地球を取り巻く不和不信

歴史が物語るように秋は経済が動揺しやすい時期である。そして今年も地球のあちらこちらから軋みが聞こえてきた。今回の引き金は金融の量的緩和終焉、そしていつかは利上げというアメリカの目論見に一つの疑念があるともいえる。今まさに正念場ともいえるその状況をもう一度考えてみよう。

株式市場は経済や政治の健康バロメーターという見方をしたことはあるだろうか?健康であればボラタリティも少なく平穏無事な市況をみて取れる。ところが地球のどこかで何か発生すると突如としてその波は荒くなり、一般にはなじみが少ない恐怖指数に俄然目が行くことになる。この指数は大体10-20程度が「平熱」であるが、世界金融恐慌の時にはほぼ90に、同時多発テロの時には44という「高熱」をつけている。

この恐怖指数は本稿を書いている10月10日には21をつけた。そして株式市場は日本もニューヨークも大荒れで乱高下を繰り返している。医者ならば「これは何かおかしい、精密検査を要する」と診断するであろう。

だが、アメリカ経済は順調な回復基調、というのが一般的な理解ではなかっただろうか?本稿が皆さんに読まれる頃にはアメリカのFRB(連邦準備制度理事会)は金融の量的緩和プログラムの終了を宣言しているかもしれない。集中治療室から出て一般病棟でリハビリに励むプロセスである。FRBの元議長、バーナンキ氏は「ヘリコプターベン」と呼ばれたように紙幣を刷りまくり、アメリカのみならず世界に(ヘリコプターから札束を)ばら撒き新興国に安いお金を提供し、新興国の成長を通じてアメリカ経済にその利益が還流する新たなる経済活性化ルートを作り上げた。

ところがそのアメリカは自国の健康が回復したのでそろそろばら撒いた札束を回収しようと考えている。勿論十分な利益をポケット一杯に詰め込んで、である。

マレーシアはそんなアメリカの金融緩和の恩恵を受けた国の一つである。そこでは不動産開発がブームとなり、金鉱脈を当てに来た山師のごとく内外の多くの土地開発業者が乱開発をした。いくら急成長する国とはいえ、供給のスピードは国家の成長スピードをはるかに上回った。それは結果として先行き懸念、値下がりという悪循環を迎えようとしている。

マレーシアといった新興国だけではない。EUという巨大な経済市場はマリオドラギ中央銀行総裁をしてデフレ傾向、高失業率、低経済成長率から全く抜け出せる気配はない。一時期言われたEUの構造問題が根底にあると考えている。それは一つの金融政策、多数の国家政策である。個人的には一部のマイナス金利の常態化を含め、「流動性の罠」にはまっていて、ここからの脱却は10年スパンとみている。

もう一つの不安は香港である。8月31日までは習近平国家主席は非常にうまい運営を行ってきた。特に国内の派閥問題をきれいにし、反対勢力を抑え込み、共産党内部の完全制圧をしていよいよ新たなるステップに出た矢先である。それが香港の2017年の行政長官選挙に関する手続きの発表であった。が、実質的に「一国二制度」の否定であり、香港人の財の安全すら脅かそうとしている。

これは香港人にはあってはならない話である。台湾にも当然のごとく飛び火した。更にスコットランドの独立運動が「二国二制度」をイメージさせたことが中国にとって実にタイミングの悪い話となってしまった。

ではアメリカはこれらの不和不信をどう見ているのだろうか?

正直余裕をもって俯瞰する余裕などないはずだ。それはオバマ大統領の判断の過ちが様々な問題を作り上げてしまったともいえる。オバマ大統領は、「アメリカはもはや世界の警官ではない」というスタンスを取ってきた。にもかかわらずウクライナ問題に中途半端に首をつっこみプーチン大統領を怒らせ、EU内で足並みが揃わないロシア制裁を行い、日本もそのとばっちりを受けてしまった。

イスラムの国についてもそうだ。芽が小さいうちに摘んでおけばよかったが後手後手の判断でいつの間にかイラクからシリアまで延び志願兵は増え続け今やトルコ国境までその勢力を拡大している。これは武器、弾薬などの供給をより容易にし、抑えがきかない状態になろうとしている。

世界を見渡せばまさに不和不信だらけでアメリカの景気だけがなぜ、好調なのか、その理由を論理的に説明することは難しいともいえる。なぜなら世界経済はアメリカが標榜したグローバリゼーションそのものだからである。

ボートを漕ぐには左右の人が均等な力で調子を合わせることで早く前に進む。多分、ボートの船頭はアメリカで漕ぎ手にヨーロッパ、日本や中国を始めG20の国々が左右に分かれて座っている。だが、どう見てもこのボートは前に進むとは思えない。いや、かりに数回オールをもって頑張ったとしても同じところをクルクル回るだけかもしれない。そんな絵図が思い描ければ世界経済をまさに俯瞰していると言える。

その時、マスコミはどう批評するのか?船頭の指揮が悪いというのか、オールの漕ぎ手が未熟すぎるというのか、左右のバランスが悪いというのだろうか?

もしも恐怖指数が今後も上がるようであればそれは相当なる治療が必要かもしれない。だが、金融の量的緩和という特効薬はもう使ってしまっている以上、もはや有効な薬はさほど残されていない。



岡本裕明(おかもとひろあき)

okamoto021961年東京生まれ。青山学院大学卒業後、(株)青木建設に入社。開発本部、秘書室などを経て1992年同社のバンクーバー大規模集合住宅開発事業に従 事。その後、現地法人社長を経て同社のバンクーバーの不動産事業を買収、開発事業を推進し完成させた。現在同地にてマリーナ事業、商業不動産事業、駐車場 管理事業、カフェ事業など多角的な事業展開を行っている。「外から見る日本、見られる日本人」の人気ブロガーとしても広く知れ渡っている。