トロント国際作家祭招待作家 平出 隆さんインタビュー

インタビューの様子

インタビューの様子


最初の小説『猫の客』が世界的なベストセラーに。詩人としてだけでなく、作家、エッセイスト、ブックデザイナーとして幅広く活躍中。

10月20日から30日までハーバー・フロントセンターで開催された、第37回トロント国際作家祭International Festival of Authors (以下:IFOA)。 IFOAと国際交流基金トロント日本文化センターの共催で招待された平出隆氏に、作家だけに止まらない幅広い活動から今後の展望まで幅広くお話を伺った。

平出氏の朗読に耳を傾ける来場者たち

平出氏の朗読に耳を傾ける来場者たち

朗読会後のサイン会では一人ひとり丁寧に対応する平出氏

朗読会後のサイン会では一人ひとり丁寧に対応する平出氏

詩人・作家になろうと思ったきっかけを教えてください。

実は、私は「なろう」と思ってなったわけではないのです。 詩の場合は特にあまりお金を得ることができないので、例外的な人を除いて、ほとんどの人が詩人としての活動だけで食べていくことはできません。 詩人になりたいという方はたくさんいますが、詩集を出せば詩人になれてしまうものですからね。 そういう意味で、私には詩集を出して詩人になりたい、という意識はありませんでした。

では、なぜ詩を書くようになったのでしょうか。

中学2年生の時に数学が好きで、その頃は数学者になりたいと思っていました。 それで、数学の歴史を紐解き、数学者の伝記などを読み、その中でもある2人の数学者の伝記に非常に感動しました。 当時、私は詩を書いたつもりではなかったのですが、つい私が書きつけたその2人を褒めたたえる言葉を読んだ国語の先生が「この詩は素晴らしい」と皆の前で褒めてくれました。 先生にそう言われて、その時初めて自分は詩を書いたのだとわかりました。 そこから段々と詩というものに興味を持ち始めて、詩を書くようになりましたね。

講演会で自身の原点について語る平出氏

講演会で自身の原点について語る平出氏

朗読会後にはカジュアルな雰囲気で質疑応答が行われた

朗読会後にはカジュアルな雰囲気で質疑応答が行われた

詩を書くにあたって、どのようにアイデアを得ていますか。

ほとんどの場合は自分を追い詰めています。 『猫の客』の中の一節に、マキアベッリという政治思想家の「運命というものは、非常時の力でしか変えられない」という言葉が出てくるのですが、非常時の力というのはつまり、追い詰められた時の火事場の馬鹿力ですよね。 例えば私の場合は、締切りを大幅に過ぎるとかです(笑)。

ブックデザインもご自身で手掛けられていますが、詩とはまた別の分野を始めたきっかけを教えてください。

詩を書いたり文章を書いたりするようになって、それをいざ本にするという時に、若い頃はどうすればいいのかわからないので途方に暮れるわけです。 最初の詩集はそういう中で、自分で装丁したのですが、第二詩集からは菊地信義さんという素晴らしいブックデザイナーの方がデザインしてくれました。彼が、あなたはこれでいきなさいという姿を与えてくれたので、そこから更に、自分がどうありたいのかと考えるようになりました。

それで、装丁というのは単に衣装ではなくて、自分の存在の形のような、生命が自分を設計するようなものだと思うようになって、自分自身で設計したらどうなるのかなというところからやり始めましたね。 書き手は書いたら終わりで、装丁はしてもらうというのが一般的な関係なのですが、書いた後もうひと踏ん張りして形を作るというようにしています。

日本の作品が世界に進出することについてどう思いますか。

 
やはり翻訳の壁がありますね。それ以外にもアピールする方法とか経路とか、なかなか難しいことばかりだとは思いますが、近代以降でも重要な作家が訳されていないと感じます。 でもまずは、どの作品かどの作家かと考える。その時、現代の作家で私が編集者として直接関わった澁澤龍彥さんと川崎長太郎さんという、どうしても私にとって貴重な方々がいらっしゃるのですが、澁澤さんの作品などは日本ではとても有名でファンもたくさんいてユニバーサルにアピールできるものなのに、翻訳が出されていないというのが世界へ進出する前の、翻訳の壁を象徴しているような気がします。

お二人は全然違うタイプの文学なのですが、私は両方から影響を受けました。 『猫の客』は、お二人とも亡くなったので読んで頂けませんでしたが、この作品の中には、対照的なお二人からの強い影響があります。この作品だけ広まっていくのは申し訳ないので、これからこういう機会がある度にお二人のお名前を挙げようと思っています。

満席の講演会後、質疑応答の様子

満席の講演会後、質疑応答の様子

会場の様子

会場の様子

今後の展望をお聞かせください。

個人郵便局のような感じで、郵便で自分の本を直接読者に送る、1人の作家が1人の読者に直接送るという関係を作りたいと思っています。 そのためにvia wwalnutsという版元を作り、今その刊行に取り組んでいます。 流通の場合は国境の壁があるのですが、郵便ですから簡単に国境を越えられるわけです。

読者の数を何万部とか、その数を増やすとかそういう数え方ではなくて、1人ずつ直接届けられる人を増やしたい。 そういう読者が、いろんな国に1人ずつでもいたら面白いなと思うのです。 ウェブサイトで注文を受けて、私が郵便で送るという関係で様々な国にそうできればいいな、と。 こういう文学祭で出会えた別の作家や読者の方とも、そういう関係を作っていけるといいなと思っています。

TORJAの読者の方々にメッセージをお願いします。

「旅の仕方」を見つけることですね。私の場合、過去のある作家の足跡を辿るということをします。例えばその人が生まれたのがニュージャージーの小さな町なら、そこへ行く。自分では思いつかない旅が始まり、結局最後はイギリスの小さな島に行って終わりましたが、イギリスの友人にそこに行きたいと言うと、完全に狂っていると言われましたね(笑)。

ベンヤミンや伊良子清白の生涯を辿ったりだとかいろいろしましたが、つまり、普通ひとが行かないような土地に魅力を見つけ、行くようになるのです。 テーマを見つけるというのは、同時にその人の生涯も見るということなので、自ずと旅も見つかります。 テーマが増えると二つのテーマで重なる場所が出てきてラインがクロスしたりする、そんな楽しみもあります。今度どこに行こうかな、とガイドブックを見るのではなく、テーマを見つけ、新しい道を見つけ、自分だけの計画を立てて旅をしてほしいと思います。



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平出 隆

1950年福岡県生まれ。 詩人、造本家として数多くの詩書を刊行。 一橋大学在学中の72年に詩人としてデビュー。 1998年、ベルリン自由大学客員教授として1年間ベルリンに滞在。 2008年、詩集『胡桃の戦意のために』の英訳がアメリカの最優秀海外図書賞 Best Translated Book Award を受賞。2010年、via wwalnuts社を設立。 著作・装丁・出版のすべてを自ら手がける叢書を刊行中。 また、大江健三郎により「詩の中から新しい散文を生み出す詩人」として推輓され、共にオーストリアの文学祭に参加。 近年、小説『猫の客』が多国語に翻訳出版され、国際的ベストセラーとなる。