マイ・ファニー・ヴァレンタイン|カナダで出会う音楽の話【第8回】

 年が明けたと思ったらあっという間に2月。1月はお正月成人式など大切な祝日や行事があり、また冬休み等も相まって皆様においてはお忙しく、そして楽しく過ごされたことと思う。私事で恐縮だが、実は今月も我が家では大事な行事が待っている。バレンタインデーである。丁度付き合い始めた日がバレンタインデー付近なので、記念日も兼ねて、パートナーのお膳立てでデートに誘っていただくのである。受け身で内向的でしかもヲタクのミドルエイジ男性にとって、1年中で一番苦手で面倒臭いであろうこの日、手書きのカードと共に素敵な花束を頂き、ディナーへとお出掛けするのである。

 バレンタインデーは遙か昔ローマ時代に起源を持つという。以前は正式な祝日だった時代もあるそうだ。その歴史には諸説あるが古代ローマの全ての神々の女王ユノ(ジュノー)が関係しているらしい。しかもこの女神は結婚と出産を司るのだそうで、なんだか恐れ多い記念日の様だが、私が知る限り、日本で最初にバレンタインデーを取り込んだのはわがふるさと神戸のモロゾフである。当時関西付近に駐在していた西欧の人々に向けての宣伝の一環だったとのことだ。第2次世界大戦前の事だ。ちなみに私はモロゾフならチョコレートよりあの昔ながらのガラス容器に入ったプリンの方が好きだ。

 バレンタインデーに関連する曲はポップスやジャズ、ロックに至るまでたくさんの数がある。再び個人的なことで申し訳ないが、私が最初に歌の修行を始めたのはジャズだ。洋楽自体は小学生の頃から聴く機会があり、ビートルズやビリー・ジョエル等をピアノで耳コピしたりしていたのだが、ある日10代後半にFMで耳にしたチェット・ベイカーのマイ・ファニー・ヴァレンタインに衝撃を受けた。なんだろうこの無機質に聴こえながらも実はたくさんの想いが溢れ出るこの声は!ポロン、ポロン、と弾くベースとピアノのこの豊かな音色は!それまで馴染みがあった多くの曲とは全く違う彼のスタイルは、私にとって歌うということにのめり込むきっかけとなった。歌詞も新鮮だった。要するに、あなたは容姿も一般受けはしないしスマートでもないけれど、私にとっては最高の人で、あなたが傍にいれば毎日がバレンタインデーなのですよという、やはり当時から全く一般受けしなかった私に多大な勇気を与えてくれる内容だったのである。ジャズ修行を始めてからそれこそたくさんのバージョンを聴いたが、今でもマイルス・デイビスとこのチェット・ベイカーのマイ・ファニー・ヴァレンタインは、私の中でまっすぐバレンタイン関連曲の王道を突き進んでいる。そして、バレンタインデーではなくとも、こういうヲタクっぽい話を遠慮なく出来る相手と機会があるというのは、ささやかであるが、人生を少しだけ豊かにしてくれている様な気がする。有難いことである。


SAYAKA MUSIC STUDIO グリフィス千佳 

 兵庫県神戸市生まれ。モデルを経てライブや舞台を中心に歌手、役者として活躍。2012年に移住、現在はさやか音楽教室で講師を務める。1児の母。