日本に本帰国する際のカナダ資産の対策|カナダで暮らす-エステート・プラニング入門【第33話】
カナダ資産を管理するための継続委任状
長年暮らしたカナダで財産を築き、日本帰国後も、カナダの財産を海外投資として維持したり、企業年金やCPPなどのカナダからの年金を受け取るために銀行口座を残したりと、皆さん様々な理由でカナダに財産を残していきます。
ご本人がお元気なうちは、日本に帰国後も、年金受給継続の手続きや、ご本人の口座間の送金など、ご本人が直接金融機関とやり取りをして対応することができます。しかし、ご本人が高齢になり、認知症などで判断能力が低下した場合、ご本人がカナダ資産の管理を続けることは難しくなります。
そこで、生前の円滑なカナダ資産の管理のために、財産管理のための継続委任状(Continuing/Durable Power of Attorney for Property)を作っておきましょう。オンタリオ州に財産を残して日本に帰国する場合は、オンタリオ州法に基づいた委任状を作成しておくと、もしものときに委任状で任命した信頼できる代理人に財産・事務行為を一任でき、スムーズに対応できます。
カナダの財産を扱う遺言書
カナダに財産を残して日本に帰国する場合は、カナダ財産を扱う遺言書を作成しておきましょう。遺言書がなければ、カナダ(財産が所在する州)の裁判所によるプロベイト手続き(遺産管財人任命の手続き)なしには、カナダに残した不動産の名義変更も売却も、銀行口座の解除もできません。また、日本の遺産分割協議書などの書類をカナダの金融機関に提出しても、難色を示す場合が多く、スムーズに手続きが進まない恐れがあります。
ちなみに、日本に帰国してから日本で遺言書を作成し、日本語の遺言書でカナダ財産の相続手続きを進めることも不可能ではありません。しかし実際に、カナダの金融機関や裁判所に対し、日本の遺言書で対応する労力や費用を考えると、カナダの法律(財産が所在する州法)に基づいたカナダ財産用の遺言書を作成しておけば、より円滑に相続手続きを進めることができます。
受取人指名(Beneficiary Designation)の確認を
遺言書を作成する際に、念のためカナダの金融機関にあるRRSPなどのレジスタードプランや、生命保険の受取人指名も確認しておきましょう。
財産目録と連絡先リストの作成
カナダに一定の財産を残して日本に帰国する際は、カナダに所在する財産の具体的情報(金融機関名、ご利用支店、口座番号、不動産の名義・所在地等)をまとめ、財産委任状の代理人や遺言執行人が見つけやすいように、委任状・遺言書と一緒に保管しておくとよいでしょう。また、日本・カナダのご友人やご家族、並びに、遺言書に記載された相続人の連絡先もまとめておきましょう。
結婚や離婚の証明書
日本で亡くなった方のカナダでのペンションや、カナダに残した財産の相続手続きを進める際に苦労するのが、その方の結婚や離婚事実の確認です。カナダで結婚・離婚した方は、カナダの各種証明書の原本や認証コピーを、日本で結婚・離婚した方は、日本の戸籍謄本を遺言書と一緒に保管しておくと、後々助かります。
カナダ資産の対策を忘れずに
以上のような問題は、死亡や判断能力喪失により、ご本人が自分の意思を伝えることができない状況になったときに発生します。カナダに少しでも財産を残して日本に帰国される場合は、きちんと準備をしておけば、残されたご家族の精神的・経済的な負担がかなり軽減されるのは間違いないでしょう。
[おことわり] このコラムは、オンタリオ州法に関する一般情報の提供のみを目的とし、著者による法的助言を意図したものではありません。また、本コラムの情報は、2022年3月時点での情報に基づいており、今後法改正により内容が変更する可能性があることをご理解ください。