カナダの先住民の暮らしに注目

知ってるようで知らないカナダの先住民の暮らしに注目

先住民やイヌイット、名前は聞いたことがあっても実際どのような人たちなのか、知らない方も多いのではないだろうか?ドリームキャッチャーやトーテムポールといったカナダらしい伝統工芸品もそれぞれ別部族の先住民が様々な意味を込めて作ってきたもの。このような先住民アートが注目されている中、今回TORJA編集部では生活様式や文化、歴史など先住民の暮らしに注目。

カナダ先住民の 基本知識

1. 正しい名称
先住民といえばイヌイットやエスキモー、インディアンといった名称が頭に浮かぶ人が多いだろうが、エスキモーは主にアラスカなどに住む民族を指し、カナダではイヌイットと呼ばれている。またインディアンの名称は1492年にアメリカ大陸にやってきたクリストファー・コロンブスが、そこをインドだと思い違いをして、既に住んでいた住民を“インディアン”と呼んだことに由来している。法律上は現在もインディアンと記載されているが現在はファースト・ネーションと呼ぶことが主流になりつつある。

2. カナダで認定されている民族
先住民はカナダ国内のどの地域にも住んでおり、1982年に発布された憲法では3つの主な先住民族を認定している。600以上の部族がある“ファーストネーションズ”、カナダで最初の先住民グループ“イヌイット”、そしてカナダ入植後に現れた先住民とヨーロッパ系移民の混血“メティス”の3種類だ。

3. “先住民として認定される”とは?
カナダで現在先住民として登録されている人数は約54万人でこれはカナダ国民のほぼ1.8%である。先住民として“登録”することで、連邦法によって一定の権利や特典、社会保障などを受けることのできるインディアンとして認定される。権利の一つである“保留地”はカナダ国内に2200箇所以上設けられているが、主に地方に存在し、辺鄙な場所も多く、中には現在誰も住んでいない保留地もある。認定されている先住民の約55%がこの保留地に住んでいる。

■ イヌイット: 基礎編

カナダには、世界イヌイット人口の約4分の1が住んでいる。主にLabrador、Ungava、Baffin Island、Iglulik、Caribou、Netsilik、Copper、Inuvialuitの8つのグループに分かれており、それぞれ少しずつ違った文化を持つ。使われている言語も元はInuktitutと呼ばれるもので、それぞれに強いクセや方言などが存在したが、近代化に伴い、ラジオやテレビなどの影響であまり差異がなくなりつつある。

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■ イヌイット: 生活編

狩猟民族であるイヌイットは一箇所に長く留まることはなく、常に移動して生活していた。そのため家は移動しやすく、簡単かつ早く建てられるものでなければならなかった。夏は動物の皮から作られたテントで生活し、冬は日本のかまくらに似たイグルーと呼ばれる雪で作られた家で生活していた。イグルー1つ作るのにかかる時間は約20〜30分で、大きなものだと直径4メートル、高さ3メートルにも及ぶ。しかし、伝統的な生活様式も近代化により大きく変わってきている。移動手段だった犬ぞりはスノーモービルや全地走行車に、テントは通常の家になり、イグルーが現在狩りで遠出する時のみ、作られている。

(左)犬ぞりが移動手段(右)イグルーを作る様子

(左)犬ぞりが移動手段
(右)イグルーを作る様子

■ イヌイット: 文化編

古くからシャーマニズムを信仰し、トランス状態になり霊的存在や自然的存在と交流するシャーマンがイヌイットグループを導いてきた。近年ではキリスト教を受け入れるイヌイットの人も多いが今でも多くの伝統が残っており、年長者が歴史や文化、グループ内での役割などを若者に口頭で伝える風習が残っている。

カナダ国内でけではなく、世界的にも注目さて始めている先住民アートの一つとしてイヌイットが創る作品がある。1950年代以降は特に販売を目的とした石製彫刻品や版画・絵画、壁掛け用の織物などを制作しており、独特な世界観や表現様式が使われている。

タカの版画©AGNES NANOGAK

タカの版画©AGNES NANOGAK

(左)クマの石像 ©DAVID LYTA (右)鳥の石像©Josie Ohaituk

(左)クマの石像©DAVID LYTA (右)鳥の石像©Josie Ohaituk

■ イヌイット: 食事編

冬が長く厳しい北極圏で生活するイヌイットにとって、主な食料は狩りで得ることのできる動物だ。対象となる獲物はそれぞれのイヌイットの生活圏によって変わり、海が近い地域に住んでいるグループはアザラシや鯨が多く、内地で生活しているグループはカリブーなどを食べている。新鮮な内は生で食べることもあるが、主に乾燥させたり、凍らせたりと保存食を作ることを前提としている。

カナダに600以上ある先住民の集落はそれぞれの部族によって生活様式が違う。定住を好む部族もいれば、好戦的な部族、芸術に秀でた部族などその土地に合わせて様々な文化や歴史を持っている。カナダ国内で大きな人口を持つ部族や有名な部族に注目してその暮らしぶりを見てみよう。

アイスフィッシングは大切な食料調達術

アイスフィッシングは大切な食料調達術

狩りでは流氷を渡り獲物を追うこともある

狩りでは流氷を渡り獲物を追うこともある


■ オジブウェ族

カナダ国内ではオンタリオ州からブリティッシュコロンビア州に広く居住しており、アメリカ国内の人口と合わせて北米で4番目に大きな人口を持つ。カナダのお土産としても有名なドリームキャッチャーを作る部族である。

17世紀に5大湖周辺で生活していたオジブウェ族が現在のオンタリオ州南部に移住し、現在ではマニトゥーリンを中心に生活している。伝統的な暮らしでは男性が狩りに出かけ、その間残った女性は動物の皮で靴や洋服を作っていた。さらにメープルシュガーの精製や古代米の栽培など農業を取り入れたことによりより安定した暮らしを手に入れるようになる。移動手段はポターシュのように夏場はカヌーを多用し、冬はスノーシューを使った。

シャーマニズムが盛んでオジブウェ族が住むマニトゥーリンは創造主が火、土、水、風の4つの神聖なるものを生み出し創られた島だと信じられており島は神秘的な雰囲気に包まれている。数々の神話や伝説が残されたスピリチュアルな空間で、オジブウェ族が成人の儀式を行う神聖な岩なども存在し、パワースポットとしても注目されている。

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伝統的な衣装

伝統的な衣装

特別なイベントでは伝統ダンスが披露される

特別なイベントでは伝統ダンスが披露される


■ クワキウトル族

古くからバンクーバーアイランド北部に定住している部族で過去は30近い集落があったが、1800年代に疫病の流行や他部族へ移るなどで人口が激減した。現在クワキウトル族特有の言語を話せる子供が減っており言語としての寿命が危ぶまれている。他の部族と同じく文字を持たず、民族に伝わる歴史、伝説、昔話、そして人物伝は子孫に語り伝えるものとしている。また、土地の所有をあらわすものとしてトーテムポールを建てており、彩色は伝統的な黒、赤、緑に加え、白、黄色、オレンジ、水色、茶色等とハイダ族をはじめどの部族よりも色数が多いのが特徴的だ。伝説の鳥サンダーバードを想像したのもクワキウトル族でお面やトーテムポールによく使用され、トーテムポールでは羽を広げているものが多い。

クワキウトル族は首長・貴族・平民・奴隷に序列化した社会基盤を持って秩序を維持している。男性はサケの捕獲、女性は野菜の採集を担当し、秋には大量のスモークサーモンを作り保存食とした。温暖な気候と豊富な資源に恵まれ、食料は他にもマス、オヒョウ、タラ、ムール貝、カニなどから、カモ、アザラシ、オットセイ、ヘラジカ、まれにクマなどを捕獲する。野菜や果物ではニンジン、ベリー類、ヘーゼルナッツなどを採集した。

(左)い事などで披露されるダンス (右)儀式などに使われる海の怪物を模したお面

(左)い事などで披露されるダンス (右)儀式などに使われる海の怪物を模したお面

他のトーテムポールとは違い羽を開いているものが多い

他のトーテムポールとは違い羽を開いているものが多い


■ イロコイ連邦
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合議制を代表している女性酋長

Haudenosaunee(ロングハウスを建てる人々)としても知られる6つのインディアン部族により構成される部族国家集団で北アメリカ・ニューヨーク州北部のオンタリオ湖南岸とカナダにまたがって保留地を領有している。構成部族はカユーガ族、モホーク族、オナイダ族、オノンダーガ族、セネカ族、タスカローラ族。17世紀半ばにタスカローラ族を除く5つの部族が同盟を結び、18世紀に入りタスカローラ族加わり6部族連合となったのち、現在まで強固な結束を保っている。

イロコイ連邦は伝統的に母系社会であり、現在もクラン・マザーとして、女性酋長が合議制を代表している。日常生活では女性が農耕をおこない、男は戦士を務める軍事国家で周辺の部族に戦いを挑み、勢力を広げていった。敵部族を征服し傘下とすると、その部族と安全保障条約を結び、その部族に代わって他の部族と戦った。また敵部族から捕虜を得た際に両側から棒で殴られる中を走らせるガントレットの儀式で試し、これに耐えた戦士を新しい血、公式な部族員として迎える習慣がある。さらに敵部族に拷問を行う風習もあり、そのイロコイ戦士の苛烈さは他部族のみならずヨーロッパ人の入植者をも震え上がらせていた。農耕の手法は独特で、3姉妹と呼ばれるトウモロコシ、豆、かぼちゃを同じ場所に撒き、労力の節約や土壌の栄養バランスを考慮していた。食文化も狩猟を中心としている部族より安定していたため、品数が多く、野禽のロースト、魚介類、サラダやベイクドパンプキン、ベイクドスクワッシュ、ヘーゼルナッツのケーキなどを食していた。これらはニューイングランドの古典的な料理であるクラムチャウダー、ボストン・ブラウン・ブレッド、クランベリー・プディングなどの原型となった。

住居はその名が示す通り、ログハウスを建て複数の家族で一緒に生活を送っていた。

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■ ハイダ族

150の島々からなるクィーンシャーロット諸島に住みハイダ語族に属する唯一の部族。ハイダ族は、トーテムポールを初めとした力強い芸術作品で知られるノースウェストコーストを代表する先住民だ。

非常に独立した部族で、集落毎に独自の政治形態を持ち、さらに集落内でも家族毎に独立して生活を送っていた。主な食料はサーモンやクマで、1700年代後半にはすでにヨーロッパ人との交易を行っていた。霊的なものを重んじるハイダ族の世界ではトーテムポールは大きく分けて三種類の意味を持つ。お墓としての墓標、各家の前に立てる家紋、そして祭や記念として立てられるメモリアルポール。全てのトーテムポールには動物と人間が刻まれ、彼らはそれぞれの家系の始まりは動物が化身したものだと信じており、クマ、オオカミ、クジラ、サーモン、ハクトウワシ、カエルといった生き物は今日でもハイダ族の社会を構成する母体となっている。これらのトーテムポールは、その土地にあるから力を発揮するのであって、その場所から離れて、博物館に保存されたりしたものは、その力を失うと信じられており、今もウォッチマンと呼ばれるハイダ族の人々がその文化や歴史、自然遺産を見守っている。

ハイダ族のトーテムポールは大胆な設計やバランスと対称の取れたスタイルが特徴的だ。多くの伝説の物語が残されており、トーテムポールをはじめアーギライトの彫刻やジュエリーなどに表現されて、多くの作品が生み出されている。

(左)お墓として島に残されたトーテムポール (右)大胆なデザインと鮮やかさが特徴的

(左)お墓として島に残されたトーテムポール (右)大胆なデザインと鮮やかさが特徴的


■ クリー族

北米最大部族の一つでオンタリオ州のスペリオル湖の北部・西部を中心にアルバータ州からケベック州北部まで広い地域に住んでおり、地域や環境によってPlains、Woods、Swampy、Moose、James Bay / Easternという5種類のグループに細分化される。

長い歴史上、他の部族よりも小さなコミュニティーで生活する傾向にあり、水辺や森林地帯を好む。夏はカヌー、冬はスノーシューでの移動、動物の皮で作られた服は他の先住民と同じだが、ヨーロッパ人がカナダに来始めた頃、積極的に貿易に参加し、金属製品や馬などを取り入れていった。コミュニティー単位で生活の苦楽を共にし、特にこれからコミュニティーの仕事が手伝えるようになる子供が歩けるようになるときにはWalking Out Ceremonyで盛大にコミュニティーへの参加を祝う習慣がある。クリー族の女性は手芸に秀でており皮で作ったポーチをビーズで装飾し、狩りに出る旦那に託していた。

他部族にも人気があった クリー族のビーズポーチ

他部族にも人気があったクリー族のビーズポーチ

Walking Out Ceremony

Walking Out Ceremony

動物を模したオブジェ

動物を模したオブジェ