【これからの50年を形成するCANONの新しいテクノロジーとソリューション】CANON CANADA 50周年記念オープンハウス
11月2日、今年2023年が50周年となったキヤノンカナダ(本社:ブランプトン)にて企業関係者らを対象にしたオープンハウスが開かれ、キヤノンがこれからの50年を見据えてポートフォリオを拡充させる戦略において、満を持して市場に投入する新しいテクノロジーとソリューションが紹介された。
各セッションでは、倉庫・製造ソリューション、マネージドITサービス、ソフトウェア、商業イメージングソリューション、バーチャルミーティングソリューション、環境イノベーションなどの製品のデモンストレーションが対話形式で行われた。
CANONが誇るカメラ技術超高感度SPADカメラ
今回の展示会では30近い製品や事業披露され、300人以上の見学者が集まった。まず注目の製品が、世界初のカラー撮影用SPADセンサーを搭載した超高感度カメラ「MS-500」だ。闇夜でも数㎞先の被写体を映しだすことが出来るだけではなく、高性能のセンサーによって夜間でも昼と同じような映像・画像を映すことができる。例えばオープンハウスの説明の中に日本の渋谷のとある高層ビル屋上にいる人を昼間に撮影した映像と、夜間に同じところから撮影した映像を比較するものがあった。その解像度はほぼ同じに見え、しかもどちらも数㎞先から撮影されているのにまるで顔が見えるのではないかというほどの画質の美しさに頭を打たれたような衝撃を受けた。
実際にどのような場面で使われるかというと、例えば夜間の海で不審な船等が来ていないかの監視などに活用されているという。今回SPADカメラの技術を使った実演も見せていただき、海と船の模型を使っていかにSPADセンサーが高感度性能なのかを目の当たりにした。部屋の電気を消し真っ暗になった中、驚くことにSPADカメラは船の模型をあたかも光が差しこんでいるかのような鮮やかさで映し出した。船に何人乗っているか、何が積まれているかという詳細を把握することが容易に可能だ。米軍関係でも一部活用されているといい、監視の点で大きく役立つことは間違いないだろう。
リアルを追求VRの未来に大きな期待
SPADのようなキヤノンが強みとするカメラ技術を使った事業はいくつかあるが、それ以外で同社が力を入れているのがVR(仮想現実)だ。各VRコーナーでは専用の器具を装着し、実際に仮想現実の空間を体験することができた。
まずVR対応レンズの「EOS VRシステム」から見ていこう。この特殊レンズをカメラに付けると立体視180度のVR画像を撮影でき、専用ソフトウェアでVRに映し出す画像を編集できる優れものだ。旅行会社や不動産、トレーニングなどでの活用が期待され、例えばホテルのエントランスや部屋をこのレンズで撮影しておけば、旅行会社は顧客に旅行前からホテルの内観を見せることができる。客は180度自由に見渡せるVR内のホテル内観を見てから宿泊先を決めることができるので、非常に便利かつ実用性の高い製品だと感じた。
スポーツとの相性が良いVRとして、CANONのボリュメトリックビデオとVRを合わせた「フリービューポイント」はとても興味深い。
例えばサッカーやNBAの試合会場に100ものボリュメトリックビデオを設置して広範囲の映像を撮影して全て3Dデータ化し、即時に3D映像を生成することができる。選手たちの激しい動きや詳細までが正確に再現され、選手はまるでビデオゲームのキャラクターのようにVR内で描かれる。
実際に私がその仮想世界に入ってみると、NBAの試合会場の真ん中に自分がいるような感覚を得た。誰がどこにボールを投げたか、どこに走ったかまで詳細に記録されており、ボールと選手がまるで私にぶつかるのではないかという感じもリアルで、本当に目の前で試合が繰り広げられている感覚だ。
好きな視点から好きな選手を追いかけたり試合を一から見直したりすることが可能であり、今後は家庭で試合を擬似体験することができるようになるかもしれない。
個人的に最も惹かれたVR製品は、実写映像を仮想空間に映し出す「Kokomo」だ。実写の代わりにアバターを使うVRが多い中、Kokomoはリアルを追求している。お互いに顔、表情、服装など全身をVR内に映し出し、あたかも同じ空間で話しているかのような世界を作り出すことに成功している。
実際にVRの世界に入ってみると男性が現れ、男性の背丈や表情、動き全てがリアルで、本当に目の前に人が立っていて、私と同じ空間にいるかのような錯覚をした。近づけば触れるのではないかという気にさえなり、この技術は家族間や恋人間などで使用することにかなり需要があるのではないかと思う。カナダと日本でそれぞれ暮らす私と家族も、いつかこのVRを使ってお互いを〝身近に〟感じられる日が来るかもしれない。VRの未知なる可能性に大興奮の時間だった。
CESベスト・オブ・イノベーションを受賞
リモート側を取り残さないWEB会議ツール「AMLOS」
今回の展示会で目玉の1つだったのは、キヤノンUSAが開発したテレビ会議ソルーションソフトウェア「AMLOS」だ。これは全米家電協会(CTA)が世界的に優れた技術や製品を表彰する今年の「CESイノベーション」において、CANON初となる「ベスト・オブ・イノベーション」を受賞している。
この技術の驚くべき点は、1台のカメラを会議室に置くことで複数の視点の映像をリモート参加者に届けることができることだ。これまでのリモート参加者は決まった1点からしか会議を見ることができなかったのに対し、AMLOSは話をしている人、ホワイトボードなどのモノ、会議室全体といった視点をリモート側が見られるようにした。リモート参加者は画面をカスタマイズすることができ、自分が見たいものだけを映すことが可能だ。マイクロソフトの「Teams(チームズ)」で利用できる。
デモンストレーションでは、ソフトウェアにプレゼンターと認識された人が会議室内を移動すると、映像も一緒に移動。片手を横に広げると手の先にあるものをカメラが写真撮影し、リモート側はその写真を拡大して詳細を見ることができた。カメラに映るもの以外は見られなかった従来のオンライン会議とは全く違い、AMLOSを使えば会議室にいる人と同じものを見て、同じ視点で会議に出席できる点が素晴らしい点だ。リモート参加者が取り残されないよう工夫しているAMLOSに、素直に感動を覚えた。今はアメリカ内でのみ販売させているとのことだが、カナダや日本を含めさまざまな場所での活用が待ち遠しい。
食品保存に役立つ「シルク」
「こんな事業まで?!」と最も驚かされたのは、現在CANONバージニアが力を入れているシルクを使った事業だ。
本格的な生産は今年からという気になる事業の内容は、シルクの70%を構成するフィブロインというタンパク質を使って特別な液体を作り、この液体を例えば食品保存のために活用するというもの。フィブロインはもともと水に溶けないが、濃い塩水と混ぜると溶けるようになる。溶かすために使った塩を少しずつ抜き、残った水とフィブロインのみの液体を販売しているのだ。例えば果物の表面をこの液体でコーティングすると、長持ちする効果があることがわかっているという。
担当者によると、この液体自体は無味無臭で体に一切害はないとのこと。「現在は食品保存を目的とした企業に液体を卸している状況だが、他にもいろんな用途があると考えている。まずはこの液体を安定的に生産し、液体を使ってもらうようにしたい」と話した。
また、CANON CANADAの小林伊三夫社長は「商業ベースになっているが、おそらくキヤノンの事業だとは誰もご存知ないと思う事業。弊社には『共生』の理念があり、シルクの技術は食品などの保存を化学薬品を使わずに100%実現する」と、確かな自信を見せている。〝カメラの会社〟というイメージからはかけ離れた、キヤノンによる新しいチャレンジ事業である。食品保存以外にも今後どう展開されていくのか、非常に楽しみである。
新しいことに挑戦し続けるCANON
展示会ではこれらの他、企業のIT環境が安全かつスムーズかどうかをキヤノンのITチームが随時チェックしてサイバーセキュリティの面で企業を助けるITサービス、AI技術を使った商用お掃除ロボット「Whiz(ウィズ)」なども紹介されていた。また軌道上には地球観測用小型衛星があり、カメラの高度な技術によって高画質の衛生画像を撮影する事業もあるという。それらの説明を聞くと、キヤノンが新しいテクノロジーにも新しい分野にも積極的に挑戦し続けていることが伝わってきた。
「人間尊重」「技術優先」「進取の気性」といった企業DNAをもつキヤノン。これからの50年、100年といったさらなる発展に向けて、技術による差別化と社会に新しい提案をしていく姿勢が伝わるオープンハウスとなった。