バレリーナの憂鬱|オリンピック選手もサポートするカナダ公認マッサージ・セラピストが教える身体と健康【第113回】
お子さんの習い事としても人気の高いバレエに関するお話です。
将来的に背筋のピンと伸びた手足の長い理想的なバレリーナ体型に成長してもらう事をイメージしてレッスンをスタートする方が多いのではないかと想像します。
理想とする姿勢や動きに近づくために、長い時間をかけて基本動作を反復練習して身につけバレリーナとしての基礎を作り上げていくステップを経てSoloistやPrincipal Dancerとキャリアアップしていきます。
バレエの練習メソッドは、長い歴史に基づき細かな所まで行き届いた完成度の高い方法だと思います。
その反面、幼少期から厳しく指導されるので体に様々な負担をかけてしまう事があります。
体に溜まった深部の疲れは、まだ痛みを伴わないので本人を含め周りの人たちも大きな怪我になるまで認識するのが難しいので注意が必要です。
ここでは、せっかく夢を抱いてスタートしたバレエレッスンが途中で楽しく無くなってしまう様な最悪のケースを避けるために、私の経験した様々なバレリーナの抱える問題点の具体例をもとにして、TORJAの読者の皆さんに、その対策案をご紹介します。
【バレリーナ10歳】足首を捻って捻挫を長年繰り返している。ストレッチしても効かない。
日頃一番よく目にするケースです。この状況をマッサージセラピストの目線でご説明します。
足首の捻挫を繰り返している問題について言える事は、毎回痛みが取れれば良いという対応は不十分である事。
私のお勧めする対応は、「捻挫し難い足首のコンディショニングをしましょう!」です。
バレエリーナに「足首を捻らない様にしなさい!」というのは無理な話だと思いますが、捻挫し難い対策をする事は可能なのです。
具体的に何をするかというと、足首を十分に緩めてあげます。足首を十分に緩めて可動域が広がれば、足首を捻ってもダメージを軽減する事が見込まれるのです。
私にとっては当たり前の事ですが、多くの場合バレリーナの受ける処置は、この方法とは違いテーピングなどで患部の動きを抑える保存療法で自然治癒を待つ方法です。
この方法も応急処置として何の間違いでもありません。しかしここにバレリーナの憂鬱があります。
つまりテーピングで足首の動きを制限すれば、痛みの出る頻度をコントロールできるのですが、足首を捻挫してしまう原因(体の使い方、バランスなど)を改善していないので、捻挫を繰り返して問題を長引かせてしまうリスクがあるのです。
ストレッチが効かない問題
フニャフニャに見えるバレリーナの体にストレッチは効かない?
簡単に説明すると、完璧にストレッチしたポジションでも全く刺激が伝わらないくらい筋肉繊維が長かったり、柔らかかったりすると長時間真面目にストレッチしても全く効かないということがバレリーナに多々起こります。
バレリーナの憂鬱は、これに気が付かず、誰も指摘してくれることもなく、長い期間効果の無いストレッチを続けて結果的に怪我に繋がったりする事です。
この様なコンディションの筋肉の場合どこに疲れが溜まるかというと筋肉繊維では無く腱の部分の確率が高いのです。
腱の部分は筋肉繊維では無くコネクティブティシューなので、そもそもストレッチの効果はあまり見込まれず、他の刺激方法が必要である事を理解する必要があります。
バレエの先生は、バレエの専門家であり体の専門家では無いので、各バレリーナに対して、ここまで詳細に問題追求される事は少ないのです。
結果として、足首の捻挫も根本的解決に至らずに、何となく痛みが和らいできたら練習復帰というパターンを繰り返して、最終的には「バレリーナは足首や膝腰が痛くて当たり前!」などと訳のわからない理屈で消化する様になります。
足首捻挫くらい大した事は無いのではと思われるかもしれませんが、この状況、考え方を長く続けるとどうなるかというと、表面的に問題を解決していても足首の古傷を抱えている事実は変わらないので、足首の古傷で動かせない動きを体の他の部分を使って誤魔化す動きが身についてしまうのです。
困った事に、上級のバレリーナは痛いところを誤魔化して踊るくらいのテクニックは持ち合わせています。そのうち本人も誤魔化した動きが普通になってしまうのです。
しかしバレエのセオリーに反した誤魔化した動きは、体に多くの負担をかけるので最終的に必ず大きな問題となって現れます。
私の個人的な意見としては、ストレッチ等の伸ばし系のアプローチを過信せずに、実際に自分で触って、動かしてコンディションを把握したりセルフマッサージで改善したりする絶対的な判断基準を持ってコンディショニングをしたり、自分のニュートラルポジションはどこなのか?関節はどの角度にどの位動くべきなのか理解するのが大切だと思います。
セルフコンディショニングのポイントは、関節周りの手入れを上手くする事です。
筋肉は基本的に関節の周りに付着しているので関節周りのコリコリした筋肉と骨の接合部である腱の緊張を緩めてあげれば、筋肉は自然に緩んでしまう事が多いからです。
関節周りのコリコリは、ポイントをしっかりと数分押さえる様な刺激が効果的です。
自分のニュートラルポジションを確認する
- 床の上に仰向けにリラックスして寝て両肩が床についているか?
- 背中全体が床についているか?(腰の辺りが床から浮いていないか?)
- 両足のポジションは左右均等か?(片方だけ内側や外側に倒れていないか?)
など、簡単な方法で自分のコンディションを定期的に観察して体の疲れや緊張を早く見つけるのも良いコンディションを維持する上でとても有効な方法です。
有効なセルフコンディショニングを身につけて、怪我なく楽しいバレエレッスンを!