第6回 「職人と経営のはざま?」|カナダのしがないラーメン屋のアタマの中


 先日、JRAC(日本レストラン協会トロント支部)が主催するイベント「和食まつり」に、キッチンのアシスタントとして参加してきました。老舗日本食レストランからカナダのトップ100に入るレストランまで参加し、 ざっ串グループも「SUSHI 寿限無」が参加し、カナダの最高峰の職人の皆さんと一緒に仕事ができて、良い経験になりました。


 私はオーナーシェフ自らが現場に立ち、最高の料理を提供し続けているのを見ると、本当に頭が下がります。自分も現場に立って毎日、最高のラーメンを提供するよう努力しろ、という声が聞こえてきそうですが、今日はラーメン屋の視点から「職人」と「経営者」について考えます。

 究極の一杯のラーメンを作るのが職人だとすると、それを毎日300杯、同じクオリティで提供し続け、売り上げをあげて利益を出すのが経営者の役割に当たります。これが寿司屋であれば、その道を究めることでお客さんの単価を200〜300ドル、それ以上の価値を生み出す高級寿司屋というカテゴリーで勝負ができます。

 ただ、どんなに時間をかけて良い食材を使って最高の一杯のラーメンを作っても、300ドル取れるだけの高級ラーメン屋というジャンルには限界があると思います。無理とは言いませんが、高級ラーメンというコンセプトを押し出すにはリスクが高く、勝算が小さいというのが経営判断として正しいのが現実でしょう。だとすると、ラーメン屋としての成功はおのずと数を売ることに比重が寄ります。そこで経営者としては、マニュアルやオペレーションの簡素化、すなわちシステムを構築することで毎日300杯から400杯、同じ味を提供し続けることにフォーカスせざるを得ないのです。


 もちろんオーナーシェフ自らが現場に立って、最高の一杯を提供しつづけるラーメン屋は数多くあります。日本に多く見られる職人スタイルで、カウンター10席でまったくの妥協を許さず、食材にこだわり、時間をかけ、それを千円以下で提供するというようなラーメン屋です。これを全く否定するつもりはありませんし、美味しいラーメンを提供するという意味ではこれが最高の形であると思います。ただ、それで大きなリターンが見込めないのであれば、従業員やその家族をどのように幸せに出来るのでしょうか。日本ではこういった職人的ラーメン屋がストーリーとして好まれ、お客としてはハッピーですが、それをやりたいと思う人間が増えないと産業としては先細る運命です。経営者として、誰を、どのように幸せにするかという事を真摯に考えた結果、自分は現場を抜けて従業員にチャンスを与え、失敗させて、成長を促し、自分と同じ立場の人間が増やすことが自分の使命と感じています。

 誤解を恐れずに言うと、自分が現場を抜けても、80点以上のラーメンを提供し続けることができれば、ビジネスとして成立します。ただ、おれはもっと美味い100点満点のラーメンが作れる、と思ってしまうのもラーメンに魅せられてしまった人間の性かもしれません。現場を抜けておよそ2年、そういった思いを抱えて悶々としていましたが、ついにチャンスが訪れました。

 カナダの最高峰レベルの寿司シェフの一人、「SUSHI 寿限無」の田代浩二氏に、いくらでも魚のアラをやるから、最高の一杯のラーメンを作れと勝負を挑まれたのです。彼に美味いと言わせれば自分の勝ち、そうでなかったら自分の負け。こんなにワクワクする勝負はありません。酒の席での話でしたが、二つ返事でOKしました。ビジネス抜きで、Just for fanで、コテンパンにやっつけてやろうと企んでいます。


「雷神」共同経営者 兼 店長 吉田洋史

ラーメントークはもちろん、自分の興味や、趣味の音楽、経営の事や子育てのことなど、思うままにいろんな話題に触れていきます。とは言え、やはりこちらもラーメン屋。熱がこもってしまったらすいません。