TORJAビジネス研究 北米市場を席巻するゲーム・マンガ・アニメ産業事情を徹底解剖

otaku-business-01北米マンガ・アニメ事情

2000年初期に始まった、北米のマンガブーム。

カナダの書店のコミックコーナーにもあたりまえのように日本の漫画の英訳バージョンが並び、マンガファンは子供から大人まで幅広い。
アニメのコンベンションは北米各地で開催され、来場者数は年々伸びているという。
いまやマンガ・アニメは日本の代名詞ともいえる一大文化となった。


マンガブームの始まり北米スタイルから日本スタイルへ

そもそも北米のコミックと日本の漫画は多くの点で異なる。冊子の大きさ(北米:23×15センチ、通常32ページ編成/日本:17×11センチ、通常200ページ編成)、綴じ方向の違い(北米:左綴じ/日本:右綴じ)、カラー(北米)と白黒(日本)の違い、そして描写方法の違いである。細密に描かれるアメコミに対し、日本漫画のキャラクターは目が大きく鼻がほとんどないといった描写方法であり、この方法は「マンガ・スタイル」と称されている。
当初、これらをどのように北米人の嗜好に合わせるのかが課題であった。そこで、大手コミック出版社Vizは、綴じ方向の違いを反転印刷で解決。ボリュームも32ページのパンフレット式に変換。カラー化も行われた。このように、できる限りアメコミに同質化することで、アメコミ読者獲得を狙ったのである。また、当時の北米でのコミックはもっぱらヒーローものであり、読者も少年が大半。したがって、取り扱う日本漫画も少年ものに絞られていた。
そこに新たな流れを作ったのが、TokyoPopが出版を始めた『美少女戦士セーラームーン』である。これまでの「コミックは男の子のためのもの」という概念を覆すこととなった。また、同社は反転印刷をやめ、日本漫画に多用されるオノマトペ(擬音語)の翻訳もあえてせずに、そのまま日本語で記載。つまり、日本の漫画の形式に忠実に出版したのである。これらの要素が相まって、一気に北米マンガ市場が活気づくこととなった。新規に参入する出版社も増えたため、勢いはさらに加速した。

モール内の大手書店とアニメ放映

ショッピングモール内に展開する大手書店チェーンのWaldenbookがマンガを扱い始めた。休日にはダウンタウンではなく、家族でショッピングモールにでかける子供たちがターゲット。そして、それから5年のうちに、今度は別の要素が加勢した。テレビでのアニメ放映である。2005年に、Cartoon Networkで『NARUTO』の放送が始まり、続いて2006年に『BLEACH』がスタート。「The Cartoon Network effect」と呼ばれる、マンガ・アニメ関連商材の売上が伸びる現象がおき、書店やコミックショップでのマンガの売上はうなぎ登りとなる。
このようにマンガブームは勢いづき、マンガ市場規模は2002年の6,000万ドルから2007年には2億1,000万ドルへと急成長を遂げたのである。しかし、何事も急成長には跳ね返りがつきもの。徐々に陰りを見せ始めた。

低迷のきっかけ

2011年、北米にマンガを広めたパイオニアである大手書店Bordersが倒産。これがマンガ業界に大ダメージを与えることとなる。当時マンガの売上の半分はBordersが占めていた。アニメもまた、別の問題に直面していた。ゴールデンタイムのテレビ放送から、Crunchyroll や Viz Animeなどのウェブ配信へと押しやられた。時を同じくして、海賊版の違法ダウンロードサイトも登場。アクセスも簡単で、ただでダウンロードができるようになってしまった。
マンガの売り上げは激減。米国のポップカルチャー情報サイトICv2の年次白書は、2012年の売り上げを2007年の半分、1億500万ドルと試算。ICv2のCEO、Milton Griepp氏によると、今後もさらなる減少が予想されるという。さらに、同氏によると、北米における年間のマンガ出版数は2007年の1,500冊から2011年には695冊に減少している。この間に7つのコミック出版社の倒産があり、また多くの出版社でマンガの新刊出版を中止した、ということも要因であるとしている。

市場はこのまま崩壊か、それとも巻き返しか!?

このように、売上低迷でやや元気のない市場に見えるが、出版社の展望は逆に前向きであることに注目したい。一時期の爆発的なブーム、そこからの急落。そして今、やっと業界が安定期に入ったという。版権獲得も厳選を重ねた作品に絞り、出版数も縮小はしたが、発行数と書店などの小売業者からの発注数のバランスが良い水準でキープできているとのこと。出版業界専門誌Publishers Weekly(PW)のインタビューでKodansha ComicsのディレクターDallas Middaugh氏は「最もひどい時期は過ぎたと感じています。マンガの可能性はまだまだあると確信しています。」と明るい展望を語っている。マンガ市場は安定、そして成熟期に入っている。

デジタル化の台頭

書籍のデジタル化が普及する中、もちろんマンガ業界にもその新風はふきこんでいる。各出版社がデジタル化に乗り出しており、大手コミック出版社Vizは「デジタル部門も順調です。一大事業になりつつあります。ただ、デジタルと紙媒体は全く別物。デジタルが紙媒体に替わるポジションということではありません」と話す。日本の伊藤忠商事も2010年、北米での電子書籍事業に参入。日本のマンガを翻訳し、iPhoneのアプリ「GET YOUR COMIC」で配信している。

海賊版とファン心理

日本で発売・放映されたマンガ・アニメが北米でリリースされるには、タイムラグが生じてしまうのはやむを得ない事実である。しかし、ファンの中にはそのもどかしさによって、インターネット上で日本語版を入手し、自ら翻訳を載せ、ファンサイトなどにアップする、「ファンサブ」という現象もある。ライセンスの取得や翻訳、吹き替え作業等々、どうしても時間がかかってしまうということであるが、北米ファンにこれ以上ストレスを感じさせないためにも、解決策が待たれるポイントである。

コミック専門店の可能性

よりコアなファンが厚くなってきている今、地域のコミック専門店の存在も重要である。トロントにあるコミック専門店「Beguiling」のマネージャーChristopher Butcher氏はPWのインタビューで、マンガ産業の現状への見解を示している。「ICv2の白書を読んで驚いたのが、マンガ市場が低迷し続けているということです。というのも、私たちの店の売り上げは下げ止まりとなり、過去2年で横ばい状態をキープしているのです。マンガは依然出版物の重要なポジションを占めており、それは昔から変わっていません。若い読者を惹きつける最大のカテゴリーであり、読者数も上位を占めています。最近では読者層の変化もみられます。10代後半~20代は、最近出回る海賊版に影響をうけているように思います。しかし、30代以上の読者も根強く、デジタル媒体も利用しながら、印刷物も購入する傾向にあるように思います」

産学官連携で盛り上がるカナダ・ゲーム産業事情

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CDMビルディング©CDM

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CDMプロジェクトルーム


近年カナダのゲーム産業が熱い。2012年には、GDPに対する寄与が32億ドルに達し、2011年の23億から大きく増加している。また、産業全体の雇用も5%増の16,000人を超える結果となった。ゲーム産業に携わる人口は、アメリカ、日本に次いで世界第3位。バンダイナムコやグリー、DeNAなどの日系ゲーム企業も続々と進出を果たしている。何故カナダなのか?カナダにおけるゲーム産業の今を探る。

カナダの中でも特に盛んな地域は3都市。バンクーバー、モントリオール、そしてトロントである。カナダがゲーム産業に強い理由の一つに、「産学官連携」が挙げられる。まず、上記3都市のある各州では、同産業に対する税の優遇措置がとられている。

ブリティッシュ・コロンビア州(バンクーバー)

①国際ビジネス活動プログラム

ブリティッシュ・コロンビア州で行われた対象国際事業から得られた利益に対して、国際ビジネス活動プログラムに登録している企業及び社員が支払った法人税、個人所得税の還付制度。登録料は5,000カナダドル。

②インタラクティブ・デジタルメディア税額控除

対象人件費に対する17.5%の税額控除。

オンタリオ州(トロント)

①R&D税制優遇措置

R&Dに掛かる経費を100ドルとすると、連邦税と州税の優遇措置を併用することで、これを44ドル以下にまで抑えることができる。

②オンタリオ・インタラクティブ・デジタル・メディア控除

オンタリオで制作されたゲームに掛かる人件費、マーケティング、完成したゲームの流通コストの35〜40%が還付対象になる。さらに、この還付金にはプロジェクトごとの、あるいは年間の申請限度額が設定されていない。

③オンタリオ・コンピュータ・アニメーションおよび特殊効果控除

コンピュータアニメーションと特殊効果制作に掛かる人件費の20%が還付対象になる。

④音声録音控除

オンタリオでの録音に掛かる制作およびマーケティング・コストの20%が還付対象になる。

ケベック州(モントリオール)

①マルチメディア・タイトル向け控除

人件費の37.5%を行政が負担する。

②文化事業向け控除

映画またはビデオ制作に係る人件費の30%に加え、コンピュータを使用した特殊効果やアニメーションに係る人件費10%の追加控除。

さらに、教育機関との連携も大きい。デジタルメディアに特化したプログラムを設けている学校が多く、バンクーバーにあるセンター・フォー・デジタルメディア(CDM)もその一つ。ブリティッシュ・コロンビア大学、サイモンフレーザー大学、エミリーカー美術デザイン大学、ブリティッシュ・コロンビア工科大学の4大学が共同で運営する。生徒がチームを作ってプロジェクトを進めていく実践的な教育プログラムを行っている。注目すべきは、構内に、バンダイナムコのスタジオがある点である。バンダイナムコ社は昨年、北米初進出となるバンクーバースタジオを開設、8月より操業を開始している。CDMとは2年のリース契約でスタート。ナムコはインターン生をプロジェクトチームに加えることで、面接よりも確実に優秀な人材の確保ができる。CDMのディレクターであるリチャード・スミス氏は地元紙バンクーバーサンのインタビューで、「この試みでは相互利益が得ることができる。ナムコは北米の顧客が望むゲームを北米のチームで開発ができ、我が校の生徒もプロジェクトへの参加によってさらに成長できる。」と話している。CDMの卒業生の約30%はゲーム産業に従事するという。

また、カナダに進出を決める多くのゲーム企業が挙げるのは「人材の豊かさ」である。先にも述べたように、カナダの教育機関でゲーム関連の専門的なプログラムを開設しているところが多く、そこから優れた学生が続々と卒業してくる。また、移民国家カナダならではともいえる、国籍の多様性。10カ国以上の人材が集まると、日本ではあまり気づかないような斬新なアイデアがでてくるなど、柔軟な発想が生まれる。アメリカと比べて人件費が安いということも大きく影響しているだろう。ゲーム開発者の中でも賃金水準が高いとされるプログラマーの平均給与でみると、アメリカでは約85,000ドルなのに対し、カナダは74,000ドルである。ゲームデザインなどの他の職種も平均して10〜20%安いという。

人材に関してもう一つ注目したいのが、比較的多いリストラである。北米企業は日本と違って解雇が容易な雇用制度を持っている。契約社員が多く、レイオフも実施しやすいのが現状だ。一方で、能力があれば新卒や中途採用といった区別なしに仕事を得ることもできる。

昨年4月、業界最大手のエレクトロニック・アーツ(EA)がバンクーバーにあるスタジオを2か所閉鎖した。ビジネスバンクーバー誌の報道によると、解雇のめずらしくない同業界のなかでも、今回のEAのリストラは大きなものであったという。業績が好調なときはスタッフを急激に増やし、悪化すればスタジオを丸ごと閉鎖するという荒治療を繰り返してきたEAであるが、このようにリストラされた社員が、自ら会社を興すという傾向も強い。実際、30人規模の中小企業も数多く点在している。このようにして、業界内の新陳代謝を早めることで、次々と有望な企業が育つのである。そして、大手と中小企業の共存で、さらなる業界発展につながる。同誌によると、ゲーム産業は今、パラダイムシフトを迎えているという。小さなスタジオで制作可能なモバイルソーシャルメディア用のF2P(無料でできるオンラインゲーム)の急成長が大きな要因のようだ。

時代とともに進化を続ける家庭用ゲーム機と、スマートフォンやSNSの普及とともに急成長しているオンラインゲーム。世界のゲーム市場では、このどちらが今後の主流となるのかという、次の時代をにらんだ争いがおきているという。さらには、新しいコンピュータ技術が登場すると、それを普及させるキラーソフトになるのもゲームである。コンピュータ発展の歴史にはかかせない事実であり、今後も間違いなく繰り返されるだろう。そして、カナダがその中核を担うのはいうまでもない。