被爆者、反核運動家であるサーロー節子さんのNHKドキュメンタリー上映会がカナダで開催

 原広島に原爆が投下されたあの日から73年。核兵器の無い世の中にするには…

Photo by Alex Puettner


爆の日を迎える前日2018年8月5日、日系文化会館(JCCC)ではサーロー節子さんをゲストに迎え彼女の活動を追ったドキュメンタリー特集の上映会がトロントでも催された。

 当時13歳で被爆を経験することとなったサーローさんは、広島女学院大学卒業後、米国に留学しリンチバーグ大学で社会学を学ぶ。カナダ人の夫とともにトロントに移住し、1955年にはトロント大学にて社会福祉事業の修士号を取得し現在ソーシャルワーカー・ICAN(核兵器廃絶国際キャンペーン)としてここカナダの地で活動を行っている。

心に響くドキュメンタリー

 約30分間によるドキュメンタリー映像では、原爆が投下された当時の悲惨な状況や心境、何故彼女は生き延びることができたのかを語った。米国留学中、未だ核兵器の実験が行われている現実を知った彼女は、幼いながらにして公共の場で原爆の廃止を訴えた。これが、反核運動のきっかけであり始まりだった。

 戦争経験の無い若い世代の人たちに知ってもらおうと、アメリカの学校を度々訪問し学生たちへ被爆の恐ろしさを伝えて回った。2017年7月、ニューヨーク国際本部で行われた核兵器禁止条約会議に出席したサーローさんは、核兵器廃止の訴えを綴り全身全霊を込めて世界へと発信した。被爆から72年、その想いが各国代表心に響き多くの賛成を得て条約が採択された。そしてノーベル平和賞の授賞式では、受賞者のICAN=核兵器廃絶国際キャンペーンとともに活動してきた、サーロー節子さんが被爆者として初めて演説するという大役も果たした。

 上映後、サーローさんによる約1時間に及ぶ英語のスピーチは、数十年に渡る壮絶な核廃止活動を物語るものだった。

一人一人と交流をしている様子。中には手紙を渡す人も。

核への理解を深める事が重要

「このようなイベントは環境に応じてどう生きて行くか、また生と死について考えるとても重要な機会だと思っています。単純に生きて行くことは難しくありませんが、核の時代である現実と向き合う時間が必要なのです。このドキュメンタリー映像は、今世界が抱える問題と向き合う為の一つの手段になっていると考えています。

 長年このような講演を続けていると、大変ではないかと聞かれることがありますが、少なからず胸が苦しくなるのは確かです。でも、自分の経験を通して原爆の恐ろしさを世界に語り続けることは、核がどんな威力を持っているかをより多くの人々に理解してもらう為に何よりも重要なのです。」と経験した人にしか伝えることのできない実態を必死になげかけた。

犠牲になった友人達の名前が書かれた垂れ幕

核兵器の存在は悪

「今もなお一部の国々では、核兵器実験を行いより脅威をもった武器を開発し続けている現状があります。つまり、あの悪夢がまたどこかで現実のものとなってしまう可能性があるということです。これ以上犠牲者を出す事は決して許されず、今すぐ公の場で伝えなければと思った私は、留学時代に米国の地で核兵器廃止を訴えました。すると、翌日にその出来事が現地新聞に取り上げられ非難を浴びることもあり、とてもショックでした。

 原爆で家族も友達も失った私は、そんな気持ちを打ち明ける人もおらず孤独に押しつぶされそうな状態でした。しかし、アメリカからトロントに来ることができた私は、より強い精神を持ち〝核兵器〟に立ち向かうと決意しました。原爆を経験した私にしか言い表せないことを、言葉にして世界に伝え〝悪〟を消し去りたいのです。」と自身の考えを述べた。

スピーチ終了後、拍手喝采を浴びるセーローさん

核兵器の無い世界にするには

「ICANとしての最終的なゴールは、この世から核兵器を無くすことです。その為には、未だ核兵器を持ち続ける国々がその代償や原子爆弾のあらゆることについて学ぶ必要があります。例えICANに参加したとして、それでもなおより強い武器を求め造ることを止めない可能性もあります。

 しかし、私たちが諦めず訴え続けなければ、原爆の恐ろしさを知らない人々から核兵器廃止に賛同してもらうことはできません。つまり、この会場にいる一人一人が今世界で何が起こっているのか知っておく必要があり、核について学ぶことにおいて私の発信する情報が少しでもその手助けとなれば幸いです。

 政府が市民を守る義務を全うし、今後核兵器を持つ国々へ世界の平和を訴え続けて欲しいと思っています。私たち市民にもできることは沢山あります。今日来てくださった皆様にも、この世の中が核のないPeacefulな世界になるよう情報発信をしていっていただけたらと思います。」とその想いを来場者に語りかけた。

本誌独占!本誌では講演後のサーローさんから上映後に話を伺う機会をもらい、感想を述べてもらった。

人間の命や死、将来の自分の子供や孫など人類の問題を考えられるのであれば核兵器に関しても目をそらすことはできない

ー辛い被爆の経験を経てどのような人生を過ごしてきましたか?

 毎日泣いてクヨクヨするなんてことはできませんよね。もう80年以上も生きているので。私の命があるということは何かボーナスを貰った、生かされているのだと思います。被爆者の中には、もう思い出したくないと言う人もいれば、辛い過去を乗り越えこれからどうしていけばいいのかを考える人もいます。私としては、与えられた命をどう生きるか最善かつ最も人間らしい生活とは何なのかと考えています。

 以前はどんな職に就くべきかとても迷っていましたが、やはりもっと人々の近くにいてサポートできるような存在になりたいと思ったのです。そこでソーシャルワーカーになることを考えましたが、ただ善人だからといってなれるものではなく大学院に通い学位を取る必要があると聞き学校に通うことに決めました。

会場の様子

ー核兵器禁止条約締結された瞬間のお気持ちを詳しくお聞かせください。

 とても尊い瞬間でしたね。長年講演で伝えてきた事が今現実に起こったのだと信じられない気持ちでした。自分の努力が報われたというか、とにかく涙が止まりませんでした。

ー最後に、読者の方へメッセージをお願いします。

 皆さんが人間の命や死、将来の自分の子供や孫、そういった人類の問題を考えられるのであれば核兵器に関しても目をそらすことはできないとお伝えしたいです。難しいトピックであることは理解していますが、生きて行く上で学ばなければならないと思っています。もしまた核兵器が使われたとすると、世界の破滅の可能性だってありますよね。ですから、私たちは「核時代」を生きているということを真剣に考える必要があるということを心にとどめていて欲しいです。