アメリカ金利動向を解くヒント

もう上がる、まだ上がらない?アメリカ金利動向を解くヒント

アメリカの市場関係者は金利の引き上げ時期がいつになるか、その予想に忙しい。最有力候補だった6月説は薄れ、9月以降とするアナリストが増えている。待望の金利引き上げは果たしてあるのか、今回はそれを側面から捉えてみたい。

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アメリカはリーマンショック以降、景気回復のシナリオづくりに励んできた。その中でも特に注目されたのが雇用であり毎月第1金曜日に発表される失業率が着実に改善されていく中で景気回復を国民は数字として実感し、世界の主要国では唯一、好調な回復ぶりを示してきた。

その間、金融政策においては「入院患者がより悪化したためカンフル剤で刺激する」のと同様の効果である「金融の量的緩和」という政策を取り続けてきた。これは市場をお金でじゃぶじゃぶにすればまわり廻って景気を回復させる有益な資金になるという発想である。そのカンフル剤も一応の効果を見せ、シェールガス、オイルブームで自国産の石油がオバマ政権末期には輸出産業として華やかなデビューを飾るというシナリオも出来ていた。更に失業率は5%台になり、ついに量的緩和は昨年終了されたのである。つまり、カンフル剤投与を止め、低金利を通じて自然治癒を期待したわけである。

さて、私は元来、成熟国と低金利は相関関係があり、成熟すればするほど経済発展のペースは減速し、いずれ金利は低いままで放置されると主張してきた。一般的な経済の教科書では景気は循環し、好景気の時は金利を上げてスピード調整し、不景気の時は金利を下げて景気を刺激させるとなっているはずだ。

しかし、それはその景気の波動がずっと同じだという前提に立っているが私は成熟度(GDP)の上昇と共に波動はどんどん小さくなっていくと考えている。理由はいくつかある。まず、最大の問題は消費力の低下である。一般に先進国の持ち家比率はざっくり66%前後が1つの目途となっている。発展途上の国家の政策はこの持ち家比率を引き上げることを1つの目標としている。

様々な政策が打ち出されると同時に人間の性ともいえる競争意識がそこに芽生える。それは友人や隣人が家を買うことで自分も背伸びをしてしまうのである。この結果、消費は急増する。人は家を買えば家具が欲しくなる。家に人を招いてパーティーも開くであろう。つまり、消費はマックスを迎えるのだ。

日本を見てみよう。東京の渋谷から田園都市線で神奈川県に入ればその各駅近郊の住宅に見られる如実な人間模様はほぼパーフェクトなピクチャーと言ってもよい。お向かいに負けない風貌の家、あのガレージにある国産車より小さくても外車、あそこの家の息子に負けない塾に行き、負けない私立の学校に行かせるのだ。電話の市外局番は川崎市の044はだめで横浜市の045じゃないと格好悪いと奥様は旦那に無理難題を押し付ける。

ところがある時、現実に引き戻される。「ローンの返済を考えたらもっとカツカツの生活をしないと」。ようやく返済が軌道に乗った頃、バブルは崩壊することになっている。日本でもアメリカでもヨーロッパでも。

このヒントは持ち家比率66%というマジックナンバーである。バブル崩壊によりこれが多少下振れしたところで、もはやかつての国家を上げての消費力を復元することは出来ない。なぜなら持ち家比率は決して80%や90%にはならないからである。が、持ち家比率が50%を割ることもなく、景気の下支えが出来る結果、何度かの景気後退局面で消費はより打たれ強くなるのである。

もう1つの問題は機械化とIT革命である。我々が会社に入った頃には本社にはうんざりするほどの人がいた。経理部では大勢の社員が電卓を叩き、伝票を整理していた。今、経理ソフトがあればそれは二人もあれば十分にこなせるだろう。静寂感すらある工場ではロボットが黙々と働き、少数の人間が管理をするのみだ。

労働の価値は今やロボットとの比較となり、その賃金は当然、低く抑えられることになる。組合が鉢巻をし、ストライキをやり賃金交渉を勝ち取る人間らしいバイタリティはもはや見かけることはなくなってきている。だが、基本的生活水準という守られたボトムラインがあることも忘れてはならない。これは収入の平準化ともいえるかもしれない。

成熟社会は安定した社会ともいえる。だからこそ、アメリカのイエレン議長は、金利引き上げはかつてなくゆっくりとしたペースになるとしているのは巷の経済指標云々だけではなく我々の生活そのものが変化してきたことを示唆しているのではないだろうか?

私はかねてからアメリカの金利引き上げはなかなか来ないと言い続けてきた。今年あるかどうかもわからない。アメリカは既に景気のピークを過ぎた可能性すらある。その場合、景気の下降期に金利を上げることは難しいだろう。

少なくとも言えることは、金利は上がっても僅かであろう、という事である。「かつてないほど緩やかなペースでの利上げ」というイエレン議長の言葉にはやや違和感がある。それは、景気は循環し、必ず上げ下げを繰り返す前提に立てば金利だけ右肩上がりに安定的に上がることはないという事である。

少なくとも我々の定期預金の利息はどう頑張っても銀行の口座保管料にも満たないという事かもしれない。やっぱり株でも買うか、と思う人がいるのはごく自然なのだろう。


岡本裕明(おかもとひろあき)

okamoto021961年東京生まれ。青山学院大学卒業後、青木建設に入社。開発本部、秘書室などを経て1992年同社のバンクーバー大規模住宅開発事業に従事。その後、現地法人社長を経て同社のバンクーバーの不動産事業を買収、開発事業を完成させた。現在同地にてマリーナ事業、商業不動産事業、駐車場運営事業などの他、日本法人を通じて東京で住宅事業を展開するなど多角的な経営を行っている。「外から見る日本、見られる日本人」の人気ブロガーとしても広く知れ渡っている。