北米初の歴史をもつ「Doors Open Toronto 2023」完全攻略ガイド|春のイベント特集「五感を刺激できる場所、トロント。」
2023. 5.27-28
今年のテーマは「トロントの音」
毎日の通勤・通学で通り過ぎるかもしれない歴史的建造物や全く気づいていない穴場まで、色々なトロントを体験できるDoors Openという巨大イベント。5月27日と28日に開催されるトロント版のラインナップは5月3日、このTORJA5月号が読者の皆さんへ届く頃市庁舎のウェブサイトで発表される。
今回TORJAはCity of TorontoとOntario Heritage TrustのDoors Open担当者との特別インタビューを交えて、一足先に定番スポットや今年初めて参加するスポット、そしてまだ10月まで州の各地で開かれるDoors Open Ontarioの魅力を紹介していきたいと思う。
トロント市ホームページ
https://www.toronto.ca/explore-enjoy/festivals-events/doors-open-toronto/
Q. Doors Openとは?
毎年5月の終わりになるとトロントでは天気が良くなり野外イベントが増え出す時期。その中でも一番大きなイベントがDoors Openだ。このイベントでは文化、歴史、建築、社会に触れられる名所が無料で一般公開される。ローカルで身近な場所から足を伸ばした先で気軽に新しい発見ができることが醍醐味だ。もちろんSNS映えするスポットも盛りだくさん。トロントだけでも150ヶ所以上が参加する。
イベントはIn-Person(実際に開催場所に入って体験できるスポット)とDigital(オンラインで観覧可能なスポット)2種類のラインアップがある。2020年から始まったDigital Doors Openでは動画、バーチャルツアー、オンラインアクティビティなどが配信される。ウェブサイトでは過去のコンテンツも一年中見られるのが楽しい。
Q. Doors Openはどうやって始まった?
このイベントは元々フランスで1984年に開催されたDoors Openプログラムからインスパイアされたもの。ヨーロッパでは1990年のスコットランド・グラスゴーに続き48カ国で毎年9月に祝われるEuropean Heritage Monthのメインイベントとなっている。
トロントでは2000年に企画が始まり、北米Doors Open最初の都市となった。その成功後、2002年にはOntario Heritage Foundation(現Ontario Heritage Trust)がDoors Open Ontarioを開催した。
今ではオンタリオ州だけでなくニューヨークやデンバー、ウィスコンシンなど北米の各地でも行われており、海を越えたオーストラリアも加入するほど大きなムーブメントになっている。
Kristine Williamson氏(City of Toronto – Doors Open Toronto担当者)に聞く、
Doors Open Toronto 2023 攻略法
Q. Doors Openは世界各国で開催されていますが、トロントは何が特別ですか?
世界中の開催地で毎年テーマを決めて行っているのはトロントだけです。今年のテーマは「トロントの音」。街のサウンドスケープ(音風景)や音によってもたらされる特別な体験が焦点です。例えば電車やストリートかーの乗り降りの際に聞こえるチャイムは代表的なトロントの「音」。テーマはアニバーサリー・イヤーのものが多いですね。最近で一番大きく取り上げたのは2017年、カナダ建国150周年のときでした。そのほかにはトロントの映画業界をフィーチャーしましたし、去年の「リニューアル」のテーマはパンデミック後生まれ変わるトロントでした。個人がまた街を自由に出かけられることで新しくなる好奇心だけでなく、それによって市全体が市民との関係を築き直す、その機会にフォーカスしました。私たち市庁舎の文化イベントチームは毎年Doors Open開催直後に来年度の準備に取り掛かるので、テーマは一年中考えています!
Q. 参加スポットはどのように選ばれるのですか?
一般応募の受付は一応毎年春頃まで行っていますが、選考プロセスは毎年9月ごろに始まります。優先される場所を言うと、普段公開されていないところ、イベント期間中に2日間無料で入場可能なこと。建築がトロントやローカル地域の歴史に大きく貢献したこと、または設計がイノベーティブ、エコである、など。節目の年を迎える団体・物・人などがあればそれも重視されます。
Q. 今年の見どころは何ですか?個人的にお気に入りの場所もあれば知りたいです。
コロナ禍はずっとバーチャルツアーのみで参加していたスポットが再オープンすることが今年の見どころです。例えば2019年以来初めて公開される「Toronto-Dominion Centre(TD Centre)」の54階にあるエグゼクティブ・オフィスや、「ビリー・ビショップ空港」の裏方ツアー。そして今年は本当にたくさんの建築事務所が参加されるので、興味深いです。
「Textile Museum of Canada」「Second City」「Hot Doc Theatre」など今年初参加のスポットもたくさん。個人的には黒人俳優が集う劇場、「It’s OK* Studio」でのミュージカル・パフォーマンスが楽しみです。あと、「JUNO Awards Office」(カナダ版グラミー賞の事務所スペース)も初めて一般公開されるので期待しています。楽譜やLPレコードのコレクションを見ることができるそうですよ。もちろん「Elgin and Winter Garden Theatre Centre」のように毎年人気の場所もあります。近所に住んでいても中には一度も入ったことがない、そういうところを楽しめるのがこのイベントです。
Q. 2000年から毎年開催されて、今年でもう23年目ですね。これからこのイベントはどのように進化していくと思いますか?目標などはありますか?
このイベントに対して特に具体的な目標や5年プランのようなものはありません。なぜかというと、Doors Openはトロントとともに進化していくと考えているからです。トロントは個性的な界隈の集まりで、それら一つ一つがDoors Openで反映されてきました。これからも市全体の成長とともに進化していきたいと願っています。Doors Openで特に大事にしていることが2つあります。1つは完全に無料であること。2つ目はアクセシブル(アクセスしやすい、利用しやすい)であること。古い建築物などエレベーターがない参加スポットも仕方なく存在しますし、人気のために長い行列ができてしまう場所もあります。そのようなチャレンジにできるだけ配慮した上、子供を含むあらゆる年齢層の人たちや障がいのある人たちのために楽しめるようにしています。強いて目標を挙げるとこのチャレンジと向き合う続けることだと思います。
Q. アクセスのしやすさの話をもう少し聞きたいのですが、イベントは2日間のみで150もの参加会場がありますが、たくさん観たい人にアドバイスはありますか?
「Aga Khan Museum」や「R.C. Harris Water Treatment Plant」のように毎年大人気のスポットは開館時間前に着いておくことをお勧めします。参加会場によっては開館時間も異なるので事前にチェックしておくと良いでしょう。トロントに残っている建物の中で最古と言われている「Scadding Cabin」や「TD Centre」の54階にあるエグゼクティブ・オフィスは面積が狭い、またはエレベーターを使うため列に並ぶ可能性が高いです。車椅子やベビーカーなどをご利用の際、Doors Openのウェブサイトで各会場のアクセシビリティを調べられます。情報は全てオンラインですが、「Nathan Phillips Square」では紙の地図も配布されるので、そこから歩き始める人も少なくありません。もちろんスケジュールを徹底して行動するのも楽しみ方の1つですが、ノープランでその日の雰囲気や成り行きに任せるのも楽しいかと思います。特に子供連れの方は子供がぐずっても全て無料なので気兼ねなく出入りができます。イベント中に撮った写真をSNSにアップする際は、是非#DOT2023のハッシュタグをつけてシェアしてくださいね!
David Leonard氏(Ontario Heritage Trust – Community Programs Officer)が語る
Doors Open Ontarioの魅力と影響力
Q.まずはOntario Heritage Trustについて聞きたいです。どんな団体か教えていただけますか?そして、Doors Openとの提携の目標も知りたいです。
私たちは州の遺産である建築物や自然を守り、次の世代に継承していくことを目標にしています。団体が建築物などを購入する場合や所有者から寄付されることもありますが、それはほんのわずか。ほとんどの場合、自治体や非営利団体や企業が所有する遺産を彼らと提携して運営に関わっています。そのほかDoors Openなどの自治体イベントと手を組むことで今まで訪れたことがなかった人が興味を示したり、建築物を新しく活用する方法が生まれたり、遺産にさらなる価値を与えるお手伝いをしています。Doors Openは無料で歴史遺産や文化遺産にを散歩がてらに楽しむことができます。普段では入場料を払わないといけない、近寄り難い、予約制、など色々なハードルがある場所でも、イベント期間中は写真を撮るだけでも入場OK。気軽に入れます。このおかげで私たちがサポートしている遺産に新しい命が吹き込まれるような気がします。
Q.トロント版とオンタリオ版のDoors Openがありますが、その中でも特に来場数が多いスポットはありますか?
「Elgin and Winter Garden Theatre Centre」は特に人気があります。昨年は5時間の開場時間のあいだになんと6千人も訪れました。トロントという大きな街のど真ん中にあることも関係しているかも知れませんが、おとぎの国のような自然あふれる「Winter Garden」と宮殿のような「Elgin Theatre」両方が訪れる人々を街の喧騒から救ってくれるのだと思います。トロント以外であれば、今年は残念ながら参加リストに入っていないのですが、オンタリオ東南部トレントンにある「Research Casting International」がおすすめです。そこでは恐竜や動物の化石の型をとってレプリカを作っています。世界中の博物館などで展示されるため正確さと頑丈さが求められる仕事をしている職人さんがたくさんいます。裏方というにはもったいない、素晴らしい貢献をしている会社の見学ができます。
Q.デイビッドさんが一番好きな場所はありますか?
ナイアガラに古い水力発電所があって、そこはもう15年ものあいだ閉鎖されていたんです。ですが2019年にOntario Heritage Trustと提携しDoors Open Ontarioのためだけに限定的にオープンしたのです。すると長い間閉鎖されていたにもかかわらずたくさんの人が来場しました。そのおかげで発電所のオーナーはその建物に関わるコミュニティーや歴史に可能性を感じ、発電所を博物館にすることを決めたのです。2021年7月、「Niagara Parks Power Station」は観光名所として新しいスタートを切りました。私はあの発電所の雰囲気がすごく好きですし、Doors Openが彼らにとってイベント期間だけでなく長期的な利益を見つけられる機会になったことは素敵だと思います。
Q.オンタリオ州にはたくさん「Historic Home Museum」が存在します。日本ではまだ欧米のように歴史的価値がある邸宅を博物館にするという動きは浸透しておらず、もし重要文化財として扱われていても建物物の保存が重視されていて、歴史調査はまだ力が足りていないそうです。オンタリオ州にあるホームミュージアムの魅力は何ですか?
各ホームミュージアムとそのコミュニティーとの関係性にもよりますが、このような博物館の形は20世紀にローカル・コミュニティーの歴史やアーカイブを共有するために始まりました。デザインだけに留まらず、その邸宅のメンテナンスをする人たちや地元愛あふれるボランティアの方たちがホームミュージアムを支えています。最近のオンタリオでは白人視点の歴史から離れ、今まで静められていた黒人や先住民の声を主張することが博物館や美術館の大きなミッションになっています。そのおかげで実際に歴史を学び直したいという理由で観光客も増えていますし、新しい客がふれあいに来ることで州やローカル・コミュニティーの歴史を豊かにしている。このようなつながりを作ることがOntario Heritage Trustの団体としての責任だと使命感を持って仕事をしています。これまで同じだった景色が新しいレンズを通して見られるこの時代は可能性に溢れていると思います。
ぜひ訪れたい!Ontario Heritage Trust所有
Doors Open Toronto 2023 参加スポット
2023年Doors Open初参加
George Brown House
186 Beverly St
公開日 5/27,5/28
ジョージ・ブラウンというとカレッジの名前を連想する人が多いのでは?ブラウンはカナダの建国の父の一人で政治家、そしてThe Globe (現Globe and Mail)の創業者だった。彼の邸宅が今ではハウスミュージアムとして残されている。設計に取り入れられたセカンド・エンパイア(第二帝国)と呼ばれる建築様式はフランスの建築要素を取り入れたもので「ナポレオン3世スタイル」というあだ名がある。ジョージ・ブラウン・ハウスはオンタリオ州にあるセカンド・エンパイア様式の建築物のなかで保存状態が一番良いことで有名。このスポットは今年Doors Open初参加。
世界で最後の2階建て劇場
Elgin and Winter Garden Theatre Centre
189 Yonge St
公開日 5/27
1913年に建てられたこの劇場は世界で営業している最後の二階建て劇場。Elgin Theatreは金箔で覆われる豪華な内装。それと対照的にWinter Gardenは屋内にも関わらずまるで庭園のように本物の木々が出迎えてくれるファンタジーあふれるスペースだ。ヴォードヴィル(17世紀末にパリで流行った演劇形式)のショーや国際映画祭の上映場所、または映画撮影ロケ地として使われたことがある。
トロントに残っている最古の学校
Enoch Turner Schoolhouse
106 Trinity St
公開日 5/28
エノック・ターナーは1848年にトロント初となる学費無料の学校を建設した醸造家。生徒はCorktownで働いている親を持つ子供で、10年以上も無償で教育を受けさせた。今でも残っているこの校舎はトロントに残っている最古の学校で、オンタリオ州における教育の歴史を学べる博物館として活用されている。
プチ旅行にピッタリDoors Open Ontario In-Person イベント
参加地域&スケジュール
- Hamilton (5/6 & 5/7)
- Oshawa (5/6)
- Richmond Hill (5/13)
- Whitchurch Stouffville (6/3)
- Burlington (8/12)
- Simcoe Country (8/26 & 8/27)
- Belleville (9/9)
- St. Marys (9/23)
- Woodstock (9/23)
- Niagara-on-the-Lake (10/21)
- Dutton Dunwich (10/22)
これは見ておきたい!
Doors Open Toronto 定番スポット
注意点:場所によっては5月27日と28日のどちらかしか開いていないところもある。開館時間も異なるのでスケジュールをチェックしてから予定を立てるのがおすすめ!
近代建築の巨匠ドイツ人建築家ミース・ファン・デル・ローエ氏が設計
Toronto-Dominion Centre(TD Centre)
66 Wellington St W
TD Centreとして知られるToronto-Dominion Centreはダウンタウンにある6つのタワーとパビリオンの集まり。Toronto-Dominion Bankだけでなく数々の企業がオフィスを構えている。このビルの集まりで働く人の数はなんと2万1千人。ランチタイムにはオフィスカジュアルな服装の人たちで賑わうエリアだ。タワーは近代建築の巨匠と言われるドイツ人建築家ミース・ファン・デル・ローエ氏が設計し、1967年から1991年にかけて建てられた。ブロンズ色のガラスと黒色塗装の鉄壁で出来ている。このデザインは彼が手がけたニューヨークのSeagram Buildingにそっくりだ。ミニマリストで、なおかつ頑丈な高層ビルを実現させた功績は北米の建築史を大きく変えたことで知られている。建築ファンなら是非チェックしたいスポットだ。
カナダ人建築家 エバーハード・ジードラー氏がデザイン
Meridian Arts Centre
5040 Yonge St, North York
1993年にオープンしたこのパフォーミングアーツセンターはカナダ人建築家エバーハード・ジードラー氏によってデザインされた。ミュージカルや演劇、演奏会など幅広く活用されている。
センター内には3つの劇場がある。世界各国で音響設計家として活躍したラッセル・ジョンソン氏がデザインしたGeorge Weston Recital Hallは外部の音をほぼ完璧にシャットアウトすることで有名。
演劇の舞台としてよく使われるLyric Theatreはユニークなアコースティック・パネルと言われる光る壁のデザインがおしゃれ。そしてGreenwin Theatreは建物の歴史で一番古くから残っているステージが活用されている。
北米初のイスラム教文化と芸術について学べる博物館
Aga Khan Museum & Ismaili Centre
77 Wynford Dr, North York
アガ・カーン博物館は2014年にオープンした北米初のイスラム教文化と芸術について学べる博物館。創設者のアガ・カーン(カリム・アーガー・ハーン4世)はシーア派イスラム教のイスマーイール派を率いるイマーム(指導者)で実業家でもある。博物館では彼のプライベート・コレクションの絵画、陶器、書物などをメインに展示している。設計を担当したのはプリツカー賞受賞者である世界的に有名な日本人建築家の槇文彦。日本では幕張メッセ、東京体育館、テレビ朝日本社など数々の作品を手掛けている。アガ・カーン博物館のデザインは青空に映える真っ白なデザイン。祈りの場所やイスラム教について学べるプログラムが開催される向かいのIsmaili Centreのデザインはインド人建築家のチャールズ・コレア氏が担当し、トロントの日系建築事務所Moriyama & Teshima Architectsが監修した。どちらも神聖な雰囲気に溢れており、敷地内で結婚式を挙げるカップルも多い。
土木工学の技術を称えるカナダの歴史的建造物のひとつ
R.C. Harris Water Treatment Plant
2701 Queen St E, Scarborough
Queen Stのストリートカー501 Neville Park行きを終点で降りると目の前にあるのがトロント最大の浄水場。1930年代に建設工事が始まり1941年に利用が始まった。1日に9億5千万リットルもの水を処理している。土木工学の技術を称える国の歴史的建造物のひとつだ。アールデコ調の建築デザインで有名で、「Palace of Purification」というニックネームもついているほど。直訳すれば「浄化の城」だが、日本人の視点からすると「水」や「浄化」というキーワードが続けば「清めのパワースポット」とでも考えられるのでは!? Doors Open Toronto開催中は中の様子が見学できる。天気が良ければその足ですぐそばにあるビーチを散歩するのもいいかもしれない。
The Great Libraryには幽霊が出る!?怪奇現象好きは要チェック
Osgood Hall
130 Queen St W
政治家のウィリアム・ワレン・ボールドウィン氏と建築家のジョン・エワート氏が設計したこの建物は裁判所として使われるために1829年に建てられた。何回もの増築を繰り返したのち、トロント初のロースクール、オスグッド・ロースクールが建物の一角に開校した。この学校は今ではヨーク大学キール・キャンパスに場所を移している。鉄のゲートに囲まれているオスグッド・ホールは近寄り難いイメージもあるかもしれないが、Doors Openのイベント中や夏の間にはツアーも行われる。コロナを理由に中には気軽に入れないが、オンラインで裁判を傍聴することもできる。ハリーポッターの世界のようなConvocation Hallは以前レストランとして市民に愛されていた。The Great Libraryには幽霊が出るという噂もあり、怪奇現象好きな人は要チェック。
トロント大学・建築デザイン科の拠点
Daniels Building
1 Spadina Crescent
Spadina Station行きのストリートカーに乗ったことがある人なら必ずは見たことがあるダニエルズ・ビルディング。2018年にトロント大学に加わったまだ新しいビルだ。歴史あるデザインとモダンな造りを融合させた設計は建築デザイン科の拠点にふさわしい。これまでに紹介した定番スポットからわかることといえば、トロントは建築の歴史とデザインバラエティが豊かだということ。Doors Openではこれからトロントや世界中の建築を支えていく未来の巨匠を育成している学科を覗くことができる。将来どんな建物が建てられるのか想像が膨らむ体験ができるだろう。
政治家ウィリアム・ワレン・ボールドウィン氏の豪邸跡地にそびえ立つDominion Bank創業者のジェームス・オースティンの豪邸
Spadina Museum
285 Spadina Rd
Spadinaという名前は先住民族のオジブワ族の言葉「Ishpadinaa(Espadinong)という表記もあり)」からとったもので、「丘」という意味。この名がついたエリアに初めて豪邸を建てたのは政治家のウィリアム・ワレン・ボールドウィン氏だった。彼は医学、経営学、法学、建築学などにも優れていて、あのOsgood Hallの設計もした。
しかし彼の豪邸は1835年に火事で焼失。その後1866年に敷地を買い取り、3代にわたり守り抜いたのがDominion Bank創業者のジェームス・オースティン氏だった。オースティン一家は大きな敷地に農作物を植えたり植物園を作ったりして楽しんだ。
今では市が家を博物館として維持しているが、一家のガーデニングを楽しむ心は今でも受け継がれている。当時ではめずらしかったガス灯、電気、セントラルヒーティングや電話などは豪邸ならでは。Campbell House MuseumやGeorge Brown Houseなど博物館になっている大邸宅がいくつかラインナップに入っているので、合わせて巡ってみるのはいかが?
27階にある展望台や市長のオフィスを観覧できる
Toronto City Hall
100 Queen St W
1965年にオープンした市庁舎。この新しい市庁舎のデザインに応募しようとトロントの建築事務所3件が案件を持ち寄ったが市の役員に却下された。
結局国際デザインコンペでフィンランド人建築家ヴィルヨ・レヴェル氏のデザインが選ばれたが、近代建築の3大巨匠のひとり、アメリカ人建築家のフランク・ロイド・ライト氏は「墓地のようだ。将来振り返ったとき、これが建てられたからトロントは終わったんだ、と幻滅するだろう」と激辛コメントを発信。
レヴェルの未来的なデザインはライト自身がデザインしたギリシャ正教教会やグッゲンハイム美術館に似ているので何をそこまで嫌ったのか理解しづらいが、いずれにせよ今ではトロントのシンボルとなっている。
Doors Openでは27階にある展望台や市長のオフィスを観覧できる。今年、不倫発覚後に辞職をした市長の部屋を覗きたい人はいるかどうかは微妙なところだが、見る機会があれば面白い話のネタになるかも知れない。
トロント大学の有名な図書館
Thomas Fisher Rare Book Library
120 St George St
トロント大学には打放しコンクリートが目立つブルータリズム建築で有名なJohn P. Robarts Research Library(通称Robarts Library)が存在する。その中にもうひとつThomas Fisher Rare Book Libraryという図書館があり、名前の通り珍しい書物や古い書物が保管されている。その映画のような雰囲気はトロントの中でも特に写真映えするスポットとして大人気。読書好きでなくても魅了されること間違いなし!
ステンドグラスとパイプが5千本もある巨大オルガン必見
St. James Cathedral
65 Church St
セント・ジェームス教会はトロント最古の教会会衆組織。1853年に完成した教会の尖塔はカナダで最も高く、北米では2番目に高い。見所はステンドグラスとパイプが5千本もある巨大オルガン。鐘は12個あり、こんなにも数の多い構造は北米で唯一なのだとか。教会とオフィススペースは映画やテレビの撮影ロケ地としても使われることが多い。
「Queen’s Park」の名称でおなじみの州議事堂
Legislative Assembly of Ontario
111 Wellesley St W
一見左右対象に見えるが、実はそうでないオンタリオ州議事堂。訪れるとロマネスク様式のデザインの特徴である石造りの分厚い壁と半円アーチが迎えてくれる。ニュースなどでは州議事堂という名前の代わりにそのエリアの名称「Queen’s Park」が使われることが多い。Queen’s Parkができたのは1860年だが、州議事堂はそのもっと先の1893年4月だった。当時シャンデリアはガスと電気で灯されていた。近代化する街に合わせて音声マイクやウェブ・ストリーミングの技術などが足されていった。中を見学する際は空港で行われる検査と同じ持ち物検査があるので注意しておきたい。
カナダの国立史跡
St. Lawrence Hall
157 King St E
St. Lawrence HallはKing St East とJarvis Stの交差点にあるミーティングホール。現在一階の店舗スペースにはRBCの支店が入っている。1850年に造られたこの建物はジョージ・ブラウン氏など政治家がスピーチをする集会スペースで、そのほかにはコンサート、展示会などが行われていた。1000席もある劇場スペースがあることで有名だった。20世紀にはトロントにたくさん同じような劇場や集会場所が作られたため使われなくなったが、今ではカナダの国立史跡として守られている。結婚式、カンファレンス、アートショーなどに使われているメインホールはまるでヨーロッパにいるような気分に浸れる優雅な場所。
カナダを代表する日系カナダ人建築家事務所
Moriyama & Teshima Architects
117 George St
カナダで著名な日系カナダ人建築家といえばレイモンド・モリヤマ氏とテッド・テシマ氏。この二人が1970年に提携しトロントに設立したのがMoriyama & Teshima Architectsという建築事務所だ。Toronto Reference Library、Ontario Science Centre、Bata Shoe Museumなどカナダで愛される建築デザインをたくさん設計してきた。
ザ・ローリング・ストーンズが二夜連続シークレット・ライブを行った
El Mocambo
464 Spadina Ave
1977年にザ・ローリング・ストーンズが二夜連続シークレット・ライブを行ったことで有名なEl Mocambo。この時の音源が去年5月に45年の月日を経て初めて発売されたことで話題になった。ストーンズだけでなく、このクラブではジミ・ヘンドリックス、ラモーンズ、ルー・リード、ブロンディなど超有名なミュージシャンが大勢演奏してきた。1946年にオープンしたが、建物自体は1850年ごろから存在していたそう。奴隷だった黒人たちの逃げ場になっていたという歴史がある。
1920年に建てられたイベント会場
The Parkdale Hall
1605 Queen St W #2
The Parkdale Hall(またはThe Parkdale Theatre)は1920年に 映画劇場オーナーのジェイ・アレン氏とジュール・アレン氏によって建てられたイベント会場。シアターのデザインはデトロイトの映画劇場の設計を専門にしていた有名な建築家C. ハワード・クレーン氏が手がけた。当時Parkdale界隈は音楽コンサートや演劇が栄えたエリアだったが、テレビが普及したあと客が激減しThe Parkdale Hallは1970年に閉館した。最近では毎週日曜日にアンティーク・マーケットが開催されている。
カナダ初のバイオガス発電所
ZooShare Biogas Plant
1749A Meadowvale Rd, Scarborough
トロント動物園に隣接するこの発電所はカナダ初のバイオガス発電所だ。カナダだけでなく世界中で問題になっている食品ロス問題。腐った食品ゴミは二酸化酸素より25倍環境に悪いメタンガスを発生させている。ZooShareでは破棄された食品だけでなくトロント動物園で集められた動物のフンをコンポストし、そのバイオガスで再生可能エネルギーを作っている。Doors Openというと建築や芸術フォーカスだが、理系かつ珍しいトロントも知りたいという方におすすめのスポットだ。
Doors Openで日本再発見!
日本ならではの「音」に注目
国際交流基金トロント日本文化センター
2 Bloor St E, Suite 300
毎年Doors Openに参加している国際交流基金トロント日本文化センター。昨年はテーマ”RENEWAL”に合わせ、パンデミックを乗り越えて変化してきたセンターの姿を多くの人に示す良い機会となった。感染症対策を行いながらも、2日で500名ほどの来住者が訪れたという。
今年はテーマである“City of Sound”にあわせ、日本ならではの「音」に注目したスタンプラリーや、フォトブース、サウンドスケープ(音風景)体験エリア、短編アニメの上映等、家族で楽しめる企画を用意しているという。この機会に、日本にまつわる様々な「音」に触れてみよう!
ギャラリーでは『動きの感覚: 日本のスポーツ・ポスター展』も同時開催している(特集ページ参照)。なお、同期間中は開館時間を10時半から16時半まで延長しているので、気軽に足を運ぼう。
POP JAPAN開催!
トロントといえばトロント国際映画祭(TIFF)
TIFF Bell Lightbox
350 King St W
トロントといえばトロント国際映画祭(TIFF)。創業者で映画プロデューサーのビル・マーシャルとヘンク・ファン・デル・コルクはこの街を映画の都にしたいと考えていたが時は1970年代、ヒット映画といえばアメリカ映画ばかり。それなら「世界中から生まれた名作をカナダで上映し、ついでにローカルの作品も見てもらおう」と考えたのがTIFFだった。昨年のDoors Openでは予約制でしか開いていないアーカイブ・ライブラリーのツアーもあった。今年の詳細はウェブサイトを要チェック。
そしてTIFFでは5月10日から6月27日にかけてPOP Japanという日本映画上映祭が開かれる。フィーチャーされる監督は宮崎駿と鈴木清順、そして『AKIRA』、『パプリカ』、『メトロポリス』などたくさんの有名なアニメ映画が上映される。POP Japan開催と重なる5月9日から7月4日、TIFF Bell Lightbox atriumでは日本人芸術家のMitsuo Kimura氏とToyo Hosoya氏のアート作品もディスプレイされる。アート展示には無料で入れるので気軽に足を運べる。