カナダの世帯所得は高いの?低いの?|白ふくろうの「カナダの社会・経済」ネタ探し【第29回】
カナダ統計局「Statistics Canada」より2017年カナディアン所得調査が発表されました。データ的には2年前のデータとなりますが、所得傾向や配分を見ることはできると思い、ご紹介します。
カナダの世帯所得は高いの?低いの?
レポートの冒頭、次のように概略が書かれています。
2017年カナダの家族世帯と一人暮らしの人たちの税引後所得の中央値(データ序列の中央にくる値)は、所得上昇が無かった2015年、2016年の後、2017年には対2016年比3.3%上昇し、5万9800ドルとなった。要因は、65歳以下の現役世代の賃金やサラリーが上昇したことと政府支給の子供手当が増えたことによる。
まずはこの点を詳しく見てみましょう。
税引き後(可処分)世帯所得5万9800ドルは、だいたい想定ラインですが、その構成を見ると二つのグループに分かれています。
一つは、「Economic Families」と定義される血縁、結婚、養子縁組などで二人以上の構成員がいる家庭グループ。一般的には家族と言われる世帯で、その税引き後平均所得は8万1500ドルとなっています。さらにその細目では、子供がいる二人親世帯は9万7100ドルとなっており、推測するに夫婦共稼ぎのケースが多く含まれていると思われます。一方、一人親世帯は5万200ドルとなっており、それには子供手当など政府援助1万4000ドルが含まれていることから、就労所得は非常に低くなっていることが読み取れます。
もう一つのグループは、「Persons not in an Economic Family」と定義され、一人暮らし世帯です。その税引後所得は3万300ドルとなっており非常に厳しい生活レベルと言えます。このグループの中で注意が必要なのが、65歳以上のシニアの一人暮らし。65歳や70歳は老人と言うには早すぎる年齢だと思いますが、いわゆる独居老人と言われる人たちの税引後収入は政府からのお金(年金等)1万8300ドルを含め2万7500ドルとなっており、この統計データの中でもっとも世帯収入が低くなっています。
こうしたグループ構成別のデータを見ると、税引後所得8万ドルを超える世帯と、3万ドル程度の世帯の二つに大きく分かれており、世帯別貧富の格差が浮き彫りになっています。
このレポートでは、もう一つ新しく説明されているものがあります。
それはこの貧富の格差に関連する貧困レベル。
カナダでは、2018年に「Bill C-87 An Act Respecting the Reduction of Poverty」という法律を制定させ、貧困を減らすべく初めて公式な貧困レベルを定めました。また、その政策は、「Opportunity for All: Canada’s First Poverty Reduction Strategy」と題して実現に向かって努力が期待されています。
その貧困レベル決定方式は、「Market Basket Measure(MBM)」というもので、カナダ統計局が定める生活に必要な物品やサービスを一つのバスケット(統計グループ)に入れその総支出金額を設定するもの。最低限の生活をするのに必要な収入金額レベルの設定で、家族構成、コミュニティなどによって個別にその貧困レベルが設定されるようです。
これに対し、従来の「Low Income Measure(LIM)」は、カナダ全土の所得中央値に対しての比較で測られるもの。
いわゆる絶対評価である「MBM」と相対評価である「LIM」と言えるかもしれません。この二つのレベルや変化を見ながら政策を打って行くという戦略です。
この公式貧困レベルを2017年に当てはめてみると、約340万人、人口比9.5%に人が貧困レベルを下回っているそうです。つまり、約10人に一人は、生活するコミュニティで最低限必要な物品、サービスを受けるだけの収入がないという実態です。しかし、2016年のデータでは、10.6%となっており、1.1%の改善は見られたとのこと。
今後、このデータを地域別、世帯構成別などに分けて監視し、その実態に合わせたきめ細かい政策を打つことで貧困レベル以下で生活する人を少なくし、世帯所得格差も小さくしていくことが期待されます。
白ふくろう
1992年音響映像メーカー駐在員として渡加。8年の駐在の後、日系物流会社に転職、休眠会社を実業会社へ再生再建。2007年より日系企業団体事務局勤務、海外子女教育・日本語教育にも関心が高い。2009年より、ほぼ毎日トロントやカナダのニュースをブログ(カナダはいいぞ~。トロントはもっといいぞ~)で配信している。