飲食だけが起業じゃないぞ!|バンクーバー在住の人気ブロガー岡本裕明

 カナダで起業する日本人ビジネスと聞けばラーメン店に居酒屋、カフェ…というイメージだろうか。事実、それ以外の業種の起業はかなり少なくなってきた。また、カナダで起業するレベルは日本でいう商店主といった小規模事業者がほとんど。なぜ、こうなってしまったのか、そしてもっと面白いことはないのか、考えてみよう。

 日本人の若者が起業しなくなったと言われて久しい。日本のデータによると日本で起業した人の年齢層を見ると60歳代と30歳代以下がほぼ同率という奇妙な結果に行き当たる。60歳代の起業が多いのはリタイアして第二の人生を送るために腕自慢、能力自慢の人たちが会社を興しているケースであろう。それこそ、そば打ち修行をして週末だけ営業する蕎麦屋の起業は好例であろう。あるいは私の知り合いで多いのがコンサルタント業を興す人。それまで培ってきたノウハウを元に企業などへのアドバイスを行う会社がそれにあたる。

 では若者の場合、どうだろうか?日本では飲食とIT関係というイメージは強い。また、海外における近年の日本人起業は飲食、英語学校、留学センター、IT、美容関係が多い。

 私の周りにも起業希望者は多い。だが、その前にはハードルというより乗り越えるのが困難な壁が立ちはだかっているケースもある。また、起業のアイデアもブルーオーシャン型ではなく、レッドオーシャン、つまり、未知の世界の開拓というより既存ビジネスをより改良して競合に挑むというケースが多い。

 起業家は一様に「うちは違う」と差別化を強調するが、本来の差別化とは誰もまねできないものをいう。バンクーバーで28年、起業の歴史を見続けてきて思ったのは「物まね天国」ということだろう。かつて日本人が「初物」としてやり始めた新規事業はことごとくほかの会社にまねをされ、顧客を奪われ、倒産や閉店になっている。よい例がカラオケボックスだろう。バンクーバーで日本人起業家が始めたもののわずか半年程度で雨後の筍のごとくあちらこちらで生まれ、日本人経営はとうの昔になくなっている。

 また日本人が長年やってきたビジネスが立ち行かなくなるとそれまでの顧客が非日本人経営の店や事業に一気に流れることもしばしば起きている。

 カナダで起業する多くが失敗しやすいのはなぜだろうか?一つには日本人をターゲットにしたビジネスは廃れる、ということだ。理由はもともとのマーケットのパイが小さいこと、お金に対して日本人はかなりシビアであること、消費をリードする30〜40代の日本人が少ないことと、女性比率が大きく子育て世代の年齢に絡み、消費市場でのアクティビティがある程度制約されることなどいろいろ要因はある。

 一方、カナダ人マーケット(ローカルマーケット)を対象にした場合には大きく伸びるケースもある。例えば最近のカナダで成功するラーメン屋事情はデートプレイスになれるかが一つのカギとなりつつある。おしゃれな店で店員がただ注文を取るのではなく、ナイスな振る舞いの中、彼女と彼氏が飲み物をとり、餃子をアペタイザーで注文し、メインはラーメンでデザートもあり、となればどうだろう。新しい若者のギャザリング スポットと化す。だが、数あるラーメン屋で注文を取る以外のふるまいができる店員がいるところは極めて限られるであろう。ここが差別化の一つである。

 もう一つはイマジネーションの欠如である。ビジネスの想像力とは常日頃の自己啓発力にあるといってよい。一方で多くの人はネットとスマホに頼る時代となり、情報の受け手と化している。だがそれは受動的行為であり、能動性がなく、起業といった自己実現を目指すスタイルへの訓練が少なすぎるのである。

 また、日本人は往々にして深堀が得意である。ただ、果たして市場はそこまでの深さを求めているものなのか、そこはお構いなしというケースもある。

 北米でビックビジネスが展開しやすい土壌があるのはあるアイデアについてあらゆる見地から検討し、パーフェクトなプレゼンテーションと人を引き込む魅力のあるイニシャルコンセプトを立ち上げるところにある。シリコンバレーに集まる起業家とエンジェル投資家の厳しい査定合戦は説得させる力があってこそのビジネスだともいえる。

 日本人の起業がなかなかうまくいかない理由の一つにローカルマーケットとの対話不足が挙げられる。「日本でこれが流行っているからこちらでも大丈夫だろう」と思っていると全然外すことはある。

 例えば日本酒を海外で普及させようと官民が努力している。だが、皆さんは日本酒を積極的に飲んでいるだろうか?否だろう。むしろ、ローカルの人が寿司屋で熱燗を飲んでいる方が目に付く。普及しない理由の一つに食事とのあわせ方が難しいとされるが、その理由に味覚で重要とされる酸味が日本酒にはないという弱点は誰も指摘していないだろう。他方、中途半端なバンクーバー進出だった100均のダイソーは「踏み台ビジネス」となり、中国系の投資による水平展開がカナダで進む。ビジネスを広く観察していると潜在能力のあるビジネスとそうではないものは割とよく見えるものだ。

 世の中、こんなことがあればいい、と感じるビジネスはごろごろ転がっている。よくニッチマーケットを攻めろというが、カナダは隙間だらけの市場と言える状態にある。よいアイデアと強い精神力と努力を惜しまなければ無限の可能性がカナダにはまだ残されている。

 若者よ、大志を抱け!

岡本裕明(おかもとひろあき)

1961年東京生まれ。青山学院大学卒業後、青木建設に入社。開発本部、秘書室などを経て1992年同社のバンクーバー大規模住宅開発事業に従事。その後、現地法人社長を経て同社のバンクーバーの不動産事業を買収、開発事業を完成させた。現在同地にてマリーナ事業、商業不動産事業、駐車場運営事業などの他、日本法人を通じて東京で住宅事業を展開するなど多角的な経営を行っている。「外から見る日本、見られる日本人」の人気ブロガーとしても広く知れ渡っている。