「『麻雀放浪記2020』は思い入れのある特別な作品」主演 斎藤工さん トロント日本映画祭スペシャルインタビュー&舞台登壇密着ルポ|トロントを訪れた著名人

 自身の監督作品『blank13』の公開に合わせてカナダを訪れてから一年。主演作『麻雀放浪記2020』の公開に伴い、斎藤工さんが二年連続でトロント日本映画祭に登場。上映前のインタビューでは、自身の作品に対する想いや映画に対する考え方について終始真剣な面持ちで、一つ一つの質問に丁寧に回答をいただいた。

 今回上映となった作品『麻雀放浪記2020』は、白石和彌監督がメガホンをとり、主人公は俳優・斎藤工さんが演じる「坊や哲」というプロの麻雀士で、ベッキーさんや竹中直人さんをはじめ豪華な俳優陣が登場する。

 主人公が生きる時代設定は昭和の第二次世界大戦後1945年だが、〝第三次世界大戦〟で東京オリンピックが中止になった2020年にタイムスリップし、AIやVRなどに翻弄されながらも麻雀での闘いを繰り広げる。また全編は、新しい試みとしてiPhoneで撮影という手法が用いられているという。

 今号は、前回のダイジェストでは一部しかお見せできなかったインタビュー全編、そして舞台挨拶及びQ&Aセッションの全編をまるまるお届け!

ー二年連続となるトロント日本映画祭ですね。去年の映画祭の印象や再訪問のきっかけなどを教えてください。

 北米の中でもこのトロント日本映画祭は年々特別なものになっていると感じています。はじめは、映画祭にはいろいろなゲストが来た方がいいと思っているので、私が連続で来ても貢献できることは少ないのではと遠慮していました。しかし、今年は『麻雀放浪記2020』がラインナップされていると聞き、前回の『blank13』と合わせてすごく特別な作品なので、再訪を決めました。ホスピタリティ精神に溢れた主催者の方々とカナダで再会したかった気持ちもあります。

 前回はナイアガラの滝へ行ったことが思い出としてありますが、今回は、CGソフトを製作している企業の見学に行きました。長年の功績でオスカーも受賞している実績のある企業です。休日にも関わらず丁寧に案内していただき、技術的な仕事の裏側を見るとても貴重な経験ができました。

〝現代の日本が直面している問題を表現した作品に仕上がっている〟

ー時代背景はAIの登場など近未来となっていますが、作品全体のメッセージや注目してほしい部分はどこですか?

 本作はまさに原作度外視のぶっとんだ設定で、タイムスリップするという展開です。しかも、1945年の戦後から2020年の〝第三次世界大戦〟の戦後にタイムスリップ、という設定です。いまの日本は戦争が起こらない国と皆が信じていますが、実は、この映画の製作当時はJアラートが度々鳴っていた時期で、関係ないと思っていた戦争を身近に感じざるを得ない緊張感が生まれ始めた時期でもありました。そういう背景の中でこの作品が生まれました。10年かかるべくしてかかった作品だと思います。一見コメディですが、AIがどういう象徴なのかということも含めて、現代の日本が直面している問題を表現した作品に仕上がっています。

ー今回の作品で役作りにおいて工夫した点はありますか?

 原作の著者である阿佐田哲也さんの世界に憧れている人間として、最初は自分で演じるつもりはありませんでしたが、作品の持つ精神性という部分では、ファンであることもあって、とても明確でした。この作品においてとかく特別に準備したことはありませんが、昭和のかたまりのキャラである「坊や哲」を意識し、演じました。

〝日本が戦後いかに立ち上がったかのリアリティを描き出している阿佐田さんに憧れていた〟

ー阿佐田哲也さんの半生を描いた映画『明日泣く』ではご自身が出演されています。阿佐田さんに憧れを抱いているということですが、どういう点に憧れを抱いていますか?

 敗戦後いかに国民が立ち上がったかというリアリティを描き出している部分です。この作品はイカサマの話ですが、負けないための手段、イカサマの生き方が表現されています。敗戦後の日本の起ち上り方のアイデンティティをすごく感じます。自分の食べるコメなどの食料を死守するという過酷な状況や姿勢を、原作『麻雀放浪記』を読んでひしひしと感じました。敗戦の昭和を生き抜いたその世界観は、昭和後半生まれの私にとって憧れがあります。

〝『麻雀放浪記2020』が、阿佐田さんの作品に触れる一つのきっかけになれば嬉しい〟

ー阿佐田さんの奥様にこの映画の制作を託されたということですが、どういう経緯がありましたか?

 阿佐田さんの存在や作品に触れる機会が少なくなってきた現代で、この『麻雀放浪記2020』が、阿佐田さんの作品や和田誠さんが監督した『麻雀放浪記』に触れるきっかけになれば良いなという気持ちです。奥様にはクリエイターの自由度を高く託していただいたので、原作の精神性だけは守りながらも、アレンジを加えることを見守ってくださいました。

〝映画『MANRIKI』や『COMPLY+-ANCE』に託した思い〟

ーこれから公開される『MANRIKI』や『COMPLY+-ANCE』は、現在の放送・TV業界に疑問を提唱する作品となっています。斎藤さん自身は、今の社会にどうアプローチし、変えていきたいと思いますか?

 私自身は壮大なものに立ち向かう気は毛頭ありませんが、テレビ業界の報道の不自由さ、過剰な規制は多々感じています。今年6月に起こった香港のデモの報道のされ方もそうですが、日本の報道自由度のランキングは去年72位、今年も67位と高くありません。自由な報道が大切にされる中で、ニュースのソースに規制がかかっているような状況です。それに気づいている人も、知らないふりをしているように感じます。

 カナダに住んでいる人には、日本にいる我々より、多くのことが見えているのではないでしょうか。『COMPLY+-ANCE』はテレビ業界のコンプライアンスを映画で描いています。報道においてモザイクをかけるなら逆手にとってモザイクアートにするなどを構想した書籍を執筆したこともあります。何が変わるかわからないですが、「現状が滑稽だ」ということを描くのも一つの映画界の責務だと思っています。テレビじゃできないですし。

〝マルチで多角的な人が活躍する時代〟

ー斎藤さんは、「映画人・斎藤工」と称されることが増えています。多方面で活躍されているということですが、どう感じますか?

 「映画人」と呼ばれることを特別意識はしていないですし、呼ばれたいとも思っていませんが、カテゴリー付けは日本人がやりがちなことです。しかし、今はそんな時代ではないですし、マルチで多角的な人が活躍すると感じています。若手世代は表現方法がいろいろですし、既に実行している人も多いです。私たちの世代はルールやしきたりの恩恵を生きていますが、僕はカテゴリーを意識することは全然ないと思っています。映画の近くにいることが多いだけですね。

ー将来像など今後の目標があれば教えてください。

 俳優としての目指す姿は今のところありません。ですが、今個人的に興味があるのは、「農作物」です。作物はサイクルの中で育ちますが、同じバイオリズムは人間にもあると思います。ですが現状、作物の循環が人間の都合で急ピッチになっている。自然の持つサイクルと同調していた時代に戻すのが必要だと感じています。

【斎藤工さん プロフィール】

 1981年生まれ、東京都出身。主な出演作に『昼顔』(17)、『去年の冬、きみと別れ』(18)、『のみとり侍』(18)、『ソローキンの見た桜』『家族のレシピ』『DINER ダイナー』『万力』(19)などがある。齊藤工名義でフィルムメーカーとしても活躍し、初長編監督作『blank13』(18)では日本人としては初の上海国際映画祭アジア新人賞部門の最優秀監督賞他、国内外の数々の映画賞を受賞。エリック・クー監督がショーランナーを務めるHBOアジアのオムニバスホラードラマ「FOLKLORE」の一編『TATAMI』の監督も務めた。劇場体験が難しい地域の子供たちに映画を届ける移動映画館「cinēma bird」を主催するなど活動は多岐にわたる。

舞台挨拶・Q&Aセッション密着

Q 本作にはAIやVRなどが登場しますが、時代背景として未来にこだわったのはなぜですか?

A まず和田誠監督の傑作である原画『麻雀放浪記』が、自身の人生で巡り合った映画の中でベストなものだと感じておりました。原作を上回るのは難しいですが、阿佐田さんの奥様に映画製作の許可をいただき、製作に10年かかりました。その10年間を作品に落としこんで東京オリンピックを物語に絡めることにしました。また、製作中にJアラートが度々鳴った時期もありましたので、日本に住んでいる限り戦争に対して無警戒という風潮のなか、東京や日本が今後どう変化していくのかを考えることは必要だなと考えました。製作にあてた10年という月日は必要だったと考えています。

Q 撮影はすべてiPhoneで行われたということですが、その試みはいかがでしたか?

A 全シーンの撮影において、iPhoneが使われました。いまは機動性が高いのですごく可能性を感じています。最初は編集において違和感がありましたが、すぐに慣れ、今となっては自分にとってスタンダードな形だと思います。

Q 演じた中で一番好きなシーンはどこですか?

A 素手でしゃぶしゃぶを食べるシーンです。アドレナリンが最高潮に達しましたね(笑)。あのシーンでは坊や哲は熱さを感じないと思い演じ切りましたが、ふと手を見たら赤くなっていました(笑)。

Q 麻雀を始めたばかりでなかなか勝てないのですが、どうすればうまくなりますか?

A 手積みですか?(笑)。手積みだったら、イカサマができるので教えます(笑)。真面目にアドバイスすると、〝役〟を覚えることですかね。私は麻雀アプリで練習しました。

Q カポエラを習っていたそうですが、役者としての演技にどう影響を与えていますか?

A カポエラは型がなく、競技中相手の目を見続けます。相手がどう動くかで自分の出方を決めるという点では、演技と一緒だと思いますね。自分を相手に順応させることが大切になってきます。

Q 有名となった「スター」がやがて輝きを失っていく過程についてどう思いますか?

A 芸能界のシステムを飛行機に例えることがありますが、速い速度で上昇し同じ角度で落ちていく、つまり有名になっていってもやがて人気も収束していくような状況をたくさん見てきました。何かがその人に起こると、マスメディアを含めその人を攻撃していくというのが、日本の芸能界の悲しい部分でもあると思います。

Q 今回トロントに来ることを決めた理由はなんですか?

A 去年トロントに来た際に、観客の方のリアクションに感動を覚えました。去年とは違い、今回は自分一人だけで来たのですが、トロントで過ごした日々が思い出深く、関係者の方や皆さんが家族のように接してくれて、戻りたい場所だと感じました。

 この映画祭にも日本の素晴らしい若手俳優がもっと来るべきで、そうすれば映画祭の幅が広がると思っています。今回ラインナップされていた『麻雀放浪記2020』は僕にとって特別な作品なので、ここに来ることができて、ジェームズさんを始め関係者の方々に感謝しています。