別れの季節、3月に思う音楽話|カナダで出会う音楽の話【第9回】

 四十路で海外移住初体験の私は、結局どこまでいっても根っからの日本人で、トロント生活6年が過ぎても未だにこちらの環境や習慣に馴染むことに苦労している。そんな私は、3月といえばセントパトリックデーと聞いてもあまりピンと来ず、娘がいることもあって自宅でささやかに一段だけのお雛様を飾って満足したりしている。そしてやはり卒業や入学、就職準備そして引っ越しなど、別れの季節という想いが心のどこかにある。

 それこそ卒業にまつわるヒット曲が星の数ほどあるのも、寒い冬から春への移ろい等も相まって、きっと他の日本の方々にとっても思い入れが強い季節なのだろう。人それぞれ忘れ難い「卒業曲」は違ってくると思うが、以前のコラムでも取り上げた「蛍の光」は、私の世代では卒業式における定番曲のひとつだ。

 この曲は「オールド・ラング・サイン」というスコットランド民謡に日本語独自の歌詞をつけたもので、北米では披露宴や新年に歌われる。私は海外ではじめて新年にこの曲を聴いたときは、そこはかとない違和感を覚え、またついつい学生時代を思い出して妙にしんみりしてしまったのも、音楽というものがそれくらい個人の記憶や経験に直結しているということなのかも知れない。

 ちなみに、スコットランド音楽とアイルランド音楽は、似ていて色々と共通点も多く、一括りしてケルト音楽とまとめられることもあるが、これらの地域はイングランドも含めて、複雑な歴史背景があるいうこともあり、アイルランド音楽の中でもイングランド反戦歌等は特化したアイルランド音楽として捉えるべきと個人的に思っている。

 カントリーミュージックはこれらの音楽を一つの材料にしてつくられ、ロックはそのカントリーミュージックにブルースやソウルなどのブラックミュージックを融合して生まれた。

 日本では蛍の光やダニーボーイ、故郷の空などが有名だが、日本語歌詞は原曲とはまた違うものとなっている。ジグなど伝統ダンスのための舞曲と打楽器を使わない子守歌や抒情的な民謡などがあり、ダブリンやグラスゴーのパブなどでは、プロアマ関係なく日常的にセッションが行われているらしい。いい話である。

 U2やチーフタンズ、エンヤ、クランベリーズやケルティックウーマンなどは、日本でもお馴染みのアイルランド出身のアーティストだ。ケルト音楽の伝統的な要素を取り入れたロックやポップスは、この地域の民謡を元にしてつくられた。日本唱歌で育った日本人の心にも、すっと入ってくる独特の哀愁の様なものが感じられるから不思議である(余談だがビョークはアイルランドではなくアイスランド出身である)。

 セントパトリックデーのパレードでも、もちろんそんなアイルランドの伝統的な音楽やダンスが、これまた美しい民族衣装と共に楽しめること請け合いであろう。ダウンタウンのアイリッシュパブでは、緑色のギネスが振る舞われるかも知れない。トロントに滞在している間に、ぜひ一度はゆっくり拝見してみたいなと思っているイベントのひとつである。

SAYAKA MUSIC STUDIO グリフィス千佳

 兵庫県神戸市生まれ。モデルを経てライブや舞台を中心に歌手、役者として活躍。2012年に移住、現在はさやか音楽教室で講師を務める。1児の母。