会長自ら人間の本来のあり方を追求する無印良品の思想を聞く 良品計画代表取締役会長 兼 執行役員 金井政明氏 インタビュー|日本とカナダをつなぐビジネス・トップインタビュー

MUJIカナダの発展から見る無印良品がグローバルで取り組む社会的課題への姿勢とは。


2014年11月、カナダ国内外で大きな話題を呼んだ第一号店がトロントにオープンしてから約4年。世界的に評価が高く、洗練された美的感覚とエシカルな取り組みからカナダでも多くの消費者の心を掴んでいる無印良品だが、2018年11月にはトロントに第一号店、「 Atrium」が世界最大規模を誇る旗艦店として増床リニューアルオープンした。ブラックフライデーの日は数多くのお客が店舗を訪れ、4年前のオープン時寒空の下長蛇の列ができ、話題になった頃からその人気は留まることを知らないようだ。

 オープンに合わせ11月24日には、シンポジウム「The Philosophy and Design of MUJI」がトロント大学にて開催され、東カナダでの公演は初となる良品計画代表取締役会長兼執行役員の金井政明氏が登壇、会場は聴衆で満席となった。

 カナダのMUJI・ウォッチャーとして、カナダ第一号店開業時から同社の活躍を追ってきた本誌は、今回4年ぶりにトロントを訪れた金井政明氏へインタビューを敢行した。様々な新しい課題に取り組んでいる無印良品の今後に迫る。

各地域で育った人材が現地のクリエイターや様々な人と関わりながら、それぞれの地域に必要とされることや活動を商品にしていくという、「土着化」を推進していきたい。

ー4年ぶりにトロントを訪れ、街の印象やお店の印象はいかがでしたか?

 それほどは変わっていない印象です。昨夜リニューアルオープンしたアトリウム店に向かいましたが、満月が大きくて、街中に来ると東京よりも高いビルが密集している印象でした。夜に街を見渡すと、ガラスからの明かりやビル群が凄くて、その印象が昨日は強かったです。

ーカナダは、日本や中国などのアジアのマーケットのように店舗数を増大していくようなマーケットではないと思いますが、無印良品全体の中でカナダはどのような位置づけで、今後どのように展開していく予定でしょうか?

 北米全体という見方をした時に、西海岸と東海岸が縦の線で繋がっています。こういった見方で物流の戦略や人の動きを考え、西と東という風に固めていこうと考えています。西と東を一つに考えながら、内陸にどうやって入っていくか、ということが今後重要になってくるので、その戦略も考えています。

 4年前にトロントの一号店がオープンしていますが、あの時の戦略であった「小さいお店をオープンする」ということに対して、改善点があると考えていて、今その点を修正しています。日本では最初の40品目からスタートして拡大するという成長の仕方で、海外も同様の方法でやって来ましたが、そこが成長と認知のスピードにおいてまずかったな、と。欧米では大きいお店をきちんと作って、ちゃんと理解していただいて認知してもらうというようなやり方にしていくなど、出店に対する考え方をだいぶ変えました。

 そういうことで言えば、世界の各地域できちんとした無印良品の店舗を作り、そこで人を育てたいと思っています。日本語では「土着化」と言っていますが、育った人材が現地のクリエイターや様々な人と関わりながら、地域で必要されることや活動を商品にしていくということを行いたいです。それがレジデンスになったり、ホテルやレストランや老人ホームになったり、色々なことに繋がるようにしていきたいという風に思っています。

 現在、数多くの企業がAI、IoT、RPA、ブロックチェーン等のデジタル新技術を活用しテクノロジー変革に取り組んでいる中、リアル店舗と接客を重要視し、人と人、そして人と社会の繋がりを思想として重んじる無印良品は、如何にテクノロジー時代を迎えるのだろうか。

フィンランドにおいて2020年の実用化を目指す自動運転バス「Gacha(ガチャ)シャトルバス」

ー無印良品はフィンランドの自動運転バスのプロジェクトやホテル、施設デザインなど様々なプロジェクトに取り組んでいますが、将来的に〝スマート都市〟を作れるのではないかという印象を抱きました。

 そんな大層なことは全くないです。私たちはセゾングループ出身で、過去の経験から多角化系経営に疑心暗鬼を持っています。あくまでも無印良品の本業を強くするために、色々なことに取り組んでいます。

 無印良品が目指すのは、「バリュー=品質×価格」。私たちはそこに「意味」を足しています。なぜこの素材でできているのか、なぜこの過程で止めているのか、なぜこのパッケージなのか。「意味」というのは、無印良品の思想から来ていて、私たちにとってとても大事なことなのです。


 例えば、私たちは色々なカラーや種類のタオルは作りませんが、白いタオル一枚となった時に、お客様にどの程度まで我々の思想が伝わるかというと、それは簡単なことではありません。私たちの活動そのものは思想から来ているので、白いタオルの「意味」を伝わりやすくするという意味合いが、周辺の活動にはあります。

 もう一つ大きいのは、普段の単純な仕事だけではなくて困っている課題に対してチャレンジしてみることです。まだ挑戦していない、難しい仕事に取り組んでみるということは、人の成長にはすごく大事だということです。

 アメリカ型の小売業もですが、一般的に日本以外の国では大抵、本部に幹部がおり戦略や作戦を考え、現場にはそれを実行する店員さんが居ます。日本には元々、現場の人たちと経営の距離がそれほど開かずに「一緒にやっていく」というマインドがありますが、私たちはその精神がもっと強いと考えています。

 現場にいるのは店員さんではなく、地域のことや、生活を考える人たちです。そう考えれば、建築家が店舗にいてもいいし、デザイナーがいても良いと思っています。そういう考え方のもと現場の力をつけていくことで、地域ごとにクリエイターが一緒になって、例えばシャッター商店街をどうしようかなど、そこにある社会的課題や地域の課題を取り組むことができ、それらの活動によって人材が育つというメリットを私たちは考えています。

ー大きなニュースになったMUJIホテルもそのような考え方から生まれたのですね。


 私たちはホテルの経営もデベロップメントもオペレーションもやっていません。ただ、「無印良品が考えたらホテルはこうなるんだ」ということが、無印良品の「意味」へと繋がります。結局、世の中のホテルというのは、ラグジュアリーでお金持ちが泊まるようなホテルと、一方でビジネスマンが泊まりやすいホテルとで二極化しています。


 「ちょうどいい」ホテルをあまり見たことがなくて、そういう世の中に対する違和感を持っています。なぜホテルが両極化するかというと、資本の論理がそうさせる訳です。ただし、人間の論理で言えば部屋は広くなくていいし、高くなくて、清潔で「感じのいい」ホテルに泊まりたいと思いますが、実はそういうホテルがあまりありませんよね。それを私たちが実現することで、無印良品が何をしようとしているのかということを社会に伝えることができると考えています。

 現在、数多くの企業がAI、IoT、RPA、ブロックチェーン等のデジタル新技術を活用しテクノロジー変革に取り組んでいる中、リアル店舗と接客を重要視し、人と人、そして人と社会の繋がりを思想として重んじる無印良品は、如何にテクノロジー時代を迎えるのだろうか。

いつも考えているのは人間の本性。動物としての人間

ーデジタル時代を迎え、人の作業が省かれていく中、無印良品の未来像とはどのようなものでしょうか?

 私がいつも考えているのは人間の本性についてです。もっと言えば、動物としての人間ということです。世の中にテクノロジーが開発されたとき、資本の論理というのはより便利で快適な方に向かうわけです。

 例えば今、アマゾンスピーカーが中国のテンセントやアリババで安価な値段で売られていますが、アマゾンの戦略というのはシェアを取るために、安く拡散し、その後に高いシェアの中でどのように利益を生んでいくかというビジネスモデルです。しかし、私は若い人たちが「カーテンを開けて」とか、「音楽を流して」とスピーカーに命じているということに違和感を感じます。

 一方で、老人ホームで車椅子のおじいさんが朝起きて、天気がどうかと思って「カーテンを開けて」というのは賛成です。そのような感覚を私たちは常に持っていて、人間として、そして動物としてどうなのかという判断基準を持ち続けています。そのような判断基準は資本の論理になると関係なくなり、どっちが勝つのかということになってしまいます。

「これがいい」ではなく「これでいい」というビジョンに込められた思い

EU離脱反対と声をあげた若者やバーニー・サンダース氏の支持者はきっとMUJIの思想と通ずるところがあるだろう

 11月6日の米中間選挙投票は上下院の多数党が異なるねじれ議会になり、トランプ大統領への支持と批判が錯綜し、米国の分断を鮮明にした。2016年のイギリスのEU離脱は英国内に生じた分断の深さを浮き彫りにし、2017年にはスペイン上院が北東部カタルーニャ州の自治権停止を承認した。世界的な分断化が進む中、分断される人々を繋げることを課題のひとつに掲げている無印良品は、どのように向き合っていくのだろうか。

ー分断化が顕著になる世界に対して金井会長はどのようなことを日々感じていますか?

 なぜ、無印良品が「これがいい」ではなく「これでいい」というビジョンを掲げているかというと、「これがいい」という人間たちが「俺の宗教が、俺の民族が」と皆で言い合っていると、これでは崩壊してしまうと私たちは考えているからです。そして、この状況に違和感を持つことができるのは日本人だと思っています。

 北米やヨーロッパは大陸で、様々な宗教や民族の人々が共存しているわけで、例えば豚や牛を食べてはいけない人がいるのでルールが作られます。それぞれの宗教や民族の人が黙っていたら、相手のルールができてしまう。一方で日本は島国の中に単一民族が暮らしていて、みんな稲作で米を作ってきました。米は水を引くということだけでも皆で分配します。自分だけ水を引くわけにはいきません。自分の主義や主張よりも、村の調和を皆で大事にする訳です。何か言いたいことがあっても、村のチームワークが壊れると思ってなかなか言うことはない。そういう風に生きてきた日本人は、「おかげさまで」や「お互い様」「ご苦労様」という、英語にない言葉を持っています。そのような背景を持った日本が「これでいい」という価値観を世界に持っていくべきだと思い、あのビジョンを作ったのです。

 1980年に日本の消費社会のアンチテーゼとして誕生した無印良品。同社は当時、欧米のブランドがもてはやされ、世界中の企業がものを売るために〝足し算〟をしていた頃にむしろ余分を省くことで美を追求してきた。高度経済成長期やバブル期などの経済成長期に、経済的な豊かさが実現し物質的な豊かさがもてはやされたが、現在は価値観が変容し、個人的な〝幸せ〟の概念が物質的豊かさに代替し得る時代になってきた。

ー高度成長期当時と比べ、〝豊かさ〟という価値観は変容してきたと思います。新しい〝豊かさ〟の価値観と無印良品の思想はどのように交わり、それはどのように海外に発信されていくのでしょうか。

 ご存知の通り、私たちの親や祖父母の時代はモノをたくさん買えることになる時代にすごく憧れていました。モノが充足した時代に生まれた方々、クルマに興味を持たない若い人達がモノに恵まれて満足したかというと、それでは満足できていないと思います。

 今の日本の若い人達やEU離脱反対と声をあげたイギリスの若者や、またはアメリカで民主党のバーニー・サンダース氏を支持した人達の多くは無印良品の支持者でもあると考えています。彼らが何をしたいかというと、役に立ちたいのです。これは私たちの思想と一緒ですよ。人の役に立ち「ありがとう」と言われ、幸せを感じるということが今はすごく変わってきていると思います。

 なぜ私たちが「役に立つ」を大戦略にしているかと言うと、役に立つことで社員たちが元気になり、「ありがとう」と言われることによって幸せを感じるからです。私たちはそれを大戦略と言っていますが、いま皆さんが欲しい幸せは、それなんじゃないでしょうか。

ー社会的課題といえば、世の中は富の集中が進み、貧富の格差が深刻化していきます。

 これこそ政治家の一番の仕事だと思いますね。アメリカでも二極化なのか、右左極端な両派がいるわけですが、僕は個人的に今のフィンランドの自動運転バスのプロジェクトを含めて、北欧のスタイルというのは資本主義や民主主義の成熟のあり方のような気がしています。

 フィンランドを訪れると小さい政府で、市民からすごく信頼されている印象を受けます。政治家も市民も企業も皆「デザイン、デザイン」と、デザインを重視しています。そのデザインというのは、表装や色、形だけではなく、ストーリーとロジックなのです。それを私たちは参考にすべきだと思います。

ー最後に金井会長の若い頃のエピソードを交えて、カナダで夢を追っている若い方たちにメッセージを頂けますか?

 私は若い頃がなくて、いきなり60歳になったと思うような人生なんですよ(笑)。
 そう大層なことは言えませんが、ただやりたいことをやればいい。どうせ人は死ぬんだから。そう思います。