【第13回】マリッジ·コントラクトで成功する国際結婚 |カナダの国際結婚・エキスパート弁護士に聞く弁護士の選び方
マリッジ·コントラクトとは、一般にプリナップと呼ばれる婚前契約で、離婚時の金銭問題から生じるストレスを軽減することを目的としています。
TORJA誌上でも、幾度となくマリッジ·コントラクトについて紹介してきましたが、今回はそのおさらいと新たな側面についてのお話です。
マリッジ·コントラクトには何を書くの?
離婚する夫婦が、解決しなければならないことに「子供のこと」と「お金のこと」があります。この内、マリッジ・コントラクトが役立つのは「お金のこと」だけです。
マリッジ・コントラクトで「子供のこと」について決めたとしても、法的執行力はありません。「子供に関することをあらかじめ決めておくことは、子供の人権を侵害することになる」というのがその理由です。つまり「離婚したら母親は子供を連れて日本に帰る」という取り決めは無効です。
さて、「お金のこと」には、大きく分けて「財産」と「サポート・ペイメント(離婚後の金銭援助)」があります。「財産」については、マリッジ・コントラクトでこまかく決めておくことができますが、あまりにも家族法からかけ離れた内容に同意されていた場合、同意までの過程が疑問視されます。
たとえば「法的配偶者としての財産に関する権利は一切主張しない」という決め事は、離婚時の夫婦間の経済力に大きな差がある場合には覆されてしまいます。
「サポート・ペイメント」には、「養育費」と「配偶者サポート」がありますが、「養育費」は「子供のこと」ですので、たとえ同意されていたとしても無効です。また「配偶者サポート」は、先の「財産」と同じ理由からマリッジ・コントラクトがその効力を発揮できない場合があります。
たとえば「離婚時にはそれぞれが経済的に自立すること」を決めたとしても、配偶者の一方が仕事をやめて育児に専念したなどの状況から、マリッジ・コントラクトの内容と異なる裁判所命令が下されることは稀ではありません。
マリッジ·コントラクトに弁護士は必要?
マリッジ・コントラクトに法的効力を発揮させるには、「契約を取り交わした時点で双方が内容を十分把握できる能力があったかどうか」が問われます。また「収入や財産についての完全開示」がなければ、そのマリッジ・コントラクトは効力を失います。
つまり、国際結婚で「英語の内容はよく分からなかったけれど言われるままにサインした」という場合、そのマリッジ·コントラクトの有効性が問われることになるのです。これでは 「離婚時の金銭ストレスを軽減する」という本来の目的が果たせなくなってしまいます。そのため法的効力を有するマリッジ·コントラクトの作成には、次の二点が必須となります。
- インディペンデント·リーガル·アドバイス(ILA)サーティフィケートと呼ばれる「双方が別々の弁護士を雇用し十分内容を理解した上で同意したとする証明」
- フイナンシャル·ステートメントと呼ばれる完全経済開示
マリッジ·コントラクトは国際結婚成功の鍵?
結婚相手の職業や収入は、将来設計のために欠かせない情報です。マリッジ・コントラクトを作成することは、ふたりの将来にじっくり向き合う絶好の機会です。恋愛期間に話題にしにくい「お金の話」をオープンにすることで互いの信頼が深まることにもつながるでしょう
日本人には馴染みの薄いマリッジ・コントラクトですが、カナダでは、車を運転する前に保険に加入するのと同じだと考えられているようです。事故を前提に運転する人がいないように、離婚を前提に結婚する人もいないでしょう。しかし、万一のための備えは、自分の将来に対する責任なのかも知れません。
国際結婚を始めとする家族の問題は、家族法を専門とする2名のエキスパート認定弁護士と日本人有資格者(オンタリオ州公認パラリーガル)が在籍するネイソンズ・シーゲル弁護士事務所にお任せください。
ケン・ネイソンズ: B.C.L, LL.B, LL.M(Family Law)
日本人の国際離婚を多く手掛ける。ていねいに話を聞く姿勢は 移住者女性に好評。ネイソンズ・シーガルLLP設立パートナー。趣味はモデルカー収集。
野口洋美: B.A. M.A.
ヨーク大学で国際離婚とハーグ条約に関する研究に携わる。国際結婚に関する執筆多数。ネイソンズ・シーガルLLP所属。趣味は日本語ドラマ鑑賞。