カナダに住んで良かった、悪かった?|バンクーバー在住の人気ブロガー岡本裕明

 カナダに住んで良かったか悪かったかと改めて聞くと「ここは好きだけど、これはいや」という話はたくさん出てきそうだ。それこそこのテーマで座談会でも出来たら最高だが、まずはたたき台として私が見聞き、感じたことを通じて良かったこと、残念なことを綴ってみよう。

 私がバンクーバーに来ることになったのは会社の指示。つまり駐在員だった。しかも当時、ロスに行けと言われるはずだったのでバンクーバーと言われた時、「はて、何かあったかな?」と思ったものだ。「ゼロからのスタートをせよ」という社命だとあとから知って青ざめた記憶がある。カナダに憧れて来たわけではない。スタッフもいなければ事務所もなく、そこには会社で所有する土地だけがあり、「それを開発せよ」という無謀なものだった。私が29歳の時である。

 こうなるとI love Vancouverなどというしゃれた気持ちなど毛頭なく、ビジネス一心で瞬く間に月日は過ぎる。英語にも苦労し、考え方やビジネスマナー、人脈作りもたやすくなかった。特にカナダは友達が作りにくい国と言われている。アメリカにいた時に比べ人々の心は二枚舌ならぬ表の顔と裏の顔を使い分けるところがあり、本当のところがわかりにくい思いをずいぶんしたものだ。

 私は一時期、ホテルの仕事もしていたが、スタッフは客前では絶対にNOという言葉を使わずどんなクレームにもにこやかに前向きに処理する一方、ホテルの裏側に行けばかなり辛辣な言葉で客の文句を同僚と話していたりする。

 こちらの方を日本食レストランに誘うと「ジャパニーズ料理、グレート!」と言いながら「刺身や生ものは一切ダメ」とメニューを見てから言われ、困った経験をしたことが何度かある。アメリカ人ならはっきりと俺は生魚はだめなんだ、と事前に言ってくれるケースが多かった印象がある。

 住んで良かったと思い始めたのはこちらの人の心の広さだろうか?基本的に日本人と違ってあくせくしていないのでいつも心のどこかに余裕があるのだ。何か聞いてもいやな顔一つせず丁寧に教えてくれたり、人の話に耳を傾ける。

 また議論になった時でも相手の話を聞き置き、「それはそうなんだが…」と一定の評価をした上で「でも、こういう考え方もある」といった具合で話の展開が上手だったりする。その点はアメリカ人のように話を被せてくるごり押し感がなく、マイルドなしゃべり方の中にも英国由来の頑固さがあったりするのが特徴といえるだろうか?

 若い方々にとってカナダに来ると日本のように職場環境が鎖につながれていて檻の中に閉じ込められ一挙一動、事細かにとやかく言われるのとは違うことに気がつくだろう。1人ひとりに責任と課題を与えられ、この範囲で自分でやってみろ、と指導されることが多いと思う。初めての人には戸惑いすらあると思うが、慣れてくると自分はロボットではないということに喜びを感じるはずだ。考え、コミュニケーションし、達成感を持つということは日本の職場環境ではなかなかできないだろう。

 また、カナダはモザイク社会と言われるように多文化をその特徴としている。街中には様々な出身や背景を持つ人々が同居し、その人たちにはモザイクの枠組みのようにお互いがリスペクトしあう関係ができている。アメリカがメルトポット社会(どこから来ようと来たとたんアメリカ人となること)を半ば国家のプライドとしているのと大きく相違する。

 日本国内では中国人や韓国の人との接点は何か遠い感じがあると思うが、ここに住んでいると自然にお付き合いできるだろう。英語学校のクラスで中韓の方と一緒だという人も多いし、一緒に遊びに行くのは韓国人の友達という若者は意外と多いものだ。

 では嫌なところはどうだろうか?

 国際結婚された方でうまくいかなかった方をたくさん知っている。日本人女性は尽くしてくれるという期待と違ったという理由は時々耳にするし、根本的な常識観が相違していることはあるだろう。奥さんだけが夜遅くまでどこかに遊びに行くことはこちらのスタンダードではあまり理解されず、家族の観念の違いに戸惑っている人も多いかと思う。

 サービスが遅い、というクレームはあちらこちらで耳にする。特に医療関係はたらいまわし、アポイントに時間がかかりすぎる、など一番不満の声が上がるエリアだ。ある程度の年齢になった方が日本にご帰国されるケースが多いのは「こちらの医療ではとても不安だ」ということが主因である。

 ただ、私の知る限り、当地に何十年と住んだ後に日本に帰ると日本での生活環境が合わず、逆にストレスをためて病気になったり、短命になる方は意外と多い。

 もう一つはカナダの日本人コミュニティは日本より活発でよそ者をウェルカムするのに対して日本のそれはよそ者を受け入れるのに非常に手間暇かかるという文化的ギャップがある。これが日本帰国者にとっていい歳して自分たちが孤独だということを感じる点だ。

 カナダのいいところ、嫌なところ、いろいろ考えるところはあると思うが、総合的に見ればカナダはバランス感覚のある素晴らしい国だと少なくとも私は自信をもってお勧めできる。私は在28年で日本には年5〜6回行くが、今では日本は稼ぎに行くところ、カナダは住むところという28年前の真逆の価値観になっている自分にびっくりしている。皆さんは、さて、どうだろうか?

岡本裕明(おかもとひろあき)

1961年東京生まれ。青山学院大学卒業後、青木建設に入社。開発本部、秘書室などを経て1992年同社のバンクーバー大規模住宅開発事業に従事。その後、現地法人社長を経て同社のバンクーバーの不動産事業を買収、開発事業を完成させた。現在同地にてマリーナ事業、商業不動産事業、駐車場運営事業などの他、日本法人を通じて東京で住宅事業を展開するなど多角的な経営を行っている。「外から見る日本、見られる日本人」の人気ブロガーとしても広く知れ渡っている。