君は会話しているか?|バンクーバー発「外から見る日本、見られる日本人」の人気ブロガー・岡本裕明さん

最近の会話とはスマホを介したやり取りを指すのだろうか。LINEでもFacebookでもテキストメッセージでもほぼ、スマホと文字を媒介にコミュニケーションをとる。だが、こんなやり取りで真意は見えてくるのだろうか?今回はリアル会話を考えてみよう。


私が先日3週間ほど東京に出張していた際、夜な夜ないろいろな人と飲み続けた。それこそ、昔の会社の仲間、高校のクラスメイト、経営するシェアハウスのミートアップ、かつての従業員、NPOの仲間、新しく出会った人、異業種交流などその範囲はあまりにも広い。それこそ、女子大生や働く若者達からリタイアして一過言ありそうな方まで何でもありである。

実は私はあまりにも広い飲み仲間層がいるゆえにどんな人ともどんな会話でもできる自負がある。仕事の話、将来の話、老後の話、就職の話、子育ての話、スポーツに趣味の話、男性が好きな話題も可能だ。

実はこれは20代の時、あるところでインスパイアされたことに起因する。それは銀座のクラブである。クラブといっても踊る方ではなく、飲み屋のクラブだ。様々なクオリティのクラブが都内にはあるが、やはり銀座の格式は高い。そのなかでも一見さんお断りの店に何度か行き、気がついたのはホステスの知識量だった。

もちろん、話に深みはないのだが、どんな話でもうなずくだけではなく、意見を述べていたのに軽い驚愕を覚えた。「どこでそんな勉強しているの?」と聞けば彼女たちはいとも簡単に答えた。「美容室に毎日行くように新聞や雑誌を隅々まで読んで知識を入れておかないとお客さんの相手ができないのよ」。当時、銀座は新宿や池袋のクラブと比較できないといわれたのはまさにこの「賢さ」がよい客を引き寄せるテクニックだったのだろう。

会話ほど難しいものはない。なぜなら発言者の意図がそこに内包されるからだ。例えば野球の試合の結果の話をすればその人がどちらのチームのファンかによって話のトーンは変わる。だが、リアル会話の場合、日本人はあからさまな意見を述べないながらも言葉の端々にそのニュアンスをちりばめる。だから対話の相手はその意図を読み取り、自分の意見を返さねばならない。さもなければ真の意味でのKYとなってしまう。

ところが最近はリアル会話をする機会がめっきり減ってきた。仕事をしていても電話はあまり鳴らない。だが、メールやテキストだけはどんどん入ってくる。そのメールやテキストはどうしても返信する手間がかかるのでストレートな短い文章で返すことになる。言いたいことを圧縮、凝縮し濃厚にしようと努力した賜物だ。

最近気がついたのだが、メールなどの文章も更に簡素化されてEmailでも1行メールが増えてきた。それも日本人からではなく、カナダ人からのものである。たぶん、エレベーターや電車、バスを待っている間のわずかな時間で返信するからであろう。そうすると時としてピント外れや失礼な返事もあり、双方向のコミュニケーションが欠落したり、ミスコミュニケーションが生じたりする。

最近仲の良い男とさし飲みしていた際、過去の恋愛話になった。「嘘だろー!」という暴露をされた時、今まで知らなかったのはこの男とさし飲みはあまり行っていなかったからだとすぐに気がついた。そりゃそうだ。メールやテキストでは証拠が残る。誰かに見られる可能性もある。こういうお宝話はリアル会話でしか絶対に出てこない。

同様に講演会もそうであろう。本を読めば同じだろう、と言ってはおしまいでその場限りの「へぇ」という話を聞くことができる。つまり、スマホ会話ほどたやすくないし、お金も時間もかかるかもしれないけれどリアル会話から聞こえる話はまるで次元が違うはずだ。

それ以上にリアル会話とは人間と人間の接点が何の緩衝材もない状態で身をさらすという意味で人間が人間にしかできない特徴である。そこには食事や飲み物といった会話を促進させる効果も重要だろう。

実は私は本当に会話がしたい場合、食事にこだわらないことにしている。つまり、どっかその辺の店である。理由はフォーカスするのが食事ではなく、その人との会話だからだ。有名店の食事となれば食事の品評を俎上に載せる。私流にはそれは邪魔なのだ。焼肉なんて一人で一枚ずつ焼くのがベスト。皆で行って網一杯に焼いて、半ば焦げた肉を食わされるのは忙しいわ、旨くないわ、会話は途切れるわ、でたまったものではない。

かつてパワーランチという言葉がはやった。ビジネスランチで最大限の効果をはっきりする方法である。その秘訣の一つに客を壁の方に向かわせるのが鉄則とある。客がレストランのざわつきやサーバーの動きで会話の集中力が途切れないように自分の後ろには壁しかないようなセッティングがベストとされる。

会話とはそれほどエネルギーを使うものだ。スマホで音声入力してちゃっちゃと済ませる会話とは海外旅行英会話集のような基本のやり取りだけであって本質的な会話を通じた討論、討議、バトル、説得、疑問などは出にくいことを指摘しておこう。

よく異業種交流会がオフ会で設定されるのは知らない者同士はスマホ会話の対象になりにくいからだろう。とすればオフ会でこそ、本当に面白い発見ができるということでもある。

皆さんもその重い腰を上げてイベントに出てみたらどうだろうか?きっと刺激一杯のはずである。


岡本裕明(おかもとひろあき)

1961年東京生まれ。青山学院大学卒業後、青木建設に入社。開発本部、秘書室などを経て1992年同社のバンクーバー大規模住宅開発事業に従事。その後、現地法人社長を経て同社のバンクーバーの不動産事業を買収、開発事業を完成させた。現在同地にてマリーナ事業、商業不動産事業、駐車場運営事業などの他、日本法人を通じて東京で住宅事業を展開するなど多角的な経営を行っている。「外から見る日本、見られる日本人」の人気ブロガーとしても広く知れ渡っている。