消費税狂奏曲

4月1日に8okamoto_hiroaki_05_2014%になった日本の消費税。喧々諤々とはこのことで野田佳彦前首相は政治生命をかけてそのアウトラインを作り上げ、安倍首相がそれを決定するというシナリオに学者、専門家、政治家に一般市民まで巻き込んだ是非論が繰り広げられ、マスコミはそれを煽りつづけた。

結果として出てきたのはまずはいつものように消費税引き上げ前の駆け込みの買いだめ。そして引き上げ後の売り手側の対応である。これをカナダから見ているとある意味、冷静になれるので事の動きがより一層、わかりやすいと思うのは私だけだろうか?

消費税導入前の買いだめ。これはもはや、日本人のお祭りごとであるといった方がよい。消費税導入の時も5%になった時も同様の買いだめがあった。専門家は消費税導入後の消費の落ち込みを考えれば消費税引き上げは誰の得にもならないと主張するのだが、果たしてそうかよく検証する必要があろう。報道では14000円相当のトイレットペーパーを買いだめした主婦が買いすぎて後悔している記事が出ていたが、家庭のトイレットペーパーの消費量は一定であるとすれば1年分以上の消費を先食いしてしまったともいえる。これではトイレットペーパーは売れなくなるはずである。

日本人の「駆け込み需要」は消費税に限ったものではない。タバコが値上げするとなればタバコ屋からタバコがなくなるほど買い込むし、政府の補助金が付いたテレビや自動車はその需要が多すぎて補助金の予算が払底するほどだった。つまり、「お得感」という言葉に日本人は実に踊らされやすいのである。北米に長く住んでいるとこの「お得感」は案外、ババを摘まされることもあるという警告でもあり、人々の反応はまちまちである。例えばカナダのボクシングディは若者にとっては楽しいお祭り騒ぎのショッピングディなのだろうが、ある程度マチュアな年齢になると売れ残りを価格で釣ろうとしてもダメという認識ができてくるものだ。

消費者はガラガラになったスーパーの陳列棚を前に「最後の一つを巡る攻防」を行うのだがその商品は普段なら買わない商品でもこの際なら、という気持ちにさせたかもしれない。それが結果としてお得になったかどうかは別の話だということなのだ。日本の「消費税引き上げ前の3%お得感」も実際には4月1日以降、売れ行きが落ち込めば売り手はシリアスなバーゲンを行わざるを得ないし、事実その傾向は既に見て取れる。

4月1日から「泣く泣く3%」の価格引き上げを行うにあたり、お客様の財布にいかに優しく対応するか、これが日本独特の価格戦略である。つまり、「同じ金額で売っています」という戦略がお客様に本当に喜ばれると思っている節がある。果たしてそうだろうか?あるワンコイン弁当屋では価格を据え置く代わりに味噌汁が付かなくなった。ワンコインに対する消費税増額相当額は15円である。これに対して味噌汁の欲しい消費者は50円の味噌汁を別に買わねばならなくなる。つまり、全部で550円に8%の消費税の594円である。本来であれば540円で済んだはずだ。これを実質値上げというのだが、売り手の弁当屋はそんなことまったく気が付いていない。「私たちはお客様のお財布を第一に考えています」と。

食品系の会社、デパートの食品売り場ではプチサイズなる容量の小さいものが同じ価格かそれ以下で販売されるような戦略をとっている。だが、この容量減が本当に3%の消費税分ちょうどなのか、これは怪しい。なぜならこの容量減方式が円安で輸入コストが上昇した分を価格転嫁するにはもっともたやすいからである。

結局、4月1日以降、日本の消費者は以前と同等のモノを買うには余計にお金を払わねばならないというインフレが生じている。だが、お財布に優しい戦略のため、550円に実質値上げしたものを500円で我慢するとなれば経済学でいう総需要が足りない状態、平たく言えば国民が消費を抑え、節約、倹約になるという構図が見て取れるかもしれない。つまり、日銀黒田総裁の目指す2%のインフレは達成するが総需要不足による景気低迷が待ち構える可能性がないとは言えない。それを難しく言うとコストプッシュ型のインフレと称している。一般に期待されているのはディマンドブル型のインフレである。だが、成熟国家日本に競うような消費という刺激を作り出すことは困難である。事実、ヒット商品のサイクルが短いのは消費の深さ(=需要の深さ)が年々浅くなっていると考えられる。理由は激しい商品開発競争、さらには衣料品のSPAのように多品種少量生産という体制が圧倒的ヒットを生み出しにくくしているとも考えられる。

欧州など消費税がもともと高い国では国民が消費税に対する耐性が強くなり、消費税増税分の価格転嫁に対して日本のような反応は示さないと聞いている。カナダでも業者は無断で平気に値上げしてくる。それに対してとやかく言う人も少ない。私もバンクーバーの自分の店で販売価格を2年に一度ぐらいそろっと引き上げるのだが客からクレームが来たことはない。むしろ、「そうよね、それぐらい引き上げないと厳しいわよね」と同情されるぐらいだ。

日本の消費税引き上げ狂奏曲は一種の化かし合いにも見える。新製品は4月以降の発売とした会社も多い。戦略としてはそれが正しいだろう。この狂奏曲、あと数か月経たないとその結果は見えてこないと思うが、直感的には日本人も少し耐性がついて消費の落ち込みは限定的であって欲しいと期待しているがさてさて、どうなることやら。



岡本裕明(おかもとひろあき)

okamoto021961年東京生まれ。青山学院大学卒業後、(株)青木建設に入社。開発本部、秘書室などを経て1992年同社のバンクーバー大規模集合住宅開発事業に従 事。その後、現地法人社長を経て同社のバンクーバーの不動産事業を買収、開発事業を推進し完成させた。現在同地にてマリーナ事業、商業不動産事業、駐車場 管理事業、カフェ事業など多角的な事業展開を行っている。「外から見る日本、見られる日本人」の人気ブロガーとしても広く知れ渡っている。