北方領土は何処へ

business-07-2014-01安倍首相はプーチン大統領と北方領土問題解決を含む日ロの関係強化を目指し、すさまじいばかりの熱意を傾けている。ウクライナへの制裁でロシア側から「失望」されているもののこの秋のプーチン大統領の訪日を実現させ、領土問題解決で歴史に残る首相となる野望は実現できるのか、今後、いよいよ盛り上がりそうだ。

business-07-2014-02若者に北方領土の話をしてもどれだけの興味と知識を持っているだろうか?ましてやその返還に賭ける日本のパッションなど知る由もなかろう。北海道東部。そこに広がる牧場と点在する家々を見ながら根室海峡まで足を延ばせばそこから北方領土の一つである歯舞諸島は目と鼻の先に見える。知床東部の海岸線からは好天の日には国後の島影をうっすら見ることができる。


北海道の地図を広げればどう見てもロシアの領土とは思えないこれらの島々は第二次世界大戦で日本が降伏したのち、ロシアに実効支配され、今日までその主権について日本はソ連、その後のロシアと継続的な返還交渉を行っている。

日本の周りには島を巡る問題は3つある。ロシアとの北方領土、韓国との竹島、中国や台湾との尖閣の問題である。うち、北方領土と竹島は相手国が実効支配しており、尖閣は実効支配する日本に対して中国がその領有権を巡り強い態度に出ていることは承知の通りである。

その中で北方領土だけはソ連、ロシアと長年、交渉の俎上に載せている点で他の二つのケースとは違う。そして日本贔屓のプーチン大統領が北方領土問題について「引き分け」を求めたその意味深な発言も含め、少なくとも今が当面の最後の交渉チャンスになると考えられている。

プーチンが日本と北方領土交渉をする理由は日本との経済包括協定が欲しいためである。ロシアの東部に広がるシベリアやサハリンは資源の宝庫であるが、一方で厳しい気象条件から開発は容易ではない。そこで日本に資金と技術を投入してもらいたいというロシア側の野望だ。それに対して震災で原発が動かない日本では発電燃料の安定確保のため、ロシアからの天然ガス、LNGの輸入源へは大いに期待したいところである。

一方、外交関係を見ればロシアは中国と40兆円に上るガス供給のディールをまとめるなど両国の関係の緊密化を感じるが、歴史が語る両国間の国境や力学上の問題からプーチンが習近平と胸襟を開き合う関係にはならない。むしろ、プーチンは日本とディールをし、日米間の絆に割って入りたいと考えるのが妥当であろう。

プーチンはビジネスディールをするために安倍首相と向かい合う準備はあるはずだ。問題は日本が北方領土に対してどの程度の柔軟性をもって交渉に臨むつもりなのか、である。爾来、日本は四島全部返還のスタンスを崩していない。一方のロシアは1956年の日ソ共同宣言に基づく二島返還から譲るつもりはない。日本からは近年、その折衷案も出ているが、双方が論点の根拠となる部分を共有していないため、話は平行線のままである。

そもそも日本が降伏後、なぜソ連が北方領土を占拠したか、ここでは触れないが、歴史の本を紐解けばあまり知られていないとんでもない話はずいぶんある。が、ポツダム宣言受諾を巡りソ連が自国の権利を確保するため、敗戦でぼろぼろになった日本の分捕り合戦に参加したとするのがもっともすっきりする。そして、その頃、アメリカはルーズベルトが死去し外交音痴のトルーマンが大統領だったことも多少は影響しよう。

さて、日本を取り巻く外交、経済関係、資源の安定確保などの点から北方領土問題は様々なファクターを考えなければならない。例えば日本国内で北方領土の二島返還の折衷案反対の急先鋒は外務省北米スクールであろう。それは中途半端な外交姿勢で北方領土問題を妥結すれば日米関係に禍根を残すとする論拠である。

いくらアメリカの外交が弱体化したとはいえ、仮に日本がロシアとのディールに傾注することになればアメリカは必ず嫌味な仕打ちをするであろう。私から見れば折衷案をテーブルに上げるにはここが最大の難関とみている。

資源に関してみればアメリカやカナダからのシェールガスがあるからそこまで譲歩しなくてもよいと考えている節がある。だが、この発想は危険である。なぜならシェールガスの日本への輸出はとてつもなく高いものとなる可能性を秘めているからだ。それはパイプラインやLNG建設コストである。安いとされるシェールガスもLNGにするまでのコストを上乗せされると競争力は下がるだろう。このリスクはついて回るため、ロシアと安価なガス安定供給のディールを今、進めることは日本にとって不可欠な対策になるはずだ。

北方領土の全部返還に対する主張の根拠については見方によっては必ずしも堅固ではない。吉田元首相が二島返還までという認識だった外交文書も存在する。

現実はどうだろうか?歯舞、色丹は返還を前提にしているためか荒れ放題、国後、択捉にはロシアは国家予算を配分して整備をつづけている。日本は不毛の戦いをし続けるのか、このあたりで実利をとるのか、考える時にある。

ところで私がいつも思うのは人口密度が極端に少ない北海道東部からさらにその先の島を返還してもらった時、メリットがあるのは誰なのか、である。私には地元漁業関係者以外ぱっと思いつかない。北方領土返還はどうやら日ロ米の熾烈な外交バトルだと考えた方がよさそうである。


岡本裕明(おかもとひろあき)

okamoto021961年東京生まれ。青山学院大学卒業後、(株)青木建設に入社。開発本部、秘書室などを経て1992年同社のバンクーバー大規模集合住宅開発事業に従 事。その後、現地法人社長を経て同社のバンクーバーの不動産事業を買収、開発事業を推進し完成させた。現在同地にてマリーナ事業、商業不動産事業、駐車場 管理事業、カフェ事業など多角的な事業展開を行っている。「外から見る日本、見られる日本人」の人気ブロガーとしても広く知れ渡っている。