トロント日本映画祭で上映 映画『マッチング』内田英治監督 インタビュー|#トロントを訪れた著名人
土屋太鳳さんと、佐久間大介さん出演のスリラー映画『マッチング』。主人公がマッチングアプリでの出会いをきっかけに、周囲で起きる事件に巻き込まれていく最後まで目が離せないストーリー展開。トロント日本映画祭に登壇するためカナダを訪れた内田監督に映画製作や今作品のこだわりについて話を伺った。
リラックスしたカナダの雰囲気の中での映画祭
―カナダの印象はいかがですか?
カナダには修学旅行でバンクーバーに来たことがあり、トロントは今回初めて来ました。率直な印象として、カナダ人は優しいなと感じました。アメリカ等の英語圏と違って気を張らなくていい、リラックスした雰囲気がありますね。
―幼少期はブラジルで過ごし、様々な海外の映画祭に参加されていますが、海外は緊張しますか?
とても緊張します。アジアはあまり緊張しませんが、アメリカ、フランス、イギリスなど欧米は緊張しますね。それに比べてカナダはリラックスできて良いなと感じているところです。
映画『マッチング』製作のきっかけと、監督お気に入りのシーン
―今回なぜマッチングアプリを題材にしようと思われたのですか?
私たちの時代は、携帯も無かったので、手紙や電話でドキドキしながら連絡していましたよね。
マッチングアプリが流行り始めた5年前くらいに興味を持つようになり、知らない人と会うという点で事件の匂いがしたんですよね。それが実際に多いことも知って。
でもマッチングアプリで結婚したスタッフもいるので、良いこともたくさんあるのは分かっています。そのスタッフは忙しくて、出会いやデートする時間が取れないから、映画と映画の撮影の合間に結婚したいと思いアプリに登録したそうで。
結婚して子供もいて、今も幸せに暮らしているのを見て、マッチングアプリには良い面もあるなと、断然興味が湧いたんです。
―作品の中で印象的だったシーンを教えてください。
湖が出てくるんですけど、その湖を探すのが大変でした。結果、魚を釣る専用の湖を借りたんですけど、そこで斉藤由貴さんにお芝居をしてもらって。異様な雰囲気が出ていて、個人的にはそこが好きでした。霧とかあった方が怖いと思って霧を作りましたが、霧がなくてそのままの方が怖いとなり、結局消しました。
自分が書きたいと思う作品を作ること
―内田監督はヒューマンドラマがメインのイメージがあります。『マッチング』はスリラー部門の作品ですが、製作のきっかけを教えていただけますか?
映画の全てのジャンルに挑戦してみたいと考えています。直前にラブストーリーも撮り、ヒューマンドラマも撮影できたので、今回はホラー・スリラーを製作しました。次回作はまた違うジャンルで、オリジナル作品の撮影も予定しています。
―オリジナル作品が多い理由と、ストーリーから書く難しさを教えてください。
実はオリジナル作品にこだわってはいないんです。ただ原作ものを製作する時は少し悔しい気持ちが湧いてきます。「良いもの書いてるな」と感じる方の原作や漫画は特に悔しいですよね。私も良いストーリーを自分で書きたいと思ってきます。ストーリーから書くときは、テーマが見つかれば書けます。ただそれが自分が書きたいものなのかどうかが難しくて、大切だと思います。
映画製作とAI技術の進歩。内田監督の想いを語る
―作り手として、AIの凄まじい進化はどのように受け止めていますか?
AIに人間が作ったものを超える物語を作れるのかは分からないですが、役者の声や顔を複製できる技術には興味があります。例えば声が撮れなかった場合にアフレコをしなくて良くなるので。明確なルールは必要ですが、この技術があればAIで全部出来てしまうという事実はありますね。
―作品づくりにおいて、AIは人間を超えられないと思いますか?
AIに超えられないものを超える自信はもう無いです(笑)。ただ、先日劇中で飾るポスターをAIに作らせたら何かに似ていたので、何かに似ている限りはまだまだだと感じます。何にも似ていないオリジナルのものができたときは怖いし、AIが人間を超える時なのかもしれないですね。でもアプリやフェイク動画などの問題も出てきてしまうので規制は必要になってきますね。ストーリー作りに関しては、しばらくAIと勝負していきたいですね(笑)。
超商業主義の中の映画の在り方
―映画業界における現在の商業主義をどのように受け止めていますか?
昔は映画の在り方もいっぱいありましたが、今は少なくなっているなと思います。例えば、昔はアートと商業を混ぜ合わせたものや、どちらなのかはっきりとしないものもありましたが、今はアートか、商業というようにシンプルにはっきりとした区分けになっているように思います。
私は映画は多くの方に観てもらってこそと思いますが、芸術を強調したような映画は、一部のアカデミックな方々が評価して、それでいいんだという風潮もあります。それは中流階級がごっそりいなくなったことが理由だと他の監督と話をしました。昔色んな映画を観ていた層がいなくなって、めちゃめちゃアート思考なアカデミックな方か、商業を観る方に分かれてしまい、真ん中がいなくなったことで、凄くシンプルになってきた気がしますね。
―そのような変化をどのようにお考えですか?
多様な映画を撮りたいと思っている若い後輩の監督に、もう少し色々な道を示してあげられたらなと思いますね。映画ってなんでも良くて、多様的で良いということを知ってもらいたいです。ただ、今の時代だとそうはいかないですね。
―海外の映画祭は同じような傾向にありますか?
海外の方が強いと感じます。実際に映画祭が世界的に減っていて、運営費が減っていて、多くの人が映画祭に行かなくなりましたから。昔は映画祭に行かないタイプの人もお祭り感覚で行っていましたが、最近はアカデミックな思考の人が多い気がします。映画も現代アートみたいになってきていると思います。昔は普通に暮らす人々でも映画に触れていたのに、最近はアカデミックな方だけがみて、アカデミックな方々の中だけ評価されてしまうような傾向です。ただ題材は貧困の話なども多くて、深いところですべてが繋がっている気がします。これからも、この傾向が強くなっていくと思っています。
海外で暮らす方に内田監督のおすすめ作品
―在外邦人の方に、おすすめしたい映画はありますか?
私は11歳までブラジルで育って、日本人なのに日本にいないからその頃日本に飢えていたんです。なので寅さんばかり観ていましたね(笑)。なので映画『男はつらいよ』をおすすめしたいです。
でもいざ日本に帰国してみると、あの世界観はなかったんですよね。すごい日本的で、日本人だと分かるものがあるんじゃないかと思います。欧米人は『男はつらいよ』が分からないと言うかもしれないし、そういった意味では日本人だからこそ楽しめる映画は『男はつらいよ』ではないかなと思います。
1971年、ブラジル生まれ。1999年にテレビドラマ『教習所物語』で脚本家デビューした後、2004年に映画『ガチャポン』で監督デビュー。『グレイトフルデッド』で海外映画祭初出品。2019年、脚本・監督を担ったNetflixシリーズ『全裸監督』が全世界に配信。さらに2020年の映画『ミッドナイトスワン』では、第44回日本アカデミー賞の最優秀作品賞を受賞。