AI・IoTのテクノロジー社会としてカナダが先進を担う!?カナダ各都市で巻き起こるテクノロジー革命に迫る|特集「カナダの社会ニュース・時事問題を深読み解説!」
トロントを始めとするカナダの各都市には、IT業界をリードする開発企業が多く存在しているのをご存知だろうか。カナダはAI(人工知能)開発に熱心に力を注いでおり、私たちの未来を創造するために研究開発にあたっている。次世代を創ろうと取り組むIT企業は続々とカナダに拠点を構え、世界中から専門家を誘致し研究開発にあたっている。それではAI技術の発展は私たちの社会に一体どの様な恩恵をもたらすのだろうか。各企業が取り組むテクノロジー改革から、カナダの次世代の姿を追った。
トロントで進む新都市構想とAI研究
トロントではスマートシティの構想が進んでいる。スマートシティとはネット回線の拡大・高速化、インフラ設備の向上、自動運転の車の導入や医療機械の改善等により生活の質を向上させる次世代都市の構想だ。Googleの親会社、Alphabet社の傘下であるサイドウォーク・ラボは、トロント東部のオンタリオ湖沿いにあるウォーターフロント地域にて「サイドウォーク・トロント プロジェクト」を遂行する。このプロジェクトは、エネルギー利用と環境問題、快適な住宅施設の構築、またそれらを利用する際の安価な価格実現といった、都市開発が直面している様々な問題解決に取り組みながら、都市開発と最新テクノロジーの融合を図り、環境に配慮した新しい形のコミュニティーを創るとする革新的な計画だ。このコミュニティーには住宅地だけでなく会社や事業のスタートアップといったビジネス、また学習施設なども含まれる。サイドウォークプロジェクトは3・25㎢を誇るウォーターフロントエリア全体の内、一角をキーサイト(波止場)と名付け、トロント近郊の新しい共同区域の実現を目指す。この計画は多様性が共存するコミュニティーの実装だけでなく、それを維持していくことも目標として掲げており、この開発が革新的な世界的なモデルの一つとなる事を狙いとしている。
具体的なこの地域の構想としては、住宅や商店街は新たな建築方法によってより手頃な価格で提供される。公共交通機関は人々にとっての利便性を第一に考え、自動運転技術の導入も併せて個人用車よりも信頼できるものとなる。地球環境のためにエネルギーや廃棄物の問題に取り組み革新を起こす。公共エリアでは一日中、一晩中でも人々の憩いの場として開放され、街中ではプライバシーを諦める事なくIT技術により安全が保証される、といったものだ。
サイドウォーク・ラボのCEOであるダン・ドクトロフ氏は、多様な文化を背景に持つトロントにおいて、人々が更に誇りを持つことの出来るような新たな街開発をしたいと語り、近代都市を定義した過去の3つの革新技術(蒸気機関車、電気グリッド、自動車の3つを指す)に匹敵する重要な改革にしたいとその意気込みを語っている。
世界の次世代回線を担う5G
4Gといえば日頃から私たちの生活に馴染みのあるネットワーク回線である。カナダではこの回線の次世代を担う5G回線を街に取り入れる構想がある。
トロントの中心地ではネット回線の拡大・高速化がテーマとして掲げられている。例えばロジャースセンターは毎晩試合の度、数千の人々が瞬間多発的にスマートフォンを利用する場だ。これはWi-Fiネットワークに大きな負担をもたらすのだが、ロジャースセンターではそのコンクリートの壁がネットワークを妨害する要因にもなっている。求められるのは高速で十分な容量のデータ通信域となるが、それを信頼性と共に提供することはこのスタジアムにとって大きな挑戦だ。そこで計画が進むのが5G回線だ。この回線は私たちの生活を劇的に変え、豊かさをもたらすとされる。車の自動走行もこれによって働く技術となっており、5Gはスマートシティを実現する上でも必要となってくる。
では5Gが実現することでトロントの街はどう変わるのだろうか。街を歩いている際にネット回線が途絶え不便を感じた経験は誰しもあると思うが、5Gは途切れのないネットワーク供給を可能にし、私たちをそういった苛立ちから解放する。また医療現場では、患者から取った医療データを時間差無く現場共有する事を可能にする。工場では遠隔操作機器の導入により自動化が更に推し進められ、公共交通機関はより正確な運航スケジュールのコントロールが可能になる。気になるのはこの未来都市の実現時期だが、5G回線は実現にむけ着々と投資は進められているものの、カナダでは実際に導入を始めるのを2020年頃としている。
助成金から分かるカナダのAI事業への取り組み
トロントに拠点を構えるベクター・インスティテュート(Vector Institute)は、カナダの主要なAI研究施設の一つだ。2017年3月に開設されたこの研究所にはオンタリオ州より5千万ドルが、更にカナダ連邦政府からも4千万ドルの助成金が提供された。
カナダ連邦政府は同年、「凡カナダAI戦略(Pan-Canadian Artificial intelligence strategy)」を発表している。これはカナダを世界的なAI改革の拠点として機能させることを目的とした政策で、ジャスティン・トルドー首相はこれに約1億ドルの予算を計上した。ベクター・インスティテュートはこの計画により発足された研究施設だ。ここにはディープラーニングの創設者で元トロント大学教授のジェフリー・ヒントン教授が就任。トロントの他にモントリオールとエドモントンにもAI開発のための研究施設を設立することを契約したこの戦略は、AI改革をリードする一人者として、この分野が未来のカナダを支える大きな産業となっていくことを予想させる。
カナダの各都市で進むAI開発の動き
IT改革の動きが進むのはトロントだけではない。モントリオールでは2017年9月、FacebookがAIラボを設立。FAIR(As part of Facebook AI Research)と呼ばれるこの研究施設は、他にもニューヨークやパリに拠点を構えているが、ここモントリオールでは特にディープラーニングと対話システムの研究に取り組む。
ディープラーニングとは十分なデータ容量さえ用意出来れば、人間が力を加える事がなくても、機械がデータの中から自動的に特徴を抽出し、学習をするプログラムのことを指す。2017年5月、AlphaGoというAIが囲碁にて世界トップの棋士である柯潔(中国)を破るという出来事があったが、このAIこそディープラーニングによるプログラムだ。モントリオールはこの分野の研究者が集まる拠点としても知られており、マギル大学やモントリオール大学など、学術機関でも研究が盛んに行われている。
この拠点にて開発が進む対話システム、「Deep Text」はディープラーニングを基盤にしている。この「テキスト理解エンジン」はSNS上にて、人間と同等の正確さで1秒辺り1000件の投稿の文脈を理解する事ができ、また20カ国語に対応するという。このAIはSNS上のスパムを排除するだけでなく、人々が使う言い回しやスラングをも日々学習していく。
FacebookはこういったAI技術開発のため、地域に700万ドルを投資し優秀な研究者と学生を集める予定だともしている。またモントリオールに拠点を構える企業はFacebookだけでなく、GoogleやMicrosoftといったIT大手企業もAI開発のため参入している。
またこの様な企業のコミュニティー開発はエドモントンでも見ることができ、ここではイギリスに拠点を置くDeepMind社が初めての国外研究施設を開設。アルバータ大学と提携しAI研究を進める。Google傘下であるこのDeepMindこそ、先ほども言及したAlphaGoを開発した企業でもある。こういった動きから、世界的に技術を持ち注目される企業がいかにカナダを拠点とし動いているのかがうかがえるだろう。カナダ各都市がAI開発の世界的拠点として、新たな技術の創造の地となっていくのはもはや夢ではない。
このようにカナダではAI改革に強く力を入れている。ディープラーニングを筆頭にAI開発は様々な面で私たちの生活を快適にし、スマートシティの構想は多様性の地であるカナダと融合し次世代コミュニティーの創造を先駆ける。そう遠くない未来、私たちの生活に劇的な変化がやってくる日は近いだろう。世界中で開発が進んでいる未来のIT技術。競争が激化するこの分野において、その第一人者として世界を率いるカナダのテクノロジー改革に今後も注目していきたい。