政権交代 オンタリオ州選挙 オンタリオ州の政治と政策は どう変わる?|特集 カナダライフBEFORE AFTER

キャサリン・ウィンからダグ・フォード政権への交代を考察

 6月7日、カナダ最大の州、オンタリオ州で歴史的とも言われる選挙が行われた。今まで15年間政権を握ってきたキャサリン・ウィン州首相率いる自由党(Liberal Party)が惨敗、代わりにダグ・フォード氏率いる進歩保守党(Progressive Conservative Party)が勝利。2003年ぶりの政権交代となった。これまで5年間、オンタリオ州を女性首相として牽引してきたキャサリン・ウィン首相だが、その道のりは平坦なものではなかった。事実、2018年4月の時点では党の支持率は3割までに低迷。残りの7割は政権交代を支持した。

 一方で、今回新たに州首相に選ばれたフォード氏率いる進歩保守党。6月29日に正式にオンタリオ州の首相となったフォード氏は多くの大胆な政策を掲げ、それはカナダ中で注目を集めている。フォード氏はこれからオンタリオ州にどのような変化をもたらすのか、そして我々にどのような影響があるのか。フォード氏の政策をもとに深掘りしていく。

選挙中最大の争点電気代の大幅値下げ

 フォード新首相が掲げる主要な政策の一つに、電気代の値下げが含まれる。ウィン首相の支持率が低迷した大きな理由として、電気代の大幅な値上げが考えられる。実際、自由党が政権を握った2003年と比べて電気代は2倍にまで上昇した。この背景には街のインフラづくりがあった。ウィン政権は公共の交通機関をはじめとする街の利便性を高めようと、本誌5月号でも紹介したTTC拡大化を含む州のインフラ整備向上を政策に掲げた。それを実現させるために必要な2900万ドルという膨大な予算を集めるべく、オンタリオ州の大半の電力を供給しているHydro Oneを含む公営事業を一部民営化。結果、電気代はみるみる上昇し、州民も「電気代のために食料品を買うのを諦める」というまでになってしまった。

 この異常なまでの値上げに歯止めをかけるべく、ダグ・フォード新首相は主要な選挙公約として電気代値下げを掲げた。その方法として、Hydro OneのCEOをはじめとする取締役会を入れ替え、職員の収入を削減するという大胆な行動計画も明らかにした。これにより、電気代は12%値下がりすると明記。ここまで大胆な計画が完遂されるのかはこれからのフォード氏の支持率にも大きく影響してくるだろう。

州民からの反対も多い炭素税・キャップアンドトレード撤廃

 キャップアンドトレードというワードを初めて聞いた方も多いだろう。オンタリオ州で排気ガスを削減すべく2018年の初めから施行されたキャップアンドトレードは、企業が排出する排気ガスの量を制限すべく導入された炭素税のようなもの。排出を必要とする企業は行政から許可を買い取らなければならないというシステムになっている。その上限は毎年下がり、温室効果ガス削減に働きかけている。さらに、その許可により集まったお金はさらなる環境改善のために当てられる、という好循環も生み出している。

 これに対してフォード新首相はこのシステムおよび炭素税を撤廃すると宣言。多額の税金を集めているものの、州民からお金を奪っているだけであるとした上で、環境に対する効果は無いに等しいという監査結果も出した。これにより、7月3日よりキャップアンドトレードは廃止。一時期は代わりに炭素税を導入すると宣言していたものの、それも白紙に戻したそうだ。アメリカのトランプ大統領の政策にも似ているが、早速メディアからも批判の声が上がっている。果たしてこの政策を掲げつつ州民の理解と支持を得られるのかはこれから気になるところだ。

ダイレクトな影響が小学校にもカリキュラム見直し

 フォード氏の政策はオンタリオ州で勉強する子供達にも影響があると見られる。フォード氏は小学校のカリキュラムの見直しにも踏み切るようだ。中でも、算数と性教育のカリキュラムが大きく変わると見られている。今までのオンタリオ州の小学校の算数のカリキュラムは“Discovery Math”と呼ばれ、単なる計算式を覚えるだけではなく、実践的な問題で応用することを重視してきた。しかし、フォード氏はこの方法について学生の数学の成績上昇につながっていないと批判。応用に重点を置いた数学よりも、数式を覚えるという原始的なカリキュラムに戻す、と公言した。


 もう一つ大きく変わるとフォード氏が公言したのが性教育のカリキュラム。ウィン首相がオンタリオ州初の同性愛者の首相だったということもあり、2015年に州の性教育カリキュラムは大きく変化。小学生低学年より性教育が始まり、同性愛者に関する学習も取り入れられてきた。しかし、フォード新首相は現在の性教育カリキュラムが子供達にふさわしくないと指摘。新しいのを作るまでは変更以前のカリキュラムに戻す、と断言した。果たしてこの二つのカリキュラムの変化が子供達の学びにどのような影響をもたらすのか。親はもちろん、周りの大人もこれからの教育現場から目が離せない。

最低賃金や法人税はどうなる?雇用・労働環境の変化

 ウィン政権が州にもたらした変化としてまだ記憶に新しいのは最低賃金の上昇ではないか。2018年の1月1日より、最低賃金は時給11・60ドルから14ドルに上げられ、2019年の1月1日からは15ドルに上げられると宣言した。これに歯止めをかけるべく、フォード氏は「事業の立ち上げ、成長、そして投資がしやすい環境を作る」と公言。具体的な計画としては、最低賃金値上げのストップと法人税の減税を約束した。しかし、フォード氏の政策に反対する人も多く存在。働く人のための政策だと宣言しているフォード氏とは裏腹に、この政策は企業を重視していると批判の声が上がっている。フォード氏自身も経営者であるため、この政策は実際、彼自身の利益のためではないかとウィン首相を含め多くの人が疑念を抱いている。

新たにオンタリオ州首相となったダグ・フォード氏©HiMY SYeD on Visualhunt


 その一方で、電気代値下げや法人税減税などからも見られるように、フォード氏の政策の軸の一つとして、州民の出費を抑えることが“Put more money in your pocket” というフレーズで大きく掲げられている。その中の方法の一つとして、所得税の減税を打ち出した。具体的には、最低賃金を受け取る労働者に対して所得税を撤廃、中間層に対して所得税を20%減額するというものだ。今まで所得税を払わなければならなかった低所得者にとっては良さそうな案に聞こえる。しかし、CBCの最近の調べによるとウィン首相の最低賃金値上げの方が州民がより多く収入を得るという計算になったのだ。それを考えると、フォード氏の新政権よりウィン氏の新政権の雇用及び所得の対策が優れているとも言える。この先、どのようにしてその疑念を払拭するのか、これもまた世間の注目を浴びることになるだろう。

選挙で敗れたキャサリン・ウィン氏 ©Joseph Morris on Visualhunt

世間から見たフォード政権の現在とこれから

 ここまで見ると、新政権によるオンタリオ州は多くの変化を経験することが予想される。ここまで大胆な政策を打ち出してもなお、新首相として州民に選ばれたのには大きく二つ理由がある。一つ目は、前述の通り、ウィン政権にこりごりしていた州民の思いが選挙結果として明らかになったということ。CBCの政治アナリスト、ロバート・フィッシャー氏はニュース番組の中で、オンタリオ州民は変化を求めていると指摘。ウィン首相に退いて欲しい声が多く聞かれると述べた。実際、ウィン首相の支持率は半数を越したことはなく、2017年の時点ではカナダ国内の九つの州で最低の支持率(17%)だった。それが今回、フォード首相の登場によりいよいよ政権交代となったのだ。

 二つ目は、フォード新首相の人民主義にある。ご存知の人も多いと思うが、ダグ・フォード氏は2010年から2014年の間、トロント市長を務めたロブ・フォード氏の兄である。彼とダグ・フォード氏は二人とも人民主義の政治家として知られている。人民主義の特徴の一つとして、今回のフォード新首相のように大胆な政策を掲げることが挙げられる。この政策を見て、アメリカのトランプ大統領が当選当時に掲げた大胆な公約思い出した方もいるのではないか。それもそのはず、トランプ氏も人民主義である。実現可能かは分からない政策が見られるものの、彼らの自信に満ち溢れたスピーチや政策に多くの人が魅了され、今回もその傾向が見られた。その一方で、フォード新首相の政策のほとんどに具体的な計画が盛り込まれていないのが懸念されている。電気代の大幅削減、さらには所得税の一部撤廃などを打ち出しているものの、それによる不足分がどのように賄われて行くのかは明らかにされていない。果たしてこの先、オンタリオ州民の支持を得られるのか。新たに発足した政権、そしてフォード氏の行動にはこれからも目が離せない。