全盲のドラマーの活躍—幸せへのプロローグ—

sato-hironori-pray-for-japan佐藤尋宣さんは全盲のドラマー。出身地である宮城県の学校を、奥さんの千嘉さんと回り、ユニークな授業を出前している。東日本大震災の後、石巻のある小学校から招かれて子供たちのストレス発散のためにとリズムセッションを行った。そこで1人の少年から、是非オリジナルの曲を作ってほしいと頼まれる。今月は佐藤夫妻の活動を紹介する。


佐藤尋宣(ヒロノリ)さんと初めてお会いしたのは、5年ほど前のことだ。私と同じ全盲で、ドラムの演奏やレッスンで生計を立てているということだった。何度かライブを聞きに行ったが、ジャズミュージシャンとして充分に存在感のある音を聞かせていた。

そんな佐藤さんは、2010年頃より奥さんの千嘉(チカ)さんとユニークな活動を始めた。それは、夫妻の出身地である宮城県を中心に小中高の学校を回り、障害理解を目的とした講演とリズムセッションを組み合わせた授業を出前するというものだ。総合学習の時間がカリキュラムに組み込まれて以降、障害に関する授業(例えば手話に接する機会)や、多様な音楽を観賞する授業などは広く行われていると聞くが、この両者を同時に行うというのは、ほとんど例がないように思われる。

尋宣さんはお話をする際、一方的に障害に関わる困難や対応策について伝えるという形式を取らないよう心がけているという。「買い物に行ったときは、どうすればいいだろう?」まず、生徒に問いかける。「僕が商品の色を選んでいるとします。みんなならどうやって色の説明をしてくれるかな?」生徒からはさまざまな意見が出されるという。低学年向けには、千嘉さん手作りの紙芝居を使ってシチュエーションを提示し、子供たちに知恵を出してもらう。工夫するプロセスを体感してもらうことは、障害なるものを遠い出来事としてしまわないために重要と思われる。みんなの意見が出た後で、尋宣さん自身がどんな工夫をしているかが紹介される。その際、別の工夫や対応策もあることを必ず伝えるようにしているという。

授業では、生徒から自由に質問を出してもらう。「目が悪い人は、トイレはどうやってするの?」 「見えないのにどうして、(千嘉さんのことを)好きになったの?」 「(千嘉さんは)どうして目が悪い人と結婚したの?」などと、大人ならば遠慮してしまいそうな質問も多く出されるという。

尋宣さんについて理解してもらった後で、いよいよリズムセッションの時間となる。尋宣さんのリードで手拍子などを使ったリズム遊びをしたり、子供たちの歌や合奏に尋宣さんがドラムで参加したりと、音を通した交流が行われる。全盲なんだ、ということを理解した上で、その人がノリノリの演奏を披露し、時間を共有する。そのインパクトからか、徐々に招いてくれる学校も増えてきた。

そのさなかに宮城県を襲ったのが東日本大震災だった。被災した多くの子供たちが元気を失い、大はしゃぎすることも少なくなっていた。石巻のある小学校から「子供たちのストレス発散のために遊びに来てほしい」という声がかかった。佐藤さんは、ドラムを持ってかけ付けた。子供たちは大喜びでドラムをたたき、日頃たまっているものを発散してくれた。1人の少年が尋宣さんに言った。「佐藤さんたちのオリジナル曲はないの?是非作ってほしい。」と。2012年、その時訪ねた橋浦小学校は合併されて、閉校となることが決まっていた。子供たちの言葉、地域の大人の人の言葉を素材に詩を作り始めた。物資の面で厳しい時期が去っても、「先が見えない閉塞感」を皆が感じていたという。それでも前を向こうとする声が、曲として形作られていった。

2013年3月、2つの曲が完成し、レコーディングが完了した。「あゆみ〜しあわせへのプロローグ〜」と「約束」。卒業シーズンに合う前向きな曲だ。売り上げの半分を石巻の子供たちのために使ってもらおうと、2人は決めた。手売りだけにも関わらず、1,200枚がこれまでに売れたという。収益から、橋浦小学校合併後の学校には鼓笛隊のユニフォームを、同地域の保育園にはシンバルや太鼓などの打楽器を寄贈した。

尋宣さんは、声高に「がんばれ、負けるな」と言ったりはしない。説教じみた話もしない。己の姿を見せ、音楽に子供たちを巻き込むことによって、何かが取っ払われればいい、自由に未来を創造する力が少しでも生まれればいいと願っている。

※本稿は、2月20日に行った佐藤夫妻へのインタビューに依拠して作成しました。お2人の活動に関しては、http://hironorisato.com/sbを参照のこと。


伊藤丈人【いとう・たけひと】

神奈川県生まれ。青山学院大学非常勤講師。2009年、青山学院大学大学院国際政治経済学研究科にて博士号取得。専門は国際政治学・政治過程論で、特に地球環境問題に詳しい。視覚障害があることもあり、アクセシビリティや差別の問題などにも広く関心を持つ。単著論文に『食品安全問題を巡る日本国内の政治過程・・・遺伝子組み換え食品とBSE問題を事例として』、共著に『視覚障害学生サポートガイドブック』など。