オスカー・ピーターソン生誕90周年記念アルバム
Oscar Peterson オスカー・ピーターソン
生誕90周年記念アルバム 制作発表レセプション
あわせてグラミー賞32、ラテングラミー2、アカデミー賞3、ゴールデングローブ1、英国アカデミー賞1、ジュノ賞7、という17名の豪華メンバーが参加したアルバム『Oscar, with Love』
2007年に82歳で亡くなった世界的ジャズピアニストのオスカー・ピーターソン氏。「銀盤の皇帝」と異名をとるテクニックとアドリブを駆使したダイナミックな演奏で知られた氏は生涯で200枚以上のアルバムを発表し、グラミー賞を8回受賞したジャズ界の功労者だ。親日家としても知られた氏はピアニストとして活躍した65年間に40回以上日本で公演を行い、著名な「高松宮殿下記念世界文化賞」も受賞している。(同賞は毎年、日本美術協会から芸術における功績に対して贈られる最高の権威ある国際的な賞)このたび、夫の生誕90周年を記念し、未発表曲を含む作品を世界屈指のジャズミュージシャン達の演奏でレコーディングした妻のケリー・ピーターソンさんに、記念アルバム制作のきっかけやピーターソン氏と日本との関係について8月19日にYorkvilleにて行われたレセプションにてお話しを伺った。
今回のアルバム制作に至った経緯を教えてください。
ジャズピアニストとして知られた夫でしたが、実は多くの作品を残した作曲家でもありました。今回は作曲家としての側面に焦点を当てています。また、オスカーの才能を見出したマネージャー兼プロモーターで大親友でもあったノーマン・グランツのジャズ界への貢献を称えるのももう一つの目的で、‘Oscar, with Love’は二人の巨匠への敬意を込めて新しく設立されたTwo Lions Recordsから発売されます。8〜10曲ずつ候補曲を選び、彼の親しかった友人や仕事仲間に送り、その中から好きな曲を選んで演奏してもらいました。不思議なことにどのアーティストも重複することなく異なる曲を選んでくれました。今回のアルバムの特別な点は、未発表作品が集められていることに加え、夫の大事にしていたウイーンのBoesendorfer社のImperialピアノを本人以外が初めて使ってレコーディングした点です。
どのようなアーティストが参加していますか?
チック・コリア、モンティ・アレキサンダー、ラムゼイ・ルイス、ケニー・バロン、ベニー・グリーン、オリバー・ジョーンズ、小曽根真、Hiromi、リニー・ロスネス、ビル・チャーラップなど世界ジャズアーティストたちです。チック・コリアはこの企画のため特別に‘One For Oscar’『オスカーのための一曲』を作曲してくれました。さらに二人のスペシャルゲスト、作曲・編曲家でピーターソンの親友だったミシェル・ルグラン、クラシックピアノの鬼才アンドレ・ワッツも参加しています。参加アーティストは夫の幅広い交友関係を反映していると思います。
ご自宅でのレコーディングはいかがでしたか?
どのアーティストもオスカーのスタジオという神聖な場所でレコーディングを行うことを名誉で畏れ多いことだと強調していました。レコーディングはそれぞれのアーティストの個性が活かされたのと、同時にオスカーに対する深い敬意に包まれて和やかに行われ、素晴らしい仕上がりになりました。長年の友人であるHiromiとは共通の思い出を語りながら楽しくリラックスした時間を過ごしました。彼女は音楽に真摯に向き合いながらも演奏を心から楽しんでいました。小曾根真は1番最初にレコーディングを行ったのですが、ユーモアあふれる人柄でレコーディングの日のことを今思い出しても笑ってしまうほどです。情熱的でいつまでも演奏を続けたがっていました。チック・コリアが参加してくれたのは夢のようでした。忙しいツアーの合間に立ち寄り、オスカーのために特別に書き上げた1曲を録音しました。この巨匠がオスカーのピアノを弾くのを間近で見れたことは意味深かったです。ミシェル・ルグランも同様に特別でした。あっという間に録音は終わり、オスカーと長年の友人だった彼と音楽や人生について語ることもできました。今回は私にとってエクゼクティブプロデューサーとしてレコーディングに携わる初めての機会でしたので学ぶことばかりでしたが、最高の演奏をしてくれた参加アーティストたちのおかげで、昨年11月から10カ月に及んだレコーディングが終わりました。今は編集を行っている最中です。12月11日の発売日が待ち遠しいです。
ピーターソン氏と日本人アーティストとの交流について聞かせてください。
夫とHiromiは彼女がデビュー間もない頃に出会って以来、彼女の秀でた才能を評価して、サポートしてきました。温かく素晴らしい人柄の彼女のそばにいると楽しく、好んで一緒に出掛けていました。オスカーは仲の良い人を冗談でからかうのが好きでしたが、彼女もよくいじられていました。2004年の彼の最後の日本ツアーでは彼女のトリオが前座を務めてくれました。写真好きの夫は、ほぼ毎日ヨドバシカメラへ足を運んで、毎晩のように控室に彼女を呼んでは新しいデジカメを自慢していました。そのときの様子をのちに彼女は‘Oscar’s camera’という曲に残しています。小曾根真は小さい頃に夫がきっかけでジャズピアニストを目指した程で、いつもオスカーへの尊敬の念を表していました。オスカーも彼の才能を賞賛しておりましたし、二人で音楽や作曲についてよく語っていたものです。一度、彼がオスカーのために作った曲を演奏した際にどうしても曲名がつけられなかったため、オスカーが代わりに‘Test of Time’と名付けたこともありました。
親日家としてのピーターソン氏についてお聞かせください。
夫は日本でいつも温かく友好的なもてなしを受け、いつも素晴らしい時間を過ごすことができました。また、日本のファンの彼の音楽に対する深い理解と熱意、ジャズへの高い関心のおかげで彼はさらに日本が大好きになり、毎回の日本行きを特別に楽しみにしていました。83年に日本でノーマン・グランツ率いるJazz at the Philharmonicと共にレコーディングしたアルバムが’Return to Hapiness’と名付けられことからもお分かりいただけるかと思います。すき焼き鍋を持ち帰ったり、’Sushi’という曲を作曲するほど日本食も好きでした。また秋葉原や最新電化製品もお気に入りでした。
おすすめのアルバムがあれば教えてください。
どれも素晴らしいのですが、あえて選ぶなら‘The Paris Concert(1978)’、‘Night Train(1963)’、‘A Tribute to my friends(1983)’、日本でレコーディングされた‘Freedom Song(1982)’と‘Return to Happiness(1983)’等です。今回の‘Oscar, with Love’もそれらと同様もしくは超える素晴らしいアルバムになること間違いなしです。一ファンとして毎日彼の演奏をレコードで聴いていますが、今でも彼の才能に圧倒されてしまいます。
異国カナダで夢を追う日本の若者にアドバイスをお願いします。
夫は夢を追って実現することを示したよいモデルだと思います。夢を追い続けて、全力投球してやり抜き、実現しました。最初は苦労しましたが、どんな時もあきらめずに打ち込んで最高の音楽を作り出しました。成功は決してお金でははかれません。好きなことにどん欲に取り組めることが大切だと思います。現代社会は物質的成果が重視されますが、夫は一生懸命に努力することと、心が満たされるかという点を常に重視していました。ぜひ、自分の決断に自信を持って強い姿勢で夢を追ってほしいです。