NEW! オンタリオ州相続法・改正点のまとめ(その2)|カナダで暮らす-エステート・プラニング入門【第31話】
1. 結婚による遺言書の自動的撤回を廃止
これまでは、一部の例外を除き、結婚をすると結婚前に作成した遺言書が自動的に撤回されるという決まりがありました。そのため、特に再婚の場合など、結婚すると知らないうちに以前作成した遺言書が撤回され、遺言書を残していても、無遺言の扱いを受け、法定相続法が適用される結果を招いてきました。
今回の改正により、結婚による遺言書の自動的撤回する法律が廃止され、結婚前に作成した遺言書を守ることができるようになりました。なお、結婚・再婚の前に作成した遺言書の中では、新しい配偶者に配慮されていないことが多いため、結婚を機に遺言書を見直すことが大切でしょう。
2. 残された別居中の配偶者の扱いが大きく変更
これまでは、法律婚の夫婦の一方が別居中に死亡した場合、遺言のある・なしに関わらず、残された配偶者は、幸せな婚姻関係にある配偶者と同等の配偶者の権利を享受していました。しかし、別居から正式に離婚が成立するまで長い年月がかかることが多く、離婚成立前に亡くなると、疎遠な配偶者に相続権が生じ、紛争に発展するケースも珍しくありません。
今回の改正により、2022年1月1日以降に亡くなった方について、故人が別居中であった場合、残された故人の配偶者が、次の二つの両方の要件を満たせば、「別居中の配偶者(Separated Spouse)」とみなされ、離婚した前配偶者と同じように扱われることになりました。
要件① 故人の死亡日以前に以下のいずれかが起こっていたこと。
(a) 故人の死亡日から遡って3年間にわたり、故人とその配偶者が結婚の破綻により、別々に離れて暮らしていたこと、または、
(b) 故人とその配偶者が、別居契約書、裁判所命令、もしくは、家族仲裁判決により、結婚の破綻により生じる当事者間の権利義務に関して取り決めていたこと、及び、
要件② 故人の死亡日時点で、故人とその配偶者が、結婚の破綻により別々に離れて暮らしていたこと。
なお、このような新しい「別居中の配偶者」の権利に関し、次のような法改正が行われました。
その① 遺言書の中では、遺言者より先に死亡したとものとみなす
これまでは、遺言書の中で、別居中の配偶者が遺言執行人に任命され、相続人の一人になっていても、遺言者が死亡時に別居中であった事実は、遺言書の内容には影響しませんでした。
今回の改正により、遺言書に記載されている別居中の配偶者は、離婚した配偶者と同等の扱いを受けることになりました。すなわち、前述の要件を満たす「別居中の配偶者」は、遺言書の中で遺言者が逆の遺志を明記しない限り、遺言者より先に死亡したとみなされ、遺言執行人の任命の効果、及び、相続人としての資格もなくなります。なお、この改正点は、2022年1月1日以前に作成した遺言書についても適用されます。
その② 無遺言の場合、法定相続人ではなくなる
これまでは、別居中に遺言書を残さずに死亡した場合、別居中の配偶者は故人の法定相続人資格を有するため、疎遠の配偶者が故人の遺産の大部分を相続する結果を招いてきました。
今回の改正により、故人の別居中の配偶者が、前述の「別居中の配偶者」としての要件を満たせば、無遺言の場合の法定相続人としての資格はありません。
婚姻関係の変化とエステートプランの見直し
今回の法改正は、生命保険やRRSPなどのレジスタードプランの受取人指名には影響しないため、結婚・別居などの婚姻関係に変化がある場合は、遺言書も含め、総合的なエステートプランを見直しましょう(本コラム第4話をご参照)。
[おことわり] このコラムは、オンタリオ州法に関する一般情報の提供のみを目的とし、著者による法的助言を意図したものではありません。また、本コラムの情報は、2021年12月時点での情報に基づいており、今後法改正により内容が変更する可能性があることをご理解ください。