【第一弾】海外大学進学のその先。カナダで築くキャリアパス|徳橋 巨樹さん ソフトウェアセールス ブリティッシュ・コロンビア大学(メカニカル・エンジニアリング)卒業
カナダで10年以上に渡り留学・教育カウンセリングを手掛けてきた海野芽瑠萌氏が「キャリアパス・キャリアアップ」に鋭く切り込むインタビュー企画。今回はブリティッシュ・コロンビア大学(UBC)で機械工学を専攻し、現在はトロント郊外でソフトウェアセールスを手掛ける徳橋巨樹さんの話を通して海外で働く理想と現実に迫ります。
- 名前…徳橋 巨樹さん
- 職業…ソフトウェアセールス
- 卒業校…ブリティッシュ・コロンビア大学(メカニカル・エンジニアリング)卒業
就職・年収を意識しエンジニアの道へ
海野: UBCではメカニカル・エンジニアリングを専攻されたとのことですが、もともと機械工学を学びたくてカナダの大学に出願したのですか?
徳橋: いえ、最初から目指していたわけではないです。僕は高校からカナダに来て、そのまま日本の大学受験はせず、カナダの大学進学を決めました。大学の専攻は、数学と物理が得意だったのでサイエンス系にしようかと漠然と考えていましたが、その時に仲が良かった友人に、「エンジニアの方が給料が高いぞ!一緒に行こう!」と誘われてその気になりました。
海野: とは言えUBCは誰でも入れる大学ではないですよね。こちらでは、入試ではなく高校の成績次第ですから。GPAなど当時の成績はどんな感じでしたか?
徳橋: 具体的な数字は覚えていないのですが、高校の時は結構真面目に勉強していました。数学、物理、生物、化学などの理数系はずっとわりと良くて、日本語を第二言語として、授業を受けることなくテストのみで単位取得ができたので、苦手だった英語も併せてアベレージ90%は取れていたんじゃないかと思います。
入試で勝負の日本と違って、カナダの大学は高校の成績が重要になります。また、成績だけではなく、課外活動やボランティア活動なども評価となります。コツコツと努力を続けることがとても重要なことと、徳橋さんのように早い段階で「自分はここが得意」と把握して、学部を絞ったのもよかったようですね。日本では、志望大学の中で第1希望は法学部、第2が文学部…とする方も多いですが、カナダの場合は、学部を絞ってから、複数の大学にアプライ(出願)する方も多いです。
大学時代は実務経験がない→就職難
海野: 大学に入学してからですが、カナダだと、サマージョブ、CO-OPなんかが就職にとても大事と言いますよね。徳橋さんは何かしていましたか?
徳橋: 実は何にもしてませんでした!ただ、1年生の頃から生徒会関係の活動に夢中で、3年生の頃には、UBCのEngineering Undergraduate Society(EUS)の会計に立候補して、選挙で選んでもらいました。もちろんUBCにもCO-OP制度はありますが、生徒会の仕事が楽しかったので、バイトもせず、そればかりしていましたね。
海野: CO-OPやインターンなど実務経験はなしとのことですが、就職活動は苦労したのでは?
徳橋: いや本当、反面教師にしてください(笑)。卒業後、専攻に合わせて漠然とメカニカル・エンジニアリングの設計などの求人に応募しましたが、やはり実務経験がある人が求められる技術系の業種の中、経験値が低く、インタビューでソフトスキル以外の経験をアピールできなかった自分はとても苦労しました。
CO-OPで会社に勤める以外にも、Student Teamと言ってエンジニア系の生徒が集まり制作活動を行っている部活のような活動もあるので、一緒に入った友人のように、初めからエンジニアを目指していて、機械設計がしたいなどの目標がある人は、入学当初から動いていましたね。今から過去に戻って、もし本気で機械系の仕事に就こうと思うのであれば、学生時代にそういう経験を積む選択をすると思いますが、大学生の時はそういう同級生たちに囲まれて、ちょっと自分は彼らとは目指す所が違うのかなぁ、と思っていました。
海野: 遡ってサイエンスに入っていればよかった、と思いますか?もしもう一度大学の専攻ができるとしたら違う学部を選びますか?
徳橋: 変えないですね。僕にとってはとてもいい経験だったと思います。将来やりたいことにもよるので、一概にベストとは言えないですが、理数系が得意で、設計や機械に興味があれば、エンジニアリングはおすすめです。がっつり設計だけが仕事ということはないですし、私のようにソフトスキルを武器にするような恰好で、つぶしもきくと思います。変えるとしたら、在学中に設計の経験を積んでエンジニアとしてちがう道を選ぶのは有りかもしれないですね。
カナダでは新卒の一括採用という考え方はないため、新卒であっても実務経験など、即仕事に繋げれらるような経験が非常に重視されます。徳橋さんも「反面教師に」と言っている通り、有名大学を出ていながら、卒業後もカフェやレストランでアルバイトを続けているという話は、実は珍しいことではありません。なんとなく、時期になれば就活をして、そのまま就職…というパスはないため、就職を考える場合は早め早めに動く必要がありそうです。一方で、決められた就職時期や年齢によるディスアドバンテージがほとんどないだけに、卒業後に旅行など見識を深める活動をしている人もいたり、再度学校に入り直す方も多くいます。どれが良い、というわけではなく、「自分が」どうしたいのかを大学でしっかり考える必要がありそうですね。
大学よりもカレッジ進学でチャンスを掴める方法
海野: 有名大学であるUBCの看板は就職において役立ったと思いますか?それとも、やっぱり実務経験なんでしょうか?
徳橋: 今、自分も採用に関わっているので、学生のレジュメを見る側に回りましたが、大学名はやっぱり少しは見ますね。カナダのエンジニアだったらウォータールー大学やトロント大学、UBCはやはり認知度があるので、それ以外、例えばカレッジ卒業だと少し見劣りするのは確かかもしれません。ただ、自分のやりたいことが具体的に決まっているなら、大学で時間をかけて総合的に学ぶよりもカレッジで専門的に短期間で学ぶのも全く問題ないと思います。技術分野に特化したカレッジなどで専門的な分野を学んでいるなら好感触の企業もたくさんあると思います。
海野: カレッジ生はレジュメ上見劣りしてしまうということですが、有利になるために在学中にしておくべきことはありますか?
徳橋: カレッジに行くなら、専攻やクラスを絞りCO-OPやインターン、ボランティアで経験値をあげて、専門性を極めたほうがいいと思います。ある特定の技術やスキルを求めている企業なら、自分の強みがないと差別化できなくて難しいと思いますが、おそらくスキルをアピールできれば中身で勝負できます。反対に、フォーカせずに広く学ぶなら、カレッジでディプロマを取るより大学でバチェラーを取った方が良い選択だと思います。
正直、職はあとから変えられるので、迷いがあってもとりあえず就職してしまうのもいいかもしれませんね。カレッジを出て、入れるところに入社してスキルアップを目指すのも有りです。カナダでは就職してしまえばこっちのものというか、経験を積んでスキルを獲得すれば、カレッジも大学も関係なくなってくるので、特定の仕事に就きたいならカレッジで専門性を獲得して、とりあえず職がほしいならあまり選ばずスタートしてみると良いと思います。
カナダの就職では、実務能力・即戦力が非常に重視されます。何を学んで来て、何ができるのか、ということが面接でしっかり話せるのは大きな強みになります。そして徳橋さんの言葉にもある通り、「まずはさっさと就職してしまう」という考えもとても大事です。数年修行したら、次の目指すポジションを探して転職、ということはカナダではとても一般的です。
LinkedInを充実させよう
海野: 徳橋さんは今の会社に新卒から勤めて今年が10年目なんですよね。とは言え、卒業後就職するのに2年ほどかかったそうですね。就職に至った経緯を教えてください。
徳橋: いま私は、製造業向けのソフトの開発、販売、導入、サポートを行う会社のセールスチームで働いています。元々はトロントのリクルーターから、カナダでエンジニアリングを学んで、さらに日本語が話せる人材を探しているということでLinkedInのプロフィールからメールをもらいました。
日本語が話せるというトピックでリサーチしてもらえたのは幸運でした。北米やヨーロッパの特にソフトウェア業界ではLinkedInはリクルートにも積極的に使われているので、プロフィールは作っておいて損はないと思います。
当時はバンクーバーのレストランで働いていたので、電話インタビューをしたのですがエンジニアとしては不採用でした。ただ、関連会社でソフトウェアのセールスの仕事があると言われ、そちらのポジションで採用に至りました。その後会社は成長し、僕の部署の人数も増えましたが、今も僕のチームでは、エンジニアの学部を出た上で、セールスができる人材をピンポイントで探しています。
海野: まさに徳橋さんの言うソフトスキルの方が評価される、ということですね。今は採用にも携わっているとのことですが、LinkedInやレジュメに入れるべきコンテンツは何が有効ですか?
徳橋: LinkedInには、趣味やボランティア等、アピールしたいことは全て載せて良いと思います。何が企業担当者が探している属性かはわかりませんから。ただ、自分から送るレジュメに関しては、応募企業によって変えたほうがいいですね。採用する側が重視するキーワードがあるので、応募のジョブディスクリプションを見て、その会社が求めているであろうキーワードを拾ってきたり、必要とされているスキルをアピールしたりというのは、面倒でもしたほうがいいと思います。マッチしているレジュメを見るとこちらも、「おっ」と思って目に留まりますし、会社や製品について調べるのも必要です。私たち採用側も今、どういう広告やジョブディスクリプションを出せば求める人材が応募してきてくれるのか日々考えているので、それを素に自分をアピールしないのは勿体無いなと思います。
コネ・ネットワークを最大限活用しよう
海野: 日本だとコネなどを使うことはズルいと思われる風潮がありますが、カナダではそんなことはないですよね。
徳橋: 紹介する側もリスクをとって人を繋げるので、紹介したいと思ってもらえる人材であることは大事です。最終的な判断は面接などで行われるのでコネだけで採用に至ることは少ないと思いますが、きっかけ作りとして、ネットワークは大事だと思います。
いわゆる求人サイトには出ない求人がカナダには多くあります。まず、「いい人いない?」と周りに聞いてみることから始まり、いい人がいればそのまま決まってしまうことも。ネットワーキングイベントはもちろんですが、趣味の集まりで会った方でも仕事を探していると伝えておくことで何かに繋がることがあります。ただ、紹介=「下駄を履かせてもらえる」わけではないことはしっかり認識しておいてください。スキルや適性がなければもちろんポジションは得られません。
海野: 次の目標はどんなことですか?
徳橋: 実は、去年から日本支社の開設と、日本へ再移住の話が出ているんです。私ももう勤続10年で、その間に会社は2倍ほどのサイズになったのですが、私が入った当初から社長は、「日本でも自社製品の需要があるはずだ!」ってずっと言い続けているんですよね。
社長自身、日本で働いた経験もあり、日本語もある程度話せる方なので、本人の日本贔屓もあるかもしれませんが(笑)。今は北米・ヨーロッパメインでやっているので、自分が中心となって、日本に子会社を設立してアジアのマーケット拡大に携わることが当面の目標です。
インタビューの中でも、セカンドチャンスを与えてくださった社長さんとの強い信頼関係を感じた徳橋さんのケース。就職の部分では少し足踏みをしてしまった徳橋さんですが、縁を信じて、バンクーバーからトロントへと飛んだことで新たな道が開けたようです。若いうちは、キャリアの成功を短期的な目線で見てしまいがちですし、同級生の活動を見て焦ることもあるでしょう。ただ、5年後、10年後には、最初に思っていたのと全然違うキャリア人生が開けるかもしれません。ぜひ参考にして頂けたらと思います。
日本では法学部で学び、日本の英会話や、小中学生の英語教育に関わる。2008年に渡加。現地留学エージェント、語学学校での経験を経て、現在はトロントにて、留学エージェント・教育コンサルティングの「Mynds Inc.」の経営を行い、グローバル人材の育成に取り組む。 2019年からは、トロントのビジネスサポート団体新企会の会長として、日系コミュニティーに貢献している。