第12回 ラーメンはすすると美味くなる?|カナダのしがないラーメン屋のアタマの中

 ヌーハラという言葉をご存知でしょうか?ヌードル・ハラスメントを省略した言葉で、2016年頃からメディアに登場し始めました。日本人が麺をズズーっとすすって食べる音が、居合わせた訪日外国人には不快に感じられ、精神的苦痛を与えているという事からこの言葉が生まれたそうです。これを受けて、日清食品ホールディングスは「音彦」というラーメンをすする音をカモフラージュするフォークを開発しました。音彦を使ってラーメンを食べると、連動したスマホから、ラーメンをすする音をカモフラージュしてくれる電子音が流れるというシロモノです。あのTOTO株式会社の「音姫」にあやかった、半ば冗談のような商品ですが、こういった商品が生まれるほど、海外からの観光客にとって、あのズルズルは不快なのでしょう。ヌーハラの賛否についてはいろいろ意見があると思いますが、ラーメン屋としてはやはりズズッと豪快にすすって食べてほしいものです。

 なぜか?それは単純に、ラーメンはすすった方がおいしいからです。

 日本人が麺をすするようになったのは、江戸時代に蕎麦が流行したのをきっかけとして、蕎麦の香りを楽しむために人々は麺をすすって食べたという解釈が一般的です。もっともらしい理由ではありますが、どうして麺をすすることが、香りを楽しむことにつながるのでしょうか。そのヒントは、人間の嗅覚器官にあります。というのも、人が何かを食べたときに感じる香りには、実は二つの異なるルートがあり、一つは鼻先香(はなさきこう)といって鼻から直接かぐ香りで、私たちがふだん「香り」というときはこれを意味します。

 もう一つは口中香(こうちゅうか)といって、何かを食べたときに、香り成分が喉から鼻に抜けるときに感じられる香りです。口中香は、舌で味を感じているのと同時に、鼻孔の嗅覚器官で感知するため、味覚と一緒になって「風味」として知覚していますが、この風味を決めるうえで口中香は大きな割合を占めています。

 ラーメンを勢いよくすすることで、スープや麺だけではなく、当然スープの香り成分が空気と一緒に口の中に入ってきます。そして人は麺をすすった後、無意識に必ず鼻から空気を吐き出しています(ラーメンを食べるときに意識してみてください!)。その時に、香り成分を口中香として感知するため、ラーメンはすすった方がよりおいしい、という理屈です。

 ワインやウイスキーのテイスティングで、必ず鼻から空気を抜いて香りを確かめるのも同じ理屈で、焼酎や日本酒でもこれは有効なので、ぜひ試してみてください。

 ちなみにこの「ズルズル」という擬音語、オノマトペとも呼ばれていますが、統計的には点々がつく濁音は不快な音と感じられることが多いようです。たしかにラーメンをすする音としては最適なような気がしますが、それ以外の用法としては「ずるずると関係がつづく」や「ゾンビがずるずると追いかけてくる」など、ネガティブな使われ方が非常に多いことからも、日本人以外にはなかなか受け入れられない音というのは合点がいきます。

 では、なぜ日本だけが麺を「ズルズルすする」=おいしいというイメージが定着しているのでしょうか。残念ながらその答えはわかりませんが、最後に藤子不二雄の漫画にたびたび登場する、ラーメン大好き小池さんの、ラーメンを食べるときのオノマトペを紹介いたします。
「ズルッ ズル ズルーッ」

「雷神」共同経営者 兼 店長 吉田洋史

ラーメントークはもちろん、自分の興味や、趣味の音楽、経営の事や子育てのことなど、思うままにいろんな話題に触れていきます。とは言え、やはりこちらもラーメン屋。熱がこもってしまったらすいません。