憲仁親王妃久子殿下カナダ御訪問・トロント密着取材|特集 トロントと日本を結びあわせて第100号

王立オンタリオ博物館にて。(左より、バックランド日本美術学芸員、憲仁親王妃久子殿下、バッセジス館長)

王立オンタリオ博物館にて。(左より、バックランド日本美術学芸員、憲仁親王妃久子殿下、バッセジス館長)

憲仁親王妃久子殿下 10回目のカナダ御訪問
トロントでも日加修好90周年記念行事を中心に多くの市民と交流

 憲仁親王妃久子殿下は、日加修好90周年記念行事等御臨席のため、8月23日から9月1日までカナダを御訪問された。24日と25日はトロントで様々な行事に参加し歓迎を受け、多くの人々と交流された。

 両日、妃殿下に同行されトロントでの行事のオーガナイズに尽力された伊藤恭子・在トロント日本国総領事は、「日加修好90周年を記念する重要な年に、カナダとの縁の深い憲仁親王妃久子殿下が、カナダでの最初の御訪問地としてトロントを訪問くださったことを大変名誉に思います。

 また、妃殿下が、御臨席されたさまざまな行事を通じて、日加両国間の友好をますます強め、日加関係を深めるため御尽力くださったことに、大変感謝しております」と各所で多くの方と交流した二日間を振り返ってくれた。

2019年8月24日

王立オンタリオ博物館(ROM)を訪問

 妃殿下は、 王立オンタリオ博物館(ROM)を訪問。バッセジス館長他の出迎えを受けられ、2007年1月のオープンの際に御訪問されて以来二度目の御訪問となる「プリンス・タカマド・ギャラリー」において、バックランド日本美術学芸員の案内により日本の美術工芸品を鑑賞された。

「高円宮ギャラリー」でバックランド日本美術学芸員より説明を受ける憲仁親王妃久子殿下

「高円宮ギャラリー」でバックランド日本美術学芸員より説明を受ける憲仁親王妃久子殿下

国際交流基金(ジャパン・ファウンデーション)ご訪問・「氷山ルリの大航海」読み聞かせ

 憲仁親王妃久子殿下は8月24日にジャパン・ファウンデーションを訪問。妃殿下の二冊目の著書『氷山ルリの大航海』(英題:Lulie the Iceberg)の読み聞かせを行われた。この作品は、氷山である主人公・ルリがグリーンランドから南極まで旅をする様子を描いたもの。UNICEFと講談社により共同で1998年に出版された作品である。

 地球温暖化をはじめとする環境問題を提起したこの作品は、2006年に大阪芸術大学の学生によりミュージカル化もされた。妃殿下は同校の客員教授も務められている。また、アメリカの作曲家・ジェフリー・ストックが管弦楽用に作品に沿った楽曲を作成し、世界的チェロ奏者であるヨーヨー・マをはじめとする演奏家が参加したことでも知られる。さらに、1999年にはトロントのTopological Theatreにより舞台化されるなど、カナダともゆかりのある作品だ。

地球の美しさを通して環境問題に訴える作品

 読み聞かせの前に、妃殿下は「科学者が子供や孫にあげたくなるような本を書きたかった」と説明された。そのため、子供のための絵本でありながら多くの動物や自然が描写されているのが特徴だ。さらに、あまり耳にしない動物も多数登場するため、巻末には用語集が加えられている。

ご自身の著書『氷山ルリの大航海』を英語で読み聞かせされる憲仁親王妃久子殿下

ご自身の著書『氷山ルリの大航海』を英語で読み聞かせされる憲仁親王妃久子殿下



 物語はグリーンランドから始まり、カナダやアメリカ、スペインやモロッコ、さらには南米など世界中を旅する氷山・ルリが描かれている。自然の美しさが描写されていると同時に、友人でキョクアジサシのキキや道中で出会う仲間との関係を通して描かれる人の優しさや人との繋がりも重要なテーマとなっている。さらに、ルリの成長の過程において要となる感情の動きも所々で描写され、大規模なスケールでありながら親しみやすい内容となっている。

「成長」という普遍的なテーマ

 妃殿下が読み聞かせを行われた後、その場にいた子供たちの質疑応答が行われた。「物語を書くきっかけとなったものは」と聞かれた際、妃殿下は、故・高円宮憲仁親王とご一緒にヌナブト準州を訪問された際に氷山をご覧になり、現地の先住民の方々から「語りかける氷山」についてなど、様々な話をお聞きになったと説明。「氷山がひび割れる時に出す音がまるで話しかけているよう」と当時の経験を振り返られ、これを踏まえて人間のように会話する氷山を中心に物語を描こうと思われたそうだ。

 さらに、グリーンランドでも氷の彫刻をご覧になった妃殿下。この二つの経験に加え「北極の氷は新しく、南極の氷は古い」ということを元に、「成長」をテーマにした物語を書こうとお考えになったという。「成長する過程で、時には自分を犠牲にする必要があること、そして仲間を大切にすることはいつの時代においても重要なテーマ」とその普遍性を強調された。

 ジャパンファウンデーション・トロントの清水優子所長は、「高円宮同妃両殿下には、当センターが日本文化センターとして発足した1995年の開所式にもお越しいただいており、久子妃殿下を24年ぶりに再びお迎えできたことを嬉しく光栄に思います。参加したお子さんや保護者の方々からは、プリンセスの絵本と朗読は素晴らしかった、一生の思い出になった、といったコメントをいただいています。東京の国際交流基金で憲仁親王殿下と2年間机を並べて仕事をしていた私自身にとっても、トロントで妃殿下にお目に掛かれたことは感慨深かったです」と当日の模様を振り返ってくれた。

ミシサガ市庁舎を訪問

 同市庁舎では、ボニー・クロンビー・ミシサガ市長や2014年までの36年間、ミシサガ市長を務めたヘイゼル・マカリオン前ミシサガ市長、日本との関係の深い市議会議員、ミシサガ市に拠点を置く日本企業の代表者等約35名が出席する同市長主催昼食会に御臨席になり、出席者と和やかに懇談された。

ジャパンフェスティバル・カナダ

ボニー・クロンビー・ミシサガ市長主催昼食会にて

ボニー・クロンビー・ミシサガ市長主催昼食会にて

 午後は、ミシサガ市庁舎隣接のセレブレーションスクエアで開催された「ジャパンフェスティバル・カナダ」の開会式に御臨席され、妃殿下は、約3千名の聴衆の前で、日加修好90周年を祝い、ますますの発展を願うお言葉が述べられた。

「ジャパンフェスティバル・カナダ」の開会式でお言葉を述べられる憲仁親王妃久子殿下

「ジャパンフェスティバル・カナダ」の開会式でお言葉を述べられる憲仁親王妃久子殿下

 当日は、トルドー・カナダ首相から、妃殿下の御来訪を歓迎し日加修好90周年を祝うビデオメッセージのほか、石兼駐カナダ大使からの祝辞、ニナ・タングリ・オンタリオ州経済開発担当政務官、ヘイゼル・マカリオン前ミシサガ市長、クロンビー市長も祝辞を述べられた。

日加修好90周年を記念するガラ・ディナー

 8月24日の夜に王立オンタリオ博物館(ROM)にて開催された日加修好90周年記念ガラ。妃殿下はカナダの人への感謝を述べたと同時に、「令和」という新しい時代に相応しい平和への強い願いをあらわにされた。

 はじめに登壇したのは、アジア太平洋財団トロント事務所長を務めるクリスティーン・ナカムラ氏。今回のガラのために日本からはるばるやってきたジャズピアニスト・小曽根真氏や歌手のディオン・テイラー氏を紹介した後、今回の90周年ガラの重要性について言及。中でも、2019年は日加修好90周年・アジア太平洋財団カナダ設立35周年・ジャパン・ソサエティ設立30周年と三つも重要なマイルストーンとなる年であり、今回のガラもこれらの記念すべき年を祝うのに絶好の機会だとした。さらにこれをカナダとの深い関わりをお持ちになる妃殿下と祝う事はとても光栄だと喜びをあらわにしていた。

「人」同士の関係により実現した日加修好90周年

 今回のガラにはカナダ政府の関係者も出席。中でもメアリー・ング小規模ビジネス・輸出促進大臣はカナダ国内だけでも5千以上の中小企業を見てきた。また、彼女は人材育成や女性による起業にも特に尽力している。彼女は妃殿下に歓迎の言葉を捧げた後、日本とカナダの経済的関係の重要性について言及した。その中でも「人」同士の関係の強さを強調。これにより両国の政府も強い関係を築く事が可能になったと述べた。

 これから先、どのように日本とカナダが関係をさらに発展させていくかについて、ング大臣は政治的・経済的な関係のさらなる発展が鍵だと語った。中でも、日加両国間の貿易において重要な役割を担うことになるCPTPPをはじめ、規則に基づいた国際貿易を推進する国同士協力していけるのではないかと指摘。これを通してお互いの国の企業のさらなる発展にも貢献していきたいと決意をあらわにした。

日加修好90周年を記念するガラ・ディナーで基調スピーチをされる憲仁親王妃久子殿下

日加修好90周年を記念するガラ・ディナーで基調スピーチをされる憲仁親王妃久子殿下

 その後、ング大臣は日加両国の環境とサステナビリティに対する意識の高さについても言及。製造業や研究開発、そして先住民にも目を向けた発展を通じてこれから世界中に暮らす人々の生活の質を向上すべく日本とカナダが力を合わせていけるのではないか、と大きな期待を寄せていた。

 最後に妃殿下が登壇された。まず、流暢な英語とフランス語で挨拶を述べられると、ガラの出席者に感謝のお言葉を述べられた。そして、先述にもあった「三つのマイルストーン」を祝福出来ることを光栄に思うと述べられ、日本とカナダの長期に及ぶ友好関係を可能にした団体の数々に改めて心から感謝を述べたいと強調されていた。

故・高円宮憲仁親王の想いを受け継いでくれたカナダに感謝

 今回ガラが開催されたROMには憲仁親王に捧げられたプリンス・タカマド・ギャラリーがある。このように、お亡くなりになられた後でも憲仁親王の記憶や想いが受け継がれていることに対し、妃殿下は感謝のお言葉を改めて述べられた。生前よりカナダと深い関わりがあった憲仁親王は日加関係の発展に常に強い想いを寄せられていたという。「今日のガラに出席したかったに違いない」と妃殿下は亡き憲仁親王に思いを馳せられていた。

 また、妃殿下はお二人の馴れ初めも含め、憲仁親王の生前のカナダにまつわるエピソードも懐かしそうに振り返られていた。また、憲仁親王が倒れられた際に懸命に救護に当たった当時の駐日カナダ大使にも改めて感謝の気持ちを述べられた。

 このように、生涯を通して日本とカナダの架け橋となられた憲仁親王。今となっては妃殿下が彼の役割を引き継がれている。妃殿下はスピーチの最後に、日本が新たな時代を迎えた今だからこそ、このような繋がり、そしてそれによる平和が永く続くことを強く願うと強調。「そのためにも、私達が出来ることは他の人に対して寛容であることだ」と、改めて一人ひとりの意識の大切さを訴えられた。

2019年8月25日

王立音楽院を訪問

ドズウェル副総督及び日本の自治体と姉妹都市交流を行う関係者と

ドズウェル副総督及び日本の自治体と姉妹都市交流を行う関係者と

エリザベス・ドズウェル・オンタリオ州副総督(右)

エリザベス・ドズウェル・オンタリオ州副総督(右)

 妃殿下は、王立音楽院を訪問。マックス・ルビノ王立音楽院プログラムマネジャー、ケリー・ピーターソン氏(故オスカー・ピーターソン氏の未亡人)、小曽根真氏の出迎えを受けられ、王立音楽院内のメインコンサートホールの御視察の後、妃殿下は、音楽を学ぶ子ども達及び保護者等の歓迎を受けられ、子どもたちが自ら作曲した作品の演奏や、小曽根氏の作曲作品の演奏などを楽しまれた。

演奏を披露した子どもたち及び小曽根真氏等と

演奏を披露した子どもたち及び小曽根真氏等と

オンタリオ州議事堂を訪問

 州議事堂では、エリザベス・ドズウェル・オンタリオ州副総督の執務室において、芸術、気候変動等の共通の関心事項につき、副総督と熱心にお話された。その後、日本の自治体と市民レベルでの交流実績を持つオンタリオ州の地方自治体の市長等を交えた昼食会に御臨席になられた。

日系文化会館をご訪問。JCCCサクラ・アワードが妃殿下に贈呈

 8月25日、妃殿下は日系文化会館(JCCC)を訪問された。この際に、ゲーリー・カワグチ理事長が妃殿下を案内。中でも、あまり知られていないユダヤ系カナダ人と日系人の交流について妃殿下に説明した。第二次世界大戦後、日系人が収容所から出た際に仕事先や住まいをユダヤ系コミュニティが率先して提供したそうだ。「世界を癒す」という意味を持つヘブライ語、「ティックン・オラム(Tikkun Olam)」。これはユダヤ人が大切にする精神の一つであり、この精神の元にユダヤ系コミュニティが日系コミュニティにも手を差し伸べたのだろう、とカワグチ理事長は付け加えた。

カナダの「モザイク」が理想的な形

 これを踏まえ、妃殿下はスピーチにてカナダの「モザイク」のような文化について言及された。憲仁親王もカナダを訪れた際に感じられていたことであり、互いの文化を尊重できることはいつの時代においても大切なことであると強調。違った文化や背景から来た様々な人を一人一人が受け入れることこそが平和への第一歩であると妃殿下は語られた。

モリヤマ・日系ヘリテージセンターを視察される憲仁親王妃久子殿下

モリヤマ・日系ヘリテージセンターを視察される憲仁親王妃久子殿下

「地理的なつながり」だけでなく「時空を超えたつながり」にも目を向けて

 さらに、妃殿下は人との繋がりを考える際に、国際的になど「地理的」に繋がるだけではなく「時空を超えた繋がり」も同じくらい重要になると述べられた。

 これは、カナダにおける日系コミュニティの歴史やユダヤ系コミュニティの歴史、そしてこの二つがどのように交わり合ったのかなどを後世に伝え、これにより互いの繋がりをより長期的なものにできるのではないかと語られた。そのためにも、「過去」と「現在」を繋げる努力をしてきたボランティアに感謝を述べられた上、これからもこの取り組みを継続していってほしいと期待を述べられた。

 また、今回のご訪問において妃殿下はJCCCがカナダの日系コミュニティに大きく貢献した人物に贈るサクラ・アワードを受賞された。高円宮家の一員として長年にわたり日本とカナダの友好関係に貢献されてきた妃殿下。賞をお受け取りになった際には会場から大きな拍手が沸き起こった。

サクラ・アワードの賞状をお受けになる憲仁親王妃久子殿下

サクラ・アワードの賞状をお受けになる憲仁親王妃久子殿下

総領事公邸にて元JETプログラム参加者及び元国費留学生との夕食会

日本とカナダの架け橋として活躍する出席者たちに温かな励ましの御挨拶をされる憲仁親王妃久子殿下

日本とカナダの架け橋として活躍する出席者たちに温かな励ましの御挨拶をされる憲仁親王妃久子殿下

 8月25日の夜、妃殿下は総領事公邸にてJETプログラムと日本の文部科学省が実施している国費外国人留学制度(MEXT)プログラムの卒業生との懇親会に臨まれた。毎年、多くのカナダ人を日本に送っているこの二つのプログラム。設立以降、日本とカナダの文化交流に大きく貢献している。初めに挨拶を述べたのは伊藤総領事。二つのプログラムの卒業生には「日本とカナダの架け橋となる存在でいてくれることに感謝を述べたい」と喜びの意を表していた。

日本が世界に誇るべき二つのプログラム

 その後、妃殿下が登壇され、JETプログラムとMEXTプログラムの歴史をそれぞれ振り返りつつ、初期の頃に比べて参加者の増加していることに驚いたと述べられた。

 また、「若い頃からこのように外国での経験を積むことはとても大切だ」と参加者に励ましのお言葉を述べられた。

 さらに妃殿下は日本とカナダが共に取り組んできた新たな動きについても言及され、その中でも「ジャパン・ボウル」など学生をターゲットにした取り組みに大きな期待を寄せられていた。その上で、妃殿下はコミュニケーションをとることの重要性について語られた。

総領事公邸での元JETプログラム参加者及び元国費留学生との夕食会に御臨席された憲仁親王妃久子殿下

総領事公邸での元JETプログラム参加者及び元国費留学生との夕食会に御臨席された憲仁親王妃久子殿下

 社会で生きていく人間として集団であることは強みであり、そのためにもコミュニケーションは不可欠だと述べられた。それを踏まえ、JETプログラムやMEXTプログラムの交流の場はこれからも継続していってほしい、これからもさらに多くの学生や社会人に参加してもらいたいと述べられた。

JET卒業生が体感したコミュニケーション力の重要性

 最後にはJETプログラムの卒業生であるジェニファー・フレンチ・オンタリオ州議会副議長が登壇。始めに妃殿下をはじめ、JETプログラムに関わった人に謝辞を述べ、自身の経験を振り返りながら改めてこのプログラムの重要性を訴えた。2000年から2003年まで日本に滞在していたフレンチ氏。その時が初来日であり、当初は一年間しか滞在しない予定だったのが、日本での生活をとても気に入り、三年も滞在したそうだ。

元JET参加者であるジェニファー・フレンチ・オンタリオ州議会副議長

元JET参加者であるジェニファー・フレンチ・オンタリオ州議会副議長

 この経験により、フレンチ氏は特に妃殿下も述べられていた「コミュニケーション能力」が大きく成長したと振り返った。初めは言葉が通じなかったものの、最後には宅配ピザが頼めるようになり、日本人の友人と「プリクラ」を通して友情を深めるなど、人々との関係の構築にも繋がったと指摘。今回の懇親会でもそのようなつながりを構築できたら、と述べたと共に、将来のプログラムの参加者にも是非「繋がり」や「周りの人への感謝」を胸にチャレンジしてもらいたいと願いを込めた。

 今回のトロントへのご訪問にて様々な場で改めて日加関係の重要性を確認された高円宮憲仁親王妃久子殿下。故・憲仁親王の想いを引き継ぎつつ、これから日加関係がさらに長く、強く発展していく願いを各地において強調された。我々もこの想いを胸に互いを思いやる気持ちを育んでいくと同時に、妃殿下が再びトロントを御訪問されることを強く願う。