カナダではなぜ赤信号時の右折が可能なのか|特集「カナダの“なぜ”に迫る」

 北米のほとんどの場所では赤信号でもクルマが右折をしていいという交通ルール。どう考えても危険極まりないこのルール、その導入背景や改定を求めた声などを調べる。

 カナダではほとんどの場所で右折を禁止する標識がない限り基本的にそれが許されている。

 オンタリオ州では右折の車線が一つ以上ある道路の場合でも特に標識がない限り全ての右折車線で右折が許されている。ケベック州では2003年まで禁止されていたが、今ではモントリオールが位置するモントリオールアイランド以外の場所で基本的に右折が可能である。

 赤信号で右折をした自動車が関わった衝突事故ではほぼ全ての場合でその運転者が全責任か部分的責任を課せられる。そのため右折をするかしないかは運転手各々の判断によるので他の運転手は右折を強要することはできない。強要のために車のクラクションを鳴らした場合、100〜200ドルの罰金が課せられることもある。

導入背景にはオイルショックが影響

 アメリカでもニューヨークシティーを除いて標識がない限り赤信号でも右折が許されており、西海岸では50年以上前から許可されている場所もある。東海岸では1970年代に交通法規の変更が行われたが、背景には1973年のオイルショックが影響している。オイルショックにより自動車燃料の不足が進んだ結果、燃料を節約する方法の一つとして赤信号時での右折が許可された。1980年までにはニューヨークを除いた全州で許可され、カナダでも1984年にオンタリオ州で導入された。この特権には燃料消費量だけでなく大気汚染排出量を減らしたり、交通循環の改善、運転手の時間やお金の節約なども目的とされている。

交通安全の懸念、右折禁止の声アルバータ州エドモントンの取り組み

 しかしながら、毎年交通事故は絶えず、赤信号時での右折を懸念する声も各地で多く上がっている。
 アルバータ州エドモントンでは、2017年は3381人が交通事故で負傷しており、うち3354人は衝突事故によるもので、それに加えて27人の死者も出ている。死者・重傷者を出した329の衝突事故のうち43の事故は、運転手が歩行者に譲らなかったことによるものであるとされている。

 エドモントンは交通事故による死者・重傷者の数をゼロに目指す「Vision Zero」という都市計画を2015年にカナダで初めて取り入れた都市である。市の交通安全局はこの計画によって事故数や犠牲者、損失などは徐々に下がってきていることを明らかにした。さらに右折左折時の事故を減らすためにダウンタウンや混む道など事故のリスクが高い特定の場所で赤信号時右折の禁止も検討しているという。また、トロントや東京、バンフなど大きな都市で既に取り入れられているスクランブル交差点の導入も考えているという。

トロントの取り組み

 トロントでは、2018年10月の時点で交通事故による死亡者が少なくとも55人にのぼりそのうち31人は歩行者であったという。ここ10年で2100人以上の歩行者が死亡もしくは重傷を負ってきたことから、市では2017年にエドモントン同様「Vision Zero」の都市計画を取り入れた。

 各地で制限速度を厳しく変更し、道路上の安全地帯や危ない交差点の改善、速度違反取締カメラの設置など約1億ドルをかけて交通安全を図っている。また、車がスピードを落としたり歩行者の歩く距離を短くしたりすることができるため事故を防ぐために道路をどうデザインするかにも注目を置いている。

歩行者の死傷数のうち13%が交差点で右折をした自動車によるもの

 The Toronto Centre for Active Transportation(TCAT)を中心に様々な団体と提携して市に対して提出したレポート「#BuildTheVisionTO: Safe and Active Street for All」の中には、さらに多くの場所での制限速度の減速やさらなる交通安全教育、赤信号時の右折禁止などを勧めた案が上がっている。

 そのレポートでは歩行者の死傷数のうち13%が交差点で右折をした自動車によるものであると示されている。2006年からのデータによると歩行者41人が右折車を通して死に至っている。また、そのうち3分の1の犠牲者が60歳以上であるという。

 「#BuildTheVisionTO」のレポートのうち最も実現可能な項目は幹線・補助幹線道路での速度制限を40km/時に、住宅街では30km/時に減速することのほかに、赤信号時右折の禁止も積極的に勧めている。

 トロント市は信号で完全停止をするだけでも右折時の事故を大きく減らすことができるとし、2017年にほぼ倍の数の赤信号カメラを導入し、取締りを強化している。

 トロントでは毎年2万9千件から3万3千件が告発されておりカメラを通して10年間で25万5千枚の違反切符が切られてきた。さらに右折時の完全停止をしない場合を含めた信号無視の違反は325ドルである。高額な違反料やカメラ導入の周知から運転手の注意をひいたり信号無視が減ったり安全が改善される可能性が多くある。

 ちなみに、ケベック州全体では歩行者安全グループ「Pietons Québec」などから歩行者の安全のために州全体で赤信号右折を禁止する声も上がっているが、市長らは右折許可の声の方が多いことと許可をすることによって得られる効果・利益の方がネガティブな要素よりも大きいとして引き続き許可していく方向性を示している。

 しかしながら、まず歩行者にとっての信号が青であるから渡っても良いという権利、子どもや視力や聴力、障害を持つ人やお年寄りへの配慮を人口の増加や成長を遂げる国・都市では考えていかなければならない。

 今後、特に歩行者の安全を考慮して右折禁止を求める声が各地で上がっていくことになるではないだろうか。