祝!トロント日本映画祭 齊藤 工 監督 スペシャルインタビュー&舞台挨拶密着|トロントを訪れた著名人

AUDIENCE CHOICE KOBAYASHI AWARD受賞
海外でも数々の賞に輝いている初長編作品『blank13』カナダ初公開記念


 実話に基づくある日本の家族の物語を映画化した『blank13』は、突然失踪した父の空白の13年間を描いたストーリー。海外でも公開され話題を集めた同作品は日本で今大活躍中の斎藤工さん初となる長編監督作品だ。今年のトロント日本映画祭のハイライトとなった舞台挨拶のためトロントを訪れた齊藤工(監督名義表記)さんは、当日着のフライトだったにも関わらずレッドカーペットでは、ファン一人一人と丁寧に握手や記念撮影を交わし、観客からのQ&Aにも英語を交え丁寧に回答するなど多くの人たちを魅了した。


スペシャルインタビュー

 6月22日に上映された『blank13』は、齊藤監督にとって初の長編作であり多くのこだわりが詰まった作品だ。齊藤監督の友人であるはしもとこうじさんの実話を映画化した同作品は、もともと二人の出会いのきっかけはお笑い番組だったそうだ。初めてコメディーに挑戦する人気俳優の斎藤さんがかなりの時間を費やし完璧な演技を求めていて感心したと、はしもとこうじさんはコメントしている。シリアスな演技だけでなくお笑いにも情熱を注ぐ理由は、齊藤監督にとって斬新かつ新しい感覚を吸収したい一心だったそうだ。過去にそのバラエティー番組で知り合った「あばれる君」を「バランサー」という作品で主演に抜擢するなど、幅広い交友関係を持ち、監督業に活かしている齊藤さんの人間力を語ってもらった。

ー先ほどカナダに着いたばかりで当日の舞台挨拶となりましたがお疲れの様子もなく、大変丁寧にファンの方々と交流されていましたね。

 この作品では幾つもの海外の映画祭に呼んでいただいたり、同時期には別のプロジェックトでマダガスカルにも行ったりと、なんだか時差というものを感じなくなったというか、慣れを感じてきて いるように思います。

人の心を動かすことができる作品であってほしい

ートロントの次はニューヨークの映画祭でも公開予定と伺いました。日本特有の要素を持つ作品が文化も違う海外各国で上映されるというのは、齊藤監督にとってどのような心境でしょうか?

 私自身が一人の映画ファンとして思うのですが、映画は個人的なものであって欲しいと考えています。映画というのは大衆娯楽ではありますが、そこには人それぞれのプライベートがあり、孤独な空間であるものだと思っています。暗闇の中で大きなスクリーンや音とともに作品と向き合っていると、自分自身が投影された鏡を見ているかのような瞬間があり、その時に何か自分の中で突き動かされているように感じがします。

 『blank13』という映画は、もともと海外の人々がお葬式など日本の特徴的な部分を理解してくれるかどうかを意識して作り上げた作品です。私たち日本人の特異性が今回のひとつの強みだと考えているので、小さな日本の家族の物語ですが、世界のどこかで観ている方と繋がることができれば嬉しいです。

 私は、今まで数多くの映画に心を動かされてきたので、今日来てくださった五百名以上の観客の一人一人の時間が、今回の作品とシンクロする瞬間があったらいいなと思っています。他人事を観ながら我が事になっていくということが、この作品だけではなく〝映画〟というものにあると私は常々思っています。

ーこれまでも世界中でこの作品が上映されてきましたが、各国での反応や作品の捉え方などをどう受け止めていますか?


 この作品は私の友人であり放送作家でもある、はしもとこうじさんの実話に基づいています。この話を映画化しようと決めた時には、最初から海外での上映を意識して製作に取りかかりました。日本らしい要素を含んだストーリーですが、日本人に限定したという訳ではなく、海外の人々にも日本の「当たり前の奇妙さ」を理解してもらいたいという思いが強くありました。

ーご自身の体験や思いと重なっている部分などはあるのでしょうか。

 原案となる実話を聞いた時に、人ごとではないと感じた部分を作品に取り入れました。例えば私が小学生の頃の話ですが、家に帰宅すると母親が頬から骨が出る大けがをしていました。理由を聞いたら、当時母親は指圧師をやっており、自転車に乗っていた際、環八という通りを走るトラックに挟まれる事故に巻き込まれました。顔が道路に付いた状態で200m程引きずられたみたいで、手を当てながら病院に行ったと話していました。その時の衝撃的なイメージが忘れられなかったので、今回の作品にも母親が新聞配達途中に事故にあうシーンを入れました。

 具体的に自分の記憶を辿ったり、無意識の意識が拾っている風景というものは、映画を作る上で取り入れていると思います。今では日常の中でも何気ない出来事についてメモを取るようになりました。そういった細かいシーンこそが、実は映画の雰囲気を作るものだと考えています。自分の心が動く瞬間というものを自分自身の中ですくい上げていき、出所が無いかもしれないですが蓄積していくという癖を付けています。

ー以前テレビのインタビューで主演の高橋一生さんのことをカナダ人俳優のライアン・ゴズリングに似ているとお話されていたことがありますが、監督としてどのような点が似ていると感じたのでしょうか?

 一言で言うと空気感が似ていると思います。お二人とも、精神年齢が高く、老成した佇まいを感じさせます。演技力も豊かで、非常に成熟した精神というものを持ちながら芝居をされています。

ー齊藤さんは監督としては短編作品も数多く撮られていると同時に、数多くの作品を観るなど映画というものに造詣も深いと思いますが、今回のキャスティグを海外の俳優で配役するとしたらどなたを選ばれますか?

 この作品は、唯一無二のキャスティングだと思っているので、中々難しいですね…。

 母親役の神野三鈴さんに関しては、実は次の作品にも出演してもらっているのですが、代わりを演じることができる人はいないぐらい特質した才能を持っている方だと思っています。その中で質問に応えるとしたら「スリー・ビルボード」のフランシス・マクドーマンドでしょうか…。


 リリーさんは、そもそも物書きが本業ですからね。彼の場合は、どんなハリウッドスターでもかなわない独特の雰囲気とリアルさがあると思います。声も含めてですが、リリーさんはリリーさんにしか務められない役どころです(笑)。

 高橋一生さんは、先ほども挙がりましたがライアン・ゴズリングです。そして私の役に関しては、実は他の方に決まっていたという裏話があるのですが、撮影5日前にスケジュールが合わなくなり、急遽私が出演することになったのです。元々自分の作品に出ようとは一ミリも思っていませんでしたし、これからも自分の監督作品には極力出演することはないようにしたいと思っています。

 今回の作品は、ある家族の実話ということでキャステングそのものがとても簡単な作業ではありませんでした。高橋一生さんと10歳程の差がある松岡茉優さんに関しても、それぞれが“Ageless”な役者同士なので、恋人として成立するには彼女の世代では、松岡さんにしか演じることができなかったと思っています。カンヌもそうですし、今回の映画祭でも3作品に出演されている松岡さんが日本映画界で大活躍する未来は見えていましたし、当然のことだと思っています。いずれにせよ今回の『blank13』には俳優だけではなく芸人の方々も含め、本当に奇跡的な方々が集まってくださいました。

日本・海外問わず映画祭というものを大事にしていきたい

ー今後も海外への訪問や上映が多くなると思いますが、どのような行動を心がけていきたいですか。


 映画祭というものを本当に大事にしていきたいと思っています。映画祭にも周期があることも分かってきました。
 『blank13』では、色々な地を訪問しているのですが、またどのような形でも訪れた映画祭に戻って来たいという気持ちを常に持っていますし、その想いを製作の糧に、毎回作品に臨んでいます。必ずしも監督業に限定したものではなく、製作や役者としてでもまた足を運びたいです。

 ただ、自分が監督として製作する場合は何かしらの必然を感じて動かないと、私自身が最後までプロジェクトに責任を持てないと思っています。今後も撮影はしていきますが、映画を作ろうと思って撮るというよりも、何かを撮影したい理由が見つかったときに自ずと行動していると思います。

全ては合わせ鏡

ー齊藤さんは映画監督やドラマなどの俳優業だけでなくコメディー番組などにも出演され、様々な出会いや学びを通して『blank13』という作品が完成されたと思います。ここカナダには多くの若者が夢や目標を実現しようとチャレンジしています。ぜひメッセージをお願いします。

 私が余り偉そうに言えることは無いのですが…。昔、演劇の学校に通っていた時に面白いことを言われまして、実際の人物を演じる時にどうすればいいかという方法論についてなのですが、演じたい人のそばに四六時中一緒にいて、その人の行動や癖など全てをコピーするよりも、その人の周りにどんな人がいるのかというリサーチをする方が効果的という話を聞いて、今ではその通りだと感じています。要するに、自分が出会う人というのはその時の自分であって、出会いによって引き合わされているというよりも合わせ鏡のようなものだと思っています。今自分の周りにいる人達は、どこか自分自身であり、きっと相手にとってもそうなのだと思います。

 今この地で頑張っている方々はカナダの地に来ようと行動を起こした時点で素晴らしいアクションだと思いますし、今出会うべくして出会っている人たちが周囲にきっといるはずです。
 今の映画界ではDenis Villeneuve監督やXavier Dolan監督などに代表されるカナダの監督が活躍し、注目を集めています。私自身もカナダの映画監督や役者さん達に相当影響を受けていて、歴史や移民という部分も含めたミクスチャーな文化として様々な要素が反映されていると常々思っています。カナダという国で、何かを吸収するという日常を選んだ多くの方々を尊敬します。

舞台挨拶&観客Q&Aレポ


 レッドカーペットでは観客一人一人と握手や記念撮影などファンも予想外の丁寧な対応にJCCCは大興奮の歓声に包まれた。上映前に英語で舞台挨拶を済ませ観客を沸かすとともに、しばらく一緒に作品を鑑賞し観客の様子を確認。上映後は11時半頃まで丁寧に観客の質問に回答するなどトロントのファンにとっては特別の一夜になった。

 齊藤工監督は舞台挨拶では、“Hi, Everyone. I am Takumi Saitoh”と述べ、流暢な英語の挨拶に会場は拍手喝采。続けて“Thank you everyone for wonderful opportunity to us. I have admired many great Canadian films and filmmakers such as Denis Villeneuve, Paul Haggis, David Paul Cronenberg, Xavier Dolan and Sarah Polley.
 I am very honored to show my first future film here in Toronto. I hope you enjoy this film. Thank you so much.”と、カナダ映画への熱い想いと、今回の映画祭に参加できたことの喜びと感謝を丁寧に述べた。

Q&Aセッション

Q 初の長編作品という事で、監督にとってとても大切な映画だと思います。今回この実話を映画化しようと思った理由について、また撮影の際に工夫された点についてもお聞かせください。

A もともと何気ない雑談の中から聞いたストーリーで、私の父はまだ生きていますが、このストーリーの基になっている、はしもとこうじさんが死について明るく話す姿を見て人ごとではないと思いました。聞いているうちに自分の話のように聞こえてきたことがきっかけで、映画化に至りました。

 7日間で撮影したこの作品は、「アイデア」を最大限に活かした映画を作りたいという私の思いがありました。具体的に言うと、ロケーションを一部のエリアに絞ることで移動時間を短縮することや試し撮りをしないなど様々な工夫を凝らしました。主人公のコウジと13年間会うことのなかった父に再会する病院のシーンは、表情や空気感にリアリティを出すため、高橋一生さんとリリーフランキーさんには事前にそれぞれのことは教えず、挨拶も交わさないでもらいました。そういう意味では実験的な演出も沢山盛り込んだ作品だと思っています。

Q 齊藤監督自身が、今回の作品で俳優として演じることは最初から決まっていたのでしょうか。

A 実は私の出演が決まったのは撮影の5日前でした。兄役を演じる予定だった俳優さんのスケジュールが急遽合わなくなり参加できなくなってしまいました。突然の事態に台詞を減らしスタッフのどなたかに出てもらおうとも思いましたが、少年期を演じる大西利空くんを見ていたら、何か自分と重なるものがあったのです。そこで、この役は私が演じるべきだと思い俳優としてもこの映画に携わる事に決めました。

 鑑賞されていた方はお気づきだと思いますが、私、葬儀のシーンで大分笑っていました。なぜなら、監督として仕掛ける側であったにも関わらず予想外の役者さんたちの演技にウケてしまったのです。編集を繰り返していく中で、余りにも笑いすぎているシーンは使えないと思いましたが、逆にリアルなのではないかと思い使うことしました。

 私は、映画を作る中でジャンルというものを制限したくありませんでした。葬儀と聞くと悲しい場面を連想する方が多いかもしれませんが、実際には人それぞれの人生がありジャンル分けはできないと考えました。今回、個性的なメンバーを揃えた理由はそのジャンルレスで奇妙な空間を演出したかったからです。

Q キャスティングは齊藤監督の独断で選ばれたのか、あるいは話し合って決めたのでしょうか?また次回作についてもお聞かせください。

A 配役はほぼ私の理想で選びましたが、推薦で出演することになった方もいらっしゃいます。主演の高橋一生さんを含め、全ての俳優さんが監督のような役割を担い現場を導いてくれたと感じています。

 次回作は、北村一輝さん主演で日本文化を織り交ぜたホラー映画です。HBO Asiaのアジア6カ国でホラーを撮るプロジェクトなのですが、日本作品で推薦をいただき、 監督としてお仕事を頂くことができました。

Q 『blank13』で一番伝えたいメッセージは何ですか?

A 火葬という風習をどのように海外の人たちへ伝えるかという点で、私たち日本人の日常や当たり前をメインに撮ろうと考えました。火葬場のシーンは、実際に現場を撮影させてくれるところを探し回り、通常業務に取り組んでもらうようお願いしました。音楽に関しては、俳優でもありミュージシャンとしても活躍される金子ノブアキさんにお願いし、木魚の音楽を作っていただきました。誰かが近づいてくるような音、去って行く音、残された時間をカウントする音という色んな意味が込められており、その音楽をベースに作品を仕上げました。ありのままの風景や音を映すことで、最初の火葬場シーンとは違う、灰になっていく人の中に何が詰まっているのかを最後に感じてもらえたらと思い続けていました。

Q 今回の作品は実話に基づいていますが、撮影する中で監督がこだわった点は何ですか?

A 自分が役者だった頃から考えていたやり方なのですが、台本には台詞を覚えないようにと書きました。なぜなら、そう伝えることで役者の皆さんに監督の狙いを伝えられるのではないかと思ったからです。私は、台本通りの完璧な演技は求めておらず、色んな状況に直面し「空間」ができるような実際に生きている主観を大切にした作品を撮りたかったのです。

Q 役者として、笑ってはいけない場面もあると思いますが、どのように感情をコントロールしていますか?

A カナダにいる方はご存知でない方もいらっしゃると思いますが、私はバラエティー番組で自分の貯金残高を叫ぶというある芸人さんのモノマネをしたことがあります。そんな時は、いつも頭の中をスポーツ的にしていると思います。テレビの向こう側の世界よりも、その場にいるプロのコメディアンは、彼らの芸を一生懸命ぶつけており、それが滑稽であることがお笑いのルーツだと私は考えています。

 日本でお葬式というと派手な演出はありませんが、普段気にならないことが気になることってありますよね。私がある葬儀に参列した際の話なのですが、母親がワイシャツの下にお祭りのTシャツを着ていて、礼をする度にその文字が透けて見えていたことがあります。その時は笑いを堪えるのに必死だったのですが、私は、その「笑ってはいけない」というルールが重要であり、その空間こそが映画になると思っています。

 Q&Aが終わり齊藤監督は、「今回は『blank13』をこの遠いカナダの地で観て下さりありがとうございます。当の本人でもあるはしもとさんを含め私自身も、この作品を観て家族や大切な人を想い、また繋がるきっかけになれば嬉しいです。また、今後も日本映画を通じて多くの方々とコミュニケーションを取っていきたいと思っています。今日は本当にありがとうございました。」と最後までその場にいる全ての人たちを気遣い感謝の気持ちを述べた。