カナダの先住民迫害の歴史と渦巻く少数派を排斥する非人道主義|特集「カナダの“なぜ”に迫る」


 2017年に建国150周年を迎えたカナダは、世界に先駆けて多文化主義を謳い、国策として導入した「移民の国」として知られている。ただし、先住民が暮らしていた土地を略奪した歴史の上に成り立っていることを忘れてはならない。現在は少数派に寛容なイメージがあるものの、反して人種的少数派を排斥してきた人種主義は現代も根強くカナダに残っており、異常な数の先住民女性が行方不明や殺害されるなど、先住民の人々への民族浄化と言えるような蛮行が後を止まない。社会的孤立、貧困、不十分な住居や社会福祉などの問題に、カナダ政府は今後如何に対処していくのだろうか。

カナダの植民地支配の歴史

 カナダ政府は長年、現在にも続く先住民に対する暴力と抑圧を繰り返してきた。先住民の貧困は年々深刻化しており、先住民は否先住民のカナダ人と比べて収入は低く、失業率も高い。カナダ統計のデータによると、先住民の若者の自殺率は非先住民族の若者より5~7倍高く、イヌイットの若者の自殺率は全国平均の11倍で世界でも最上位に入る。

 貧困に苦しむ先住民の犯罪率が高く、メディアによるネガティブなイメージが社会全体に浸透し、差別が再生産される悪循環が起こっている。先住民の人々に本来の土地の権利や自然資源の所有権を主張された場合、カナダ政府にとって都合が悪いという複雑な問題も絡んでいる。植民地化の歴史を知らずと、社会に蔓延る先住民への差別の根底を理解することはできないだろう。

 元々、先住民の人々が暮らしていたカナダだが、1500年代頃にイギリスとフランスが入植した。1857年の漸進文明化法により、先住民族が部族社会を離れ公民権を取得する場合は資産を与えるという公民権賦与が実地され、西欧社会に同化させようとする試みが連邦結成に先立って行われた。1867年、カナダ政府の不平等な土地譲渡条約によって先住民族の土地は少額の補償金や狭い保留地と引き換えに奪われた。

 19世紀から1970年代までの間、伝統的儀礼の禁止の文明化政策の実地が行われ、15万人の先住民の子供達に対するキリスト教寄宿舎学校での同化教育が実施された。後に家族から引き離された子供達への心理的、そして性的虐待が明らかになり「真実と和解の委員会」の報告書によると1940年代には先住民の子供達6千人が虐待によって死亡している。

 先住民に多大な被害を被り、文化継承に悪影響を与えたカナダ政府は、1982年に憲法によって先住民の権利を保障し、1995年に先住民の自治を認める政策を採用した。ハーパー首相は2008年に先住民児童虐待の過ちに対して公式に謝罪し、「真実と和解の委員会」を設置している。
 現在、カナダ憲法では北米インディアンのファースト・ネーションズ、先住民とヨーロッパ人の両方を祖先とするメティス、北極地方のイヌイットの3グループが明確な先住民族として認定されている。アムネスティの2006年の報告によるとカナダにおける先住民族の人口は約117万人で全人口の約4%であり、内訳は約60%がファースト・ネーションズ、33%がメティス、4%がイヌイットである。先住民として認定された者は、カナダ連邦法によって一定の権利や特典、社会保障などを受けることができる。

 登録した者の約55%が彼らのために確保され、約605の部族集団が国内に2千200ヶ所以上ある保留地と呼ばれる特定地域に住んでいる。ただし、保留地の大半は地方にあり人が住んでいい場所や辺鄙な場所も多く、犯罪が多発している地区も多い。

2017年まで行われていた、先住民女性への強制的な断種手術

 2018年12月、先住民女性への強制的な断種が1930年代から2017年まで続いていたという衝撃的な事実が明らかになった。CBCによると、数多くの先住民女性が出産の際に強制的な卵管の切除手術が行われ、生殖能力を失い、「断種を行わないと新生児に会えない」と言い渡されていたケースが多数あったことや強制的な中絶手術が行われていたことも分かった。

 現在、カナダを含める多くの国で本人や配偶者の同意なしに断種を強制することは禁止されており、1998年の国際刑事裁判所ローマ規程において断種強制は人道に対する罪とされている。

 1948年の国際連合のジェノサイド条約条文の集団殺害罪の防止および処罰に関する条約にて、「集団内における出生を防止することを意図する措置を課すること」はジェノサイド であると定義されており、先住民女性への強制的な断種は明らかな集団殺害であり、人権法の違反である。12月初めにThe Canadian Pressが先住民族女性の強制的な断種に関する記事を発表してから、32人の女性が強制的な断種手術を行われたことを申し出ている。

 被害者は主にサスカチュワン州出身だが、他の州でも断種が行われていたことが分かっている。

 サスカチュワン州は今までの先住民の人々に対する差別が大きく問題視されてきた。全国で最も高い先住民の監禁率を持っており、2017年のカナダ統計によると州の刑務所に監禁されている者の76%が先住民であり、その前調査が行われた2012年から一向に改善を見せていない。

 サスカチュワン州内で起きた警察官による発砲事件の被害者の殆どが先住民であり、警察官の発砲により死亡した被害者の母、Christina Bigskyさんは事件に関して「人種差別的だったことは明らか」とCBCニュースに述べている。州では全国でも最も高い行方不明者数と殺害された先住民女性の数が出ており、貧困率が危機的であることからも先住民の人々にとって危険な地区であることがわかる。

 戦慄が走るデータばかりのサスカチュワン州だが、Maurice Law法律事務所は、カナダ連邦政府、サスカチュワン州政府と健康関連の公共機関と医師に対して過去20~25年間に渡って行われた強制的な断種に対する集団訴訟を起こしている。

 訴訟は2017年に被害者の二人の女性によって開始され、サスカチュワン州の公共医療機関に賠償金として各人が700万ドルを請求していたが、現在は60人以上の被害を受けた女性が訴訟に参加している。Maurice Law法律事務所は国際連合委員会へ提出した報告書にて、カナダ政府は強制的な断種が行われる条件と、問題の規模を理解する為の網羅的な調査を行なっていないという見解を表しており、強制的な断種を犯罪化する提案など複数の解決策を提出している。

 自由党はこの件に関して具体的な施策の表明を出していないが、先住民担当大臣Jane Philpott氏は「自由党は強制的な断種は野蛮な人権法違反であると理解している」と述べており「連邦政府は全国の州と公共機関が安全な健康管理を行うことができるよう、積極的に働きかけている」と述べた。本件は12月に国連拷問禁止委員会にて討議される。

異常な数の先住民女性の行方不明者ウェスタン大学に吊るされた、赤いドレス


 今年12月、ウェスタン大学のキャンパスに40着の赤いドレスが木から吊るされた。これは、過去に数千人という行方不明や殺害された先住民族女性について思い出させるための力強いアートワークだ。「REDress」と呼ばれるこのプロジェクトは、先住民メティスのアーティスト、Jaime Black氏により2011年に先住民への暴力へのレスポンスとして制作された。制作されて以来、その赤いドレスはカナダ中の教育機関にて設置されている。

 2015年のカナダ統計のデータによると、カナダで起きる4件に1件の女性殺人事件の被害者は先住民女性である。カナダ全体女性数に対して先住民女性数の割合は4%のみを占めることを考えると、戦慄するデータだ。2014年のカナダ連邦警察の推計値の発表では、1980年から2012年に掛けて殺害された先住民女性は1049人、行方不明者が172人とされていたが、長年の調査を経て2016年に発表されたNative Women’s Association of Canadaの データによると、過去40年の被害者数は4千人にも達するということが明らかになった。

 2016年にカナダの先住民担当大臣Carolyn Bennet氏は、他殺の可能性を遺族より報告されていた事件を自殺や事故死、自然死として処理し、適切な捜査を怠ったとしてカナダ警察当局を非難した。中には両手を後ろ手に縛られた状態で死亡していた女性や、後頭部を撃たれて死亡した女性の死が自殺や自然死として片付けられていた。

今現在も続く警察による先住民族への暴行や被害

 トルドー首相は2016年に先住民の首長に対して「最優先事項」として、先住民族に関しての法律見直しのために予算を5千300万ドルまで増加することを約束したが、現状先住民の人々の人権は軽視されており、警察による先住民族への暴行や被害も多数起きている。

 近年、警察官がパトカーに先住民族女性を連れ込み、性的行為を強要する事件なども数多く多く報告されており、2018年12月4日には、怪我を負い担架に乗せられた17歳の女性に対して、Thunder Bayの警察官が顔を殴り担架に押し付ける動画がネット上で広まった。市民を守る立場にある警察が先住民の人々へ被害を加えているという現状があり、先住民の人々、特に女性への差別は根深い。

私達はまだここにいて、戦っている。

 クリー族の活動家、学者と作家であるRobyn Bourgeois氏は、先住民女性の非人道的な扱いについて、北アメリカで長年根付いてきた先住民女性のステレオタイプに要因があると述べている。

 例として、欧米において青少年が初めて先住民の文化に触れるのは子供用映画「ピーターパン」や「ポカホンタス」などだが、1960年に公開された映画「ピーターパン」では、キャプテン・フックは先住民の姫、タイガーリリーの足に錨を結び、フックで喉を切ろうとする。「ポカホンタス」では、入植者のジョン・スミスはポカホンタスに出会い、彼女の肉体に魅了されながら銃口を突きつける。どちらのケースも、先住民女性は容易に入手可能な性的対象として描かれており、先住民女性への暴力が標準化されている。

 このような刷り込みは北アメリカの文化に深く根付いており、先住民女性の軽視に繋がっていると述べている。Bourgeois氏はウェスタン大学で展示されている「REDress」のプロジェクトに関して「私達はまだここにいる。暴力について語られることが多い私達だが、まだここにいるということは祝われるべきことだ。私達はまだここにいて、戦っている」とポジティブな見解を述べた。

本文=菅原万有
企画・編集=TORJA編集部