世界各国から集めた250の笛を操る 日系カナダ人3世の演奏家・作曲家 ロン・コーブさん インタビュー|特集「カナダの夏を彩ってくれる極上の音楽」

トロント出身のロン・コーブさんはトロント大学とヨーク大学で音楽を学び、フルート奏者、作曲家、作詞家、音楽プロデューサーといった様々な顔を持つ。彼は世界中を旅し、その土地の笛を学んだ経験を活かし、様々なスタイルの音楽を曲の中に取り入れることで知られている。アルバム“Asia Beauty”では第58回グラミー賞にもノミネートされ、トロントオリンピック招致の曲や映画音楽などその活動は多岐にわたる。今回はロンさんがなぜ笛の魅力に魅せられたのか、そして彼にとって音楽とは何なのかについてお話を伺った。

楽器と一体になる感覚を味わえる笛が魅力的

ー楽器には本当に様々な種類がありますが、その中でなぜ笛を選んだのでしょうか?

 初めてフルートの音を聞いた時、その音の魅力に惚れてしまったんです。自分もいつかあんな綺麗な音を出す楽器を演奏できるようになれたらな、と思ったのをよく覚えています。その後、一番フルートに近い楽器ではリコーダーを小学校6年生の時、音楽の授業で演奏しました。実際にフルートを演奏するようになってからは、自分の息を直接使って演奏することがとても楽しいと感じるようになりました。一時期クラリネットも吹いていたのですが、クラリネットにはリードがあり、自分と楽器の間にちょっとだけ壁があるように感じました。フルートだからこそ味わえる、楽器と一体になって頭の中でその音が反響する独特の感覚がとても気持ちいいのです。

ーまさに笛に魅せられたロンさんですが、現在何種類の笛をお持ちなのでしょうか?

 いまは世界中から集めたものが250本ほどあります。いまは笛を演奏するだけでなく、フルートのヘッド部分をカリフォルニア在住の楽器製作者と一緒に作っています。通常、この部分は金属でできているのですが、私の製作しているものは木でできています。これによってもっとナチュラルな木の質感が出た音を出せるようになるのです。

250ある笛の中の一部

トロント出身の日系3世として多様な音楽を混ぜ合わせるのはとても自然なこと

ー250種類!その笛を活かして世界中の音楽や楽器を混ぜたある種フュージョン音楽を作っていますが、そのきっかけを教えてください。

 大学を卒業したあたりからそういったことにチャレンジするようになりました。当時はクラシック音楽を主に勉強していたこともあり、それ以外のジャンルにも挑戦してみたかったというのがこういった曲を書き始めたきっかけです。また、日本の音楽を選択肢の1つとした理由については、私自身が日系カナダ人の3世だからというのがあります。その上、トロントのようなマルチカルチュアル都市に住んでいると、自分の音楽にもそういった多様性が反映されるのはある意味とても自然なことでした。色々なものを混ぜ合わせて自分なりの味を作るという挑戦を続けていくのは本当に楽しいです。

現在製作を進めているヘッド部分

ートロント出身ならではの視点ですね。日本で音楽の勉強をされたそうですが、ロンさんからみた日本の音楽の印象をお聞かせください。

 西洋の音楽とは正反対というイメージがあります。西洋の音楽はどちらかというと演奏技術を見せびらかすような曲が多いのですが、日本はいい意味で内向きだと思います。クラシック音楽では綺麗で洗練された音ばかりに集中しがちですが、日本はそれとは違い、西洋から見れば汚いと思われてしまうような音もわび・さびとして受け入れられているように思います。実際に日本で音楽を学べたことは、その違いを自分の肌で感じるとても貴重な経験になりました。私自身、日本で勉強をしてからは自分の息遣いを書道と重ねて演奏するようになりました。

ー今の演奏に繋がることを日本滞在をきっかけに学ばれたようですが、もう少し詳しく教えてください。

 日本には1991年から1年半ほど滞在し、赤尾三千子先生の下で篠笛を始めとした日本の伝統音楽で使われる笛の勉強をしました。その後少なくとも20回は行ったり来たりを繰り返していますね。

 初めて先生にお会いした時、滞在期間を聞かれて1年半だと答えた所、笛を教えるのには10年は掛かるから教えられないと言われてしまいました。日本は西洋とは違い、学ぶことにとても時間を掛ける文化があるように思いますね。西洋では必要なことをできるだけ早く学ぶ代わりにその学びには深さがありません。

 実際、赤尾先生がまだ笛を習っていたころは先生の背中から演奏する姿を眺め、ゆっくりと技術を習得していくところから始まったと言っていました。最終的には赤尾先生に笛を教えていただくことが出来ましたが、先生はよく「日本の伝統音楽として教えるペースが速すぎる」とこぼしていました。

 私はゆっくりと深く学びを深めることの重要性をここで学んだように思います。早く学ぶことは時にいいことではありますが、そこで得た知識はいつか忘れてしまった時思い出すのが難しいです。

 実際のレッスンですが、一番最初に行ったことは唱歌でした。これは演奏する曲を実際に歌うということなのですが、これが実は難しかった。歌うことによってより深く曲と自分の息遣いを理解することを学びました。このレッスン以前は演奏前に歌うなんてとてもいいアイディアなのにやったこともなかったです。

ーとても密度の濃い日本滞在のようですが、この経験はロンさんにどのような影響を与えましたか?

 自分の中にある引き出しが増えたような気がしますね。特に作曲家をしていると、経験やインスピレーションが重要になる場面がよくあるんです。そこで、実際に自分で経験したことのあることをベースにすることが出来るようになったので、音楽の幅と深さが大きく広がったと強く感じています。

第58回グラミー賞にもノミネート

ー作曲をしている時はどのようなことを考えていますか?

 大体は頭の中でストーリを考えたり、湧き上がってきたイメージに沿って曲を書いています。今度発売するアルバムは“World Cafe”というタイトルなのですが、その1曲目が“Dance with Me”という曲名になっています。この曲を作るときは、たくさんの人がカフェにいて、少しずつ踊りだしていく楽し気な雰囲気をイメージして書きました。ですが、曲を聴いた方々が私と同じイメージを頭に浮かべる必要はなく、皆さんが自分で感じたことを大切にしてほしいですね。

ーこれまでのアルバムタイトルが“Asia Beauty”、“Europa”、“World Cafe”と来ていますが、まるでアルバムを通して世界ツアーを行っているみたいですね。

 言われてみるとそうですね。90年代には“Japan Mysteries”というアルバムも出しました。それは日本中を笛と旅をするような構成になっているのですが、曲名には京都の龍安寺や東大寺という場所をベースにしたものや日本の妖怪である河童、それと源氏物語や平家物語を題材にしたものがあります。その他にも、私が日本に滞在して感じた四季のイメージを反映した雨の曲やお祭りの曲も入っています。このアルバムはとても人気がでたアルバムでして、頭の中に色々な情景が浮かぶというコメントをたくさんいただきました。

日本をテーマにしたアルバム

音楽をよく知らない方でも楽しめる曲をつくっていきたい

竜安寺にて

ーお話を伺っていると、笛と一つになることをとても大切にしているように感じるのですが、ご自身が演奏をしていない人生を想像できますか?

 これができるんです。他の音楽家と比べて遅い時期から楽器を始めたこともあり、未だに楽器が演奏できなかった頃や、音楽知識がないまま曲を聴いていた頃はすぐに思い出せます。ですが、この経験が作曲家としてはとても役立っているのです。

 作曲をしている時、音楽を知っている自分から一歩離れて、まっさらな状態で聴くように気を付けています。そうすると、音楽があまりわからない人からするとこれはどう聴こえるのだろうか、ということが見えてきて、そういった方でも楽しめるような曲を作れるようにアレンジを加えていくことが出来ます。ベートーベンも「いい音楽は美しく、ちょっとしたサプライズが入っているものだ」とも言っていますしね。

ー世界各国の音楽に触れてきたロンさんにとって音楽とはなんでしょうか?

 難しい質問ですね(笑)。音楽は言葉を使わないコミュニケーション方法の中でとても優れていると思います。特に歌詞の無い音楽はとても抽象的で、聴く人によって捉え方が異なってきます。私も音楽を聴くことで自分が別世界に行っているような感覚を味わえるのがとても好きですね。音楽は、聴く人の想像力を広げ、心を豊かにしてくれます。

ー最後にTORJA読者へのメッセージをお願いします。

 皆さんには是非、もっと色々な音楽を聴いてほしいです。世の中にはいろいろな音楽がありますが、その中から自分にとって応援歌になるような曲を見つけていただければと思っています。


ラテン音楽の明るい曲調が特徴

Ron Korb プロフィール

 トロント出身のフルート奏者・作曲家。カナダに限らず世界中で現地の笛を習得し、日本ではフルートの貴公子として知られている。日本には1991年から1年半滞在し、日本古来の横笛を独立楽器として確立させた赤尾三千子に師事。第58回グラミー賞ではノミネート経験もあり、カナダを代表する音楽家の1人。
公式HP: ronkorb.com

5月17日にニューアルバム“World Cafe”が発売!