紀行家 石原牧子の思い切って『旅』 #9 ニューファンドランド・ラブラドール州(2)

第9回 ニューファンドランド・ラブラドール州(2)
世界遺産ランス・オ・メドー国定史跡

世界遺産ランソー・メドー国定史跡-バイキングの活動拠点(1000年頃)

世界遺産のグロス・モーン国立公園(7月号参照)を出発し、バイキング・トレイル(Viking Trail)で知られる国道430号線を北上。ノンストップで5時間も走るとNorthern Peninsula 半島の北端、ランス・オ・メドーの原野が目前に。L’Anse aux Meadowsは日本語ではランス・オ・メドーと紹介されるが、発音はランソー・メドーと仏語読みで、「ス」と「オ」を切り離して言われることはない。Viking Trailには紙面では書ききれない程観光スポットが多いので一気に走ってしまってはもったいない。それに観光標識が非常に見逃し易いのと、ムースやシカが道路にでてくることもあるのでスピードは出せない。標識をみて横道に入るといつもサプライズが待っている。

巨大アーチ(The Arches)は長年の浸食で岩がアーチになって浜に取り残された自然現象。どこのビーチにこんな場違いの岩があるだろうか。高台の駐車場から 階段を下りてアーチの下に入ってみる。足下には丸い卵のような無数の石が水に濡れて色とりどりの自然色に輝く。

漁を終えた漁船が次々にポート・ショワ港にはいる


Viking Trailのちょうど中間地点に歴史的な人口800人の町、ポート・ショワ(Port au Choix)がある。16世紀、沖では英仏の漁船が縄張争いをしていた。18世紀には英国がニューファンドランド島を領土としたため英国漁船が優先したのに対し、フランスは指定されたFrench Shoreの海岸沿いのみで活動が許可されたという歴史がある。French Shoreの岩壁から見下ろす海はいまも遠く厳しく、なおかつ空よりも深く冷たい紺色だった。朝、港の魚工場に行って見るとシュリンプ漁船が次々に到着し桟橋で荷を下ろしていた。乗組員とおしゃべりしていたら、「引っかかりすぎたから」といって袋一杯に鱈(たら)をくれた。港に行ってみたボーナスか。

左:大アーチの下には色とりどりの石が 右:ポート・ショワの岩壁トレイル

コロンブスのアメリカ大陸発見より5世紀も前にバイキングが上陸していたことが1960年の発掘で分かった。ノルウェーのイングスタッド夫妻(Ingstad)とカナダ政府の共同発掘だ。それがL’Anse aux Meadows National Historic Site。1978年に世界遺産に指定される。西暦1000年頃60〜90人のノース(Norse)と呼ばれるバイキングがグリーンランドから到来。芝生をブロックのように積み重ねた独特の建物を作り大西洋とラブラドール近海の活動の拠点とした。だが残念なことに、イヌーやミックマック原住民の人口が近隣に多く住んでいたことと、彼等の襲撃を受けたことから、バイキングは数年で引き払ってしまったといわれる。

左:海を眺めるバイキング像 右:セント・アントニーから観光船で氷山に接近


ディスカバリー・センターにはバイキングの航海情報の詳細が展示されている。センターからガイド付きのハイキングが定期的にでるが、180度、遮るもののない80㎢の敷地は個人でも自由に散策できる。地面に這いつくばるように咲いている花には独特の美しさがある。ここから2キロ離れたノーステッド(Norstead)の広大なバイキング部落には海を見張るかのように背の高いバイキングの銅像が立っている。バイキング船、スノリ(Snorri)号や住宅、教会が再現されていてパイオニアビレッジのように衣装をまとった地元民がおもてなしをする。スノリ号のレプリカは実際に1997年にグリーンランドからニューファンドランドまで2400キロのテスト航海に成功している。延々と続く海岸を散歩しているとタイムマシンに吸い込まれていくような気になる。

ランソー・メドーと一緒によく訪れられるのが南に位置するセント・アントニー(St.Anthony)。クルーズ船も停泊することがあり、町は年間1万2千人の観光客を誇る。 医療先駆者兼宣教師、ドクター・グレンフェル(Wilfred T. Grenfell 1865-1940英国生)でも有名。ラブラドールに点在する集落民の貧困と病癖に心を痛め、医療ステーションや病院を設置した。遭難して犬ぞりの犬を殺して生き延びた彼のサバイバル・ストーリーは有名だ。ミュージアムは一見の価値有り。小さな観光船に乗ってみた。沖に浮かぶ氷山の周りを一周し、ガイドが氷を取ってみせてくれた。何百年も閉じ込められていたかもしれないエコな水が私の口を潤す。



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石原牧子

オンタリオ州政府機関でITマネジャーを経て独立。テレビカメラマン、映像作家、コラムライターとして活動。代表作にColonel’s Daugher (CBC Radio)、Generations(OMNITV)、The Last Chapter(TVF グランプリ・最優秀賞受賞)、写真個展『偶然と必然の間』東京、雑誌ビッツ『サンドウイッチのなかみ』。3.11震災ドキュメント“『長面』きえた故郷”は全国巡回上映中。PPOC正会員、日本FP協会会員。
www.nagatsurahomewithoutland.com