragically Hip」

こんにちは、シンガー・ソングライターのミレイです!2013年にインディーズでデビューしEPをリリース、現在トロントを拠点にしています。日系社会においては2006年のJCCC紅白歌合戦に出演以来、新企会、Matsuri Festivalなど多方面で活動しています。連載コラムでは私の音楽だけではなく、日本からカナダへの道のりやニューヨークでの修行道中など盛りだくさんお話したいと思います。


あっという間の夏でしたが、私の待ち望んでいた秋がやってきました!といっても、この記事を書いているのはまだ蒸し暑いお天気が続く中で、天パの私にとって今年の夏はこの湿度がまさに敵でした(でもまぁ、2月を思い出すと文句言えませんよね。笑)。

皆さんはこの夏どう過ごされましたか?私は今回の旅行で唯一印象に残ったのが去年行ったプリンス・エドワード・カウンティーへ再度訪れたことと、近くなのでついでにキングストンにも行っちゃた事です。「ついで」のつもりで行ったのですが、実はちょうどその日にカナダが誇る有名バンド「The Tragically Hip」通称「ヒップ」のラストコンサートが行われるらしく、辺りは騒がしくその準備に取り掛かっていました。国はこの国民的バンドの最後を盛大に見送るべく、その日を歴史的な「ナショナル・ヒップ・デイ」と呼び国全体がお祝い気分でした。広場には巨大スクリーンを掲げ大人から子供までとにかくカナダ人なら見逃せない的な空気でした。

正直言うと、自分にとってヒップは聞いた事あるかも程度の認識でこれ程カナダ人の心を虜にしていた事を全く知りませんでした。それと同時に何故バンドが解散するのかも知りませんでした。

キングストンの中央広場で大勢がライブ中継を鑑賞

キングストンの中央広場で大勢がライブ中継を鑑賞

その日はキングストンを発ち、プリンス・エドワード・カウンティーでジョー・シーリーが演奏するジャズフェスティバルのコンサートを鑑賞してから街中に出てみると、道には車がまったくという程走っておらず、公園には大スクリーンが張り出され街中の人たちがそこに皆集まっていました。車のラジオももちろん中継、お店のBGMは全てヒップのライブ中継でした。とても不思議な感覚でこれは私もカナダ人の一人としてヒップの最後を見送るべきなんだろうかとその瞬間思いました。SNSではコンサートにいる警備員まで涙する様子が見られたのです。私は何もわからないまま途中から見たのですが、その時はじめて解散する理由を聞きました。ショックでした。

実はリードシンガーのゴード・ダウニーは脳腫瘍が発覚し、様々な治療を行ったけれどもう完治不可能と告げられたのです。そう。彼は死と戦っているのです。「解散なんて本当はしたくない。」と彼のパフォーマンスから痛いほど伝わりました。30年前にゴードが大学で結成したこのバンドではカナダの美しい風景、人々や街中を語った曲を書き続け人々を魅了しました。特にフレンドリーでユーモアに長けるゴードはカナダをこよなく愛すキャラクターで一世を風靡。カナダの「クイーン」みたいなものですね。

満員のアリーナからの中継ではトルドー首相も来ていて観客の熱い声援が響き渡り、カメラが向くと皆涙目で応援してる姿が見えました。そしてアンコールからステージに戻っていつもと変わらずジョークを交わしながら最後の曲を演奏する最中、ゴードはその場に立ち尽くし突然号泣。普段おちゃらけて元気な彼とは打って変わって今まで一度も見せたことのない姿をカナダ中に披露したのです。

バンド:The Tragically Hip。通称「ヒップ」

バンド:The Tragically Hip。通称「ヒップ」

一人の人間として。そして彼はとにかく叫びます。ロックンロールとはいえ、この叫びはとてもリアルで…まるで命の叫びと言うのだろうか。逃れられない死という現実、子供のような心をもった52歳の痛み、苦しみ、解散せざるを得ない無念の叫びは見ている人全員にひしひしと伝わり、気づけば目の奥が熱い感情で溢れていました。私はこのバンドの事を殆ど知らないのに彼やバンドのアットホームな温かさ、観客へのカジュアルなやりとりをみて一気に彼らとの距離が縮まったような感情に見舞われました。人気の秘訣がようやく理解できたようです。

ヒップ!30年間お疲れ様でした!


mirays-story-01-03Miray
神奈川県鎌倉出身、親戚にグラミー賞受賞者を持つ音楽家族の元、幼少からドラムとタップダンスを始める。カナダ移住後ジャズやロックバンドでドラムを演奏、吹奏楽部でクラリネットを演奏。 15歳で初めてソロボーカルの舞台を経験。ヨーク/シェリダン大学デザイン科専攻卒。在学中にジャズ、ゴスペルコーラス、R&Bバンドに所属。現在デザイナー&シンガー・ソングライターとして活動中。世界的ドラマーのレニー・ホワイトにも曲を絶賛される。ボニー・ピンクやホリー・コールなどのジュノ賞ノミネートプロデューサー:マーク・ロジャーズと共に新曲作成中。
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